決着の日~2028~
「ん?」
ワーカーは戦況を分析しながら陣形前方へ移動する。その傍ら通信端末の着信に気がつくが一瞬だけ通話ボタンを押すのを躊躇う。忙しい局面だが仕方なしに出た。
『JQアダムズだ。悪い報せがある。先程の攻撃は失敗し、標的はロストした』
「ロスト?撃墜したのでは?」
『それはない。奴らはミサイルに気づいてから驚くべき早さでクラッキングを仕掛けてミサイルを自爆させたのだ。それから間もなく機影がレーダーから消えた。我々の手に余る連中だったというわけだ』
「事前準備の時点で勝敗が決まっていたようですな。仕方ありません。では」
ワーカーは会話の合間に銃撃の間隔を縫って何とか陣形前方まで進む。こうなったら綾の情報に全てがかかっている。何としてでも撤収しなければ。同時に前衛の傭兵は感づいた。
「来んな!あんたが出る幕はない。敵は一人だ」
「なに?」
その推測はワーカーも考えていたが、だとしたら疑念だった。戦力差があるならやり過ごせば良いものを、わざわざ攻撃をしかけるとは勝算があるかもしれない。もしくは別の目的があるのか。だとすると拘束された仲間の救出か。ワーカーは後方を確認したが敵の気配はない。
「…おかしいぜ」
八重樫は自動拳銃に持ち替えて数回銃撃した。今までと異なる景気の下がった銃声に傭兵は薄ら笑いを浮かべる。まるで自分の説が裏付けられたかのようだ。
「馬鹿が。メインアームの弾切れかよ。俺が行く、お前ら援護しろ!」
ワーカーの同意も待たずに飛び出した傭兵。腰を落とし、前傾姿勢でカービン銃を構えながら前進する。なるべく被弾面積を小さくした見事な動きだったが、単独で先行した様子は八重樫には筒抜けに等しい。
「……」
八重樫は再び突撃銃を持つと三点射。傭兵の喉から顎にかけて弾丸を穿つ。無防備な皮膚の三箇所から鮮血が吹き出すと脚がもつれて転倒した。射手と武器の一体化を成し得たマシーンの前に、ワーカーは舌打つが同時に傭兵の迂闊さを責めた。慢心による死亡なんて自己責任だ。単に奴がそれに値しないレベルの強さだっただけのこと。
「敵は頭がキレやがる。面白い」
「笑ってる場合か!さっさと移動したい。力を使ってくれ」
「仕方ねぇ」
ワーカーは軍犬を投影。十八番のモーションと猛スピードで八重樫まで走らせる。こうするだけで敵の注意を引きつけ、簡単に接近できる。今まではそうだった。
「そら行け!」
軍犬は八重樫へ飛びかかって牙を剥くがその口は八重樫の身体をすり抜けた。八重樫も動じず銃撃を続け、変わらず傭兵達は立ち止まったまま。最初から軍犬なんて見えていないか、幻であると分かっているかのような対応だ。
「どうした」
「まさか…」
ワーカーの脳裏にダイスとウォードが過った。捕捉か必視を持つなら投影に惑わされない。考え得る可能性に呆気に取られた瞬間、凌が動いた。