決着の日~2028~
「浦園三佐!突破されました!」
「あぁこっちもだ!プランB!」
験司の命令で全ての機関銃手は最上階付近の階段へ移動した。エレベーターは使用不能のためヘリポートへ上がってくる傭兵は階段を使うしかない。ここに張っていれば必ず遭遇する。残弾の消耗とタイムリミットが気がかりだが短時間の籠城なら堅い。
「頼むぞ。絶対に食い止めろ」
験司はヘリポートへ上がるとGnosisの面々が駆け寄ってきた。ここにも銃声は筒抜けであり、生存者は怯えきっている。
「状況はどうです?」
「敵が侵入した。まだ何分かは食い止められるがいよいよ岸田待ちだぜ」
「験司、その傷…」
「コンドウさん、蜘蛛の巣の糸を集めてきてもらえるかしら。このハンカチを使って頂戴」
「え?…はい」
験司の右腕を遠目から見た引田。病棟勤務時代に何度も見てきた傷だ。どのよつな経緯で負ったのか想像がついた。
「引田、後でいい」
「今は手当も大事よ。迎撃は任せて傷を見せなさい」
引田は験司を諭すように、それながらも有無を言わさぬ態度だ。やはり年長者の凄みには自分が上官でありながらも逆らえない。験司は袖を捲ると止血に使っていたベルトを脇にまで上げた。
「…頼む」
「ありがとう」
「なんでお前が礼を言うんだ」
代わりに礼を言う蛍に少し吹き出した
引田はテキパキと患部を診ていく。
「貫通銃創ね。とりあえずは有り物で止血をして、後で手当すれば良いわ」
「それなら岸田の乗ってくる機体に医療キット一式があるはずね」
「えぇ、それを使いましょう。今は応急処置として…コンドウさん」
「すいません。これしか取れなくて…」
戻ってきたコンドウの手のひらに広げられたハンカチ。そこには二本指程度の蜘蛛の糸しか採れていない。しかし蜘蛛本体とある程度の埃は取り除かれた、比較的綺麗なものだ。
「これだけあれば十分よ」
「何に使うの?」
引田は験司の患部に蜘蛛の糸を一気にねじ込んだ。銃創の裂かれた肉を糸で埋めるように押し出す。
「えぇ?!」
「嘘ぉ…」
受け入れ難い光景に驚く蛍と卒倒しそうになるコンドウ。当の験司本人は呆然が痛覚よりも勝っていた。
「蜘蛛の糸には血を固める効果があるの」
「そうなのか…驚いたぜ」
「さ、後はなるべく安静にしてもらいたいところだけど…」
「状況がそれを許せばな」
そんな事は許さないと言わんばかりにたちまち銃声が響くのであった。