決着の日~2028~


「……」


ワーカーは虚空を見つめていた。連続でくらった手榴弾。まるで地獄のような一時だったが、以前アフリカで無人航空機に狙われ続けた戦闘と比べると一瞬だ。そう考えると今回の方が気が楽で良かったと思える。


「あぁ…」


起き上がろとしても身体が重く動かない。今まで殺してきた被害者の怨念が纏わりつき、このまま地下まで引きずり込まれそうな重圧。果てはこのまま息苦しさで窒息しそうだ。肺が鷲掴みにされたように動かない。


「く….くく…」


今度こそ死んだのか、そう思うと突然笑いがこみ上げてきた。息ができないはずなのに引き笑いが小刻みに迸る。復讐が、まだだ。あの女。修羅場を乗り越えつつも何の苦労も背負わなさそうな表情。物事を悟ったかのように世界を立ち回る。何が旅人だ。綺麗事を並べられるのは自分が恵まれた能力だからだろうが。ハイダへの恨みが、糧がワーカーを駆り立てる。


「ぐ…ぉお…」


右手は動く、左脚も上がる。千切れても構わないと左手と右足も動かせるだけ思い切り力を込めると、自分に覆いかぶさっていた仲間の死体を押し除けた。どうやら吹き飛ばされた仲間によって爆風から守られていたようだ。しかし礼を言おうにも死体の顔面は表皮が焼け爛れた上、細かな鉄片が突き刺さっていた。眼球は熱風で白く濁りきり、外れた顎によって開かれた口内は真っ赤になって水分が飛んでいる。とてもじゃないが個人を判別できる状態にはなかった。


「誰だこいつ……あ?ドッグタグがねぇ…そうか!皆持ってねぇんだ!ハッ…はははは!!んだこれ?はははは!!」


ワーカーは破れた鼓膜にも届くよう、狂ったように歓喜する。ヘッドは、いや、神はまだ見捨ててはいない。そもそも信仰する神などとうの昔にいないが。かつての仲間のために動く自分に大義がある。正義がある。だから助かった。クレプラキスタンで袂を別ってから続けてきた行動全てを肯定されたようだ。


「まだ終わっちゃいねぇ!まだまだやれる!」


ワーカーはふらつきながらも立ち上がった。直前まで使っていた突撃銃はお釈迦になったものの、背中に挿していた散弾銃も、左脚の自動拳銃も、右のリボルバーもまだ無事だ。まだ戦える。


「コンティニュー…てか!」


まだ難聴気味だが一人だけで逃走するには問題ない。ダイスと仲間の爾落人の狙いは人質の奪還であり、目的が達せられればもう襲ってこないと踏んでいる。治安部隊は上手くやり過ごせる自信があった。ワーカーは背中から散弾銃を抜き取るとポンプを引いた。感触が固いがその分景気の良い装填音が響くと酔い痴れるように前進していった。
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