決着の日~2028~


「来たぞ!」


その頃ヘリポートにも動きがあった。傭兵達が二方向から侵攻してきたのだ。ワーカーとサモアがヘリポートを挟み撃ちにする形で地上から接近してきている。験司は共に死守する警備数人とサモア率いるチームと相対した。


「よりにもよってここに来たか…」


ここには狙撃銃が二丁しか配置されていない。残存する武器を東西南北に分散して配置したため火力に乏しい「ハズレ」がここだ。他には機関銃を置いているために悔やまれたが今更配置を入れ替えても間に合わない。悪運を呪うしかなかった。唯一の幸運はスコープの明度、倍率共にダイヤルで調整済みでの会敵だった事だ。


「あいつらも上手くやってくれよ…」


験司は狙撃銃のストックを右肩に当て、左手で銃身を保持し窓枠に固定した。狙撃用の大型照準器を右目で覗き込み、左目を閉じ続ける行為が何千何万と狙撃訓練してきた日々を思い出す。


「……」


風向きを読み、十字のレティクル中心部より若干左寄りにずらして射撃。すると風力の影響を受けた弾丸は風に流されて見事に傭兵の胸へ着弾。


「ジョーンズ!」


仲間の死に気を取られながらも遮蔽物へ一旦避けるサモア達。なるべく上空に気をつけていたがここまで正確な狙撃手がいるとは思っていなかったようだ。狙撃手は兵士にとって一方的に蹂躙される嫌な存在。大体の兵士が狙撃手に対抗できる武器の射程外から襲われるためだ。しかしこの場で一人立ち向かう者がいた。


「皆行って!私がやる!」


皆が屋内戦に長けた取り回しの良い装備する中一人だけ少し長物の自動小銃を備えていたサモア。マークスマンと呼ばれる、歩兵に随伴する射撃の名手だ。マークスマンは仲間のマガジンと互換性を持たせながらも皆より長い射程の銃を持つ。現場では重宝され、今の場合だと敵狙撃手に反撃が可能になる。


「さぁ…どこだ」


サモアは突撃銃のセレクターを単射に切り替えて居残る。仲間はサモアを残して隊形を組み、互いに援護しながら前進を続けた。道中に立ちはだかる警備はいなかったが、念のためにクリアリングは欠かさない。やがてその内の一人が新たに狙撃を受けたが、今度は狙いが外れたか左脚を撃たれたようだ。


「なんでだよ」


験司はあえて殺さないよう狙撃した。負傷者を増やす事で救助に人手を割かせるつもりだったが、傭兵達は負傷者には目もくれず隊列だけを修正して前進を続けたのだ。そしてもう一つの誤算。


「あそこか…」


マズルフラッシュ。発砲時に銃口が火薬で光る現象。構造上仕方のないものだ。最近の自動小銃はフラッシュを抑える加工を施されているが、夕暮れ時徐々に暗くなっていく空も味方してサモアはその僅かな瞬間を見逃さなかった。


「……」


サモアは験司の位置に目星をつけるとショートライフルスコープの倍率を上げる。それ自体は精密狙撃向きではなかったが今の距離では大した問題ではない。サモアは乾いた唇を舌の唾液で潤すと重めの引き金を引いた。
65/96ページ
スキ