決着の日~2028~
験司は引き金から右手を離すとボルトハンドルを引いて空薬莢を排出させる。そして再びハンドルを戻して弾丸を再装填。一発ずつ手動でこなすためその間に仕留め損ねた敵を見失う恐れがあるのだが、今回は使った狙撃銃の仕様上避けられない作業だ。
「……」
次の傭兵に狙いをつける験司。今度は仕留めるように集中していたが、音速で掠めてきた弾丸に反射的に身を隠した。敵の対応が早い。自分が反撃を受けるのはもう少し後だと踏んでいた。
「なんだと…」
あと少しズレていれば左目に被弾していた。だがここで怯えていては迎撃は果たせない。今こうして身を隠している間にも傭兵はこちらに接近しているからだ。敵の狙撃の狙いは明白だった。例え一撃で験司を殺せなくても仲間が侵攻するまで釘付けにできれば良い。
「クソッ」
験司は先程の記憶を頼りにサモアの現在地に当たりをつけた。さっき傭兵達が立ち往生した場所からの攻撃に違いない。験司は照準器の倍率を少し下げ、視野を広く確保してから別の窓から身を晒す。だが験司の予想は当たっていたのだが既にサモアは移動していた。
「いねぇ…?」
呆気に取られた験司。しかし我に帰った頃には別室から狙撃していた警備が仕留められていた。弾丸の通過した気配と頭蓋骨を突き抜ける快音。殺されたのが空気で分かる。すぐに相棒を殺された観測手が腰を抜かしながら験司の元へやって来た。
「さ…斎藤がやられた!」
「スポッターやれ。一人じゃ敵を倒せねぇ」
「は…はい」
その時だ。間隔の短い破裂音。機関銃の銃声が轟いた。験司とは反対側に展開する警備の攻撃が始まった。傭兵は両面攻撃を仕掛けたようだ。戦力の分断は無駄にはならなかった事に安堵したのも束の間、今度は向こう側の弾切れの不安がよぎり始めた。