決着の日~2028~


「……」


二人は姿を消し、スタイルズ達を待ち伏せていた。無言で気配を殺す二人を見つけるには捕捉や体温くらいしかないだろう。当然スタイルズ達が察知する術はなく、二人は間近を通過してくる傭兵達をやり過ごす。敵は二人へは目もくれず前進していき容易く隊列の最後尾につく事ができた。


「……」


八重樫は凌の肩を叩き、その回数で前から何番目の傭兵が能力者であると報せる。時折振り向いて後方を警戒する最後尾の傭兵に気をつけながら、凌はスタイルズを狙って光刃を振るう。空を斬る音に振り向いた最後尾の傭兵。飛んできた斬撃波を目視した頃には自分の胸を通過。斬撃波は縦列で進む傭兵達を貫通してコンクリートの壁に傷跡を残した。


「ん?」


スタイルズは頭から転倒した。両手を地面に着いて勢いを軽減するのもままならず、頭を打ち付ける。何とか起き上がろうと動くが、打ちどころが悪かったのか腕に力が入らない。また頭部の鈍痛だけに留まらず、遅れて下腹部も激痛が走った。


「く…そ……?」


スタイルズは今までに感じた事のない痛みに抵抗する中、同時に不思議な光景を目にした。何かが倒れた音に視線を向けると人間の下半身だけが、仰向けになりながら痙攣していた。ワーカーによる幻覚かと訳が分からずにいたスタイルズであったが数秒後には戦慄する。その下半身のレッグホルスターには自分の愛用する自動拳銃が挿さっていたのだ。


「なに…」


スタイルズは上がり続ける心拍数と呼吸を抑えつけながら自分の下半身へ手を伸ばす。しかしそこにあるべき脚が、腰から下の身体がなかった。パニックのあまり勢いあまって触れてしまった背骨の感触がぬるりと指先を這う。


「あ…あぁああぁああぁぁあぁあぁ!!!!」


あまり出血がなかったのは断面が少し焼かれていたからであったのだが、そこまで考察する余裕は死ぬ間際の人間にはない。歴戦の傭兵もパニックに陥りながら仲間に助けを求めたが、それらも同様に身体を両断されていた。一体何の兵器の仕業なのか。見当もつかないままブラックアウトしていく視界に映る二人の影。カメレオンが僅かに動いて揺らいだような光景に、その存在の仕業だと直感した。


「ぐ…ぞおぉぉ!」


死は免れないのは分かっている。それでも最後に一矢報いるため突撃銃を向けようと片手で持ち上げた。命令違反した手前無様に野垂れ死ぬのだけは避けたかった執念がそれを成していたし、死後ワーカーに嘲笑われるのだけは癪だ。しかしまだ息があるのを捕捉で知った八重樫により仕留められた。ややオーバーキル気味だがその油断が生死を分ける場面である以上徹底しなければならない。


「クリア」
「呆気なかったですね」


凌は目の前に転がる死体を見回すが不思議と感情は湧いてこない。決して人が人足り得る死に方ではなかったが、どんなやり方にしろ殺されるリスクは敵も承知だったはずで自業自得。しかし凌は自分の成した殺人に目を背けずに受け止めた。
64/96ページ
スキ