決着の日~2028~
「オスプレイ接近。どうやら合衆国陸軍機みたいです」
レーダーを監視していた一樹。モニターに表示された空路図に光点が一つある。岸田の事はとりあえず無視だ。無視するしかない。
「やっと増援が来たのね」
「でもおかしい。なんで自衛隊機じゃないんだ」
念力で傭兵をヘリポートから突き落とした綾を最後に全員が機内へ搭乗、ハッチは閉じられる。しかし直前に飛来した別のティルトローター機が機体の真上でホバリングを始めた。このままでは離陸できない。
「リーダー、上を取られた!離陸できない!」
「なに?」
蛍が咄嗟にインカムで通信を試みる。一樹も電脳で手伝い、真上の機体へ中継した。
「The aircraft must take off immediately evacuate
(本機はただちに離陸しなければなりません。退避しなさい)」
『Turn down be killed
(断る。大人しく殺されろ)』
蛍の表情が険しくなる。敵の妨害だ。幸いにも真下を攻撃する武装はなかったようだがこのままでは傭兵に追いつかれてしまう。
「上の機体は敵よ。わざと離陸を阻止しているわ」
「奴らの仲間の機体ということか。撤退用にあんなのを用意していたわけだ」
「しかし米軍に協力者が?」
次々と疑問が湧き上がるが今は謎解きより離陸が最優先。綾は腹を括る。時間と武器が限られ、物理的に詰んだ状況を打破するには「G」の能力者をおいて他ならない。自分しかいないのだ。
「私が行きます」
「でもあなたは消耗が…」
「やるしかないですよ。手榴弾をもらいます」
「お…おい」
綾は験司のポーチから手榴弾を強引に取り出すと再び機外へ。残された力は少ないがやれる事はやるしかない。綾は手持ちの手榴弾全ての安全ピンを同時に引き抜くと念力で弾き飛ばす。狙いは敵機左の回転翼。今は劣る念力の破壊力を手榴弾で補うのだ。
「!」
爆発で破壊される回転翼。片方の駆動だけではバランスを保てず敵機はヘリポートへ落下してくる。それを予期していた綾は全ての力を振り絞り、念力で岸田機から遠ざけるように押し出した。命に代えても機体を接触させてはならない。
「二階堂!」
「綾さん?!」
敵機はヘリポートから逸れて落下、地上へ墜落し爆発炎上した。力を使い果たした綾は立つ事もままならず膝から崩れ落ちる。昏倒した綾を回収しようと丈と歩が機外へ出そうとするが、同時にバリケードが突破され傭兵が雪崩れ込んできた。
「うぉぉぉお!」
「兄者!」
躊躇した歩とは対照的に銃撃をものともせず飛び出す丈。しかしすぐに左太ももに銃弾をもらい、脚を引きずりながら機内へ転がり戻る。負傷したままでは綾への距離は長い。敵銃撃が激しくなっていく中歩は決意する。
「…兄者、僕が行くよ」
「危険だ」
「そうだね。でもやれる」
「…止めても無駄のようだな」
「うん」
しかしハッチは閉じられた。驚いた歩が振り返ると験司が開閉レバーを操作していた。信じられない光景に歩が珍しく声を荒げる。
「リーダー!なんで…」
「岸田、離陸だ!」
「でも…」
「このままじゃ皆殺しだ!怪我人巻き込んで死にてぇのか!」
「リーダー!」
非情な指示なのは分かっている。しかしこれ以上立ち往生していれば機体すら破壊されかねない。部下や生存者のためにも、どんなに非難されても構わない。験司は心を鬼にして声を荒げる。
「命令だ!できないならオレが操縦する!」
「…了解」
岸田はとりあえず機体を離陸させた。どれが最善か自分では判断がつかなかったからだ。
「……」
機体は両翼を仰角に傾けて急速に地上から遠ざかる。験司は窓から眼下を見ると綾が傭兵に包囲されていく様が見えた。験司は何もできず、悲痛な面持ちで見下ろすしかできなかった。