みぎうで


「ウォード、どうだ?」
「透視で確認した。周辺は丸腰の住民しかいない」


遅れて三人に合流したウォード。今の容姿からは判別し辛いが欧州方面の出身であり、アイスブルーの瞳がトレードマークだった。彼は五つ目の武装として狙撃銃を担ぎ、目の保護に特化したゴーグルを装着。五人の中では装備のウェイトが偏っている。


「今日の狙撃も見事でした」
「スアレス、今のお前もあの程度ならできるだろう」


人類史上狙撃銃の発明はウォードの相性とピッタリだった。元々のメインアームであった弓矢と違い曲射ができないのは不満を抱いているが、その上でも狙撃銃の扱いは誇れるものであった。先程はダイスの捕捉を元にサーマルイメージャーと望遠を駆使して陸軍スナイパーを見つけ出し、さらに透視で衛生兵と通信兵を特定すると優先して狙撃したのだった。


「ワーカー、さっさと終わらせろ」
「分かってるって」


北米方面出身のワーカーは五つ目の武装で散弾銃を、さらに得意とする早撃ち用のリボルバー拳銃も携帯しており、やや接近戦に傾倒した本人の性格もあってウォードとは別ベクトルの重装備だ。
先程兵員が戦わされた武装兵も彼の投影の能力によるもので、リアルかつ上限なく同時に操作できる器用さが猛威を振るう。しかしどんなにたくさん、マズルフラッシュを含めて投影しても銃声までは再現できない。サイレンサーを装着させたのは発砲音まで再現できないことを配慮させた結果であった。また先程壁を投影して待ち伏せ、不意打ちで掃射できたのも投影の賜物だ。


「さすが俺の祖国だ、いいモン使ってるな」
「こんな末端にもこれが出回ってるのか。俺の時はなかったのに」


ベイルとスアレスが感嘆の声をあげながら死体の医薬品や未使用の弾薬をひん剥くとベルトに詰めていく。米国陸軍の採用されている消耗品は必ず回収し、自分達で再利用しているのだ。


「少し撃たせすぎたな。弾が少ない」
「錯乱状態に入るのが早かったからな。ハハッ」


ワーカーは胸からナイフを取り出し、先程射殺した死体の前に屈むと何かをし始めた。またか、とダイスはため息をつく。


「死体の人差し指を切り落としてそんなに楽しいのか?」
「楽しいね。敵だった兵士があの世でも引き金を引けなくなると思うとゾクゾクするぜ」
「なんてな、は言わないのか?」
「あぁ、これは本気だ」


ワーカーは切断した人差し指を適当な場所に放ると次の死体に向かう。それを横目で見ているスアレスとベイル。彼らは人間で、三人が爾落人だと知った上で行動を共にしているが、最初はワーカーに引いていた二人であった。皆が思っていることだが、指を持ち帰らないだけマシか。


ワーカーがおかしくなり始めたのは今世紀に入ってからだ。当時は気にする程ではなかったがここ十数年でそれが顕著になり始めた。自分達が射殺した敵の利き腕の人差し指を切断することで勝利した優越感に浸る。それがワーカーの癖になった。


「それがお前の流儀であるなら、俺もウォードも止めやしない。だが自分の行動には責任を持て」
「分かってるさ」


ワーカーはナイフを握る手を止めなかった。
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