決着の日~2028~


ワーカーはC棟前まで侵攻すると一旦停止した。仲間を散開させて自分は巨大なオブジェを陰にすると完全武装の傭兵を数人投影。わざと晒すように走らせた。斥候だ。


銃声。敵弾幕はアスファルトに当たり火花を散らす。ワーカーは手慣れた様子で投影が射殺されたように倒れさせた。これで防衛には機関銃が二丁は置いてあると分かる。攻め込むには少し骨が折れそうだと。


「仕返しだ。クソ野朗ども」


続いてワーカーは無人攻撃機を投影した。先程自分達を攻撃してきたものと同一の機種。ヘリポートへ見せびらかすように旋回させると、警備は機関銃を使って牽制を始めた。弾丸の消耗とリソースを割く狙いだ。


「怪獣を使った方が早いのでは?」
「馬鹿野郎。折角クライアントが自衛隊の出動が遅れるように根回ししてんだ。日本は怪獣と人間相手じゃ即応体制に差があるんだぜ。外部にはあくまで対人だと思い込ませねぇと」
「変な国だな」


アウェーの環境では少しでも脅威は減らさねばならない。ワーカーはもう一機投影を増やすと敵の銃声が増えた。


「あれは…」
「宮代君!」


蛍と綾に呼ばれた一樹。二人が何を言いたいのかすぐに汲み取れた。


「自衛隊機じゃないすね。確かめる術はないけど」
「敵ならなんで攻撃してこないのかしら?」
「念撃で翼をもげないですか」
「難しいわね。今の私じゃ射程も威力も足りないわ。出番は敵の接近が水際まで許された時よ」


C棟へ戻ってくる八重樫と凌も上空の無人機に気づいた。念の為に一旦立ち止まる。


「あれは…一樹の援護ですかね」
「あの状況で端末の復旧は考えにくい。恐らく敵だ」


八重樫はスコープで無人攻撃機を覗く。しかし肉眼で捉えるタイミングとスコープに映るのと少しタイムラグがある違和感に、ワーカーの面影が一致した。投影を監視カメラやスコープ越しで見ればどうなるかと検証した時の事だ。


「これは…」
「どうです?」
「爾落人の作り出した幻の可能性がある。敵は俺の知っている奴かもしれない」


凌は少し期待してしまった。知り合いなら戦わずして撤退させる方法もあるのかもしれない。


「その場合対話は通用しない」
「え?」
「どちらにせよ幻を見せる能力なんて他にも使い手がいるはずだ。会敵したら殺すつもりでいけ」
「はい」
「行くぞ」



「行くぜ!」


ワーカーも動いた。敵機関銃の曳光弾から射手の位置を把握すると仲間に銃撃させて揺さぶった。さらに投影にも援護させると仲間を突入させた。敵の反撃のタイミングを見て自分も移動し全員が棟内に侵入。人的損耗なしでサモアの送り出した別働隊と合流した。


「スタイルズから応答がありません」
「構うな。いつもの事だ」


スタイルズの命令無視は遺憾だがそれとは別に実力は信用していた。どうせ先行したか後から追いつくだろう。ワーカーはサモアとスタイルズの死亡に気づく由もない。


「エレベーターは使用不可」
「だろうな。階段で行く。トラップと待ち伏せに注意しろ。チェンとラットンは残って警戒、サモアと合流して指示を待て」
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