決着の日~2028~
ワーカーは生き残りの傭兵と合流すると状況をまとめ上げた。残存戦力の把握と被害状況。ジェフへの空爆を辛うじて逃げ延びたサモアと自分に戦力を二手に分けた。それとジェフの死亡について、ヘリポートにいる不明戦力と無人攻撃機は関係していると見た。それらがジェフを殺したのだと。
「まだターゲットは見つかっていないぜ」
「分かってる」
無関係の警備や職員は粗方始末したが未だに見つからない標的が気がかりだ。襲撃時に押さえたゲート守衛室から標的の出勤を確認しており退勤はない。消去法でいくと、不明戦力の陣取る未制圧のヘリポートに標的はいる可能性がある。
「全隊、C棟へ向かえ。ヘリポートにいる連中を皆殺しにしろ。退路は気にするな。スタイルズだけは現在地に待機しておけ」
ワーカーは不明戦力がヘリポートに陣取り続ける意味について結論を出していた。簡単な推理。迎えの航空機が来るという事だ。予想が当たっていれば標的は今にも逃げ出そうとしている。
「楽しくなってきたなぁおい」
ワーカーは表情を歪ませた。これで心置きなく仕事ができる。タイムリミットが気になるところだがそこはどうにでもなるし、なにより逃げ場のない連中を追い立てる事が楽しみでしょうがない。
『おい、俺も行く』
「スタイルズは待機だと言ったろうが」
スタイルズは航空機迎撃要員で温存しておく必要があった。下手に白兵戦で死亡したりすれば標的を逃してしまう恐れがある。しかしワーカーとスタイルズが一緒にいるわけでもなく直接制止する者はいなかった。
「クソ…俺の命令を無視するからには結果を出せ」
『分かってる』
「俺は南から行く。サモアは北からだ」
『了解』
スタイルズも勝手にチームを率いると前進を始めた。スタイルズの動きはすぐに八重樫も感知した。待機すればいいのに侵攻してくるスタイルズに怪訝な八重樫、思わず前進を止めて思慮する。セオリーに当てはまらない敵に困惑した。
「奴が動いた。このままでは真正面から接触する。あと爾落人も動いた。どちらもヘリポートへ接近する方向だ」
「どうしますか?」
「能力者が先だ。待ち伏せて一網打尽にするぞ」
「了解」
八重樫は突撃銃で進行方向を警戒しながら進む。ショートライフルスコープで捕捉した人間を目視し、索敵しながら狙撃手に注意を払う。また足元のトラップにも気をつけなければならない。指向性の地雷なんて置かれていればひとたまりもない。
「敵とはいえほとんどが普通の人間だ。殺す覚悟はあるな?」
「…もちろん」
覚悟があるのは分かっている。だが改めて確認しておく必要があると思ったからだ。守るための戦いという大義名分があっても大量の人殺しになるにはそれなりの決心がいる。それで人格が壊れてきた傭兵も少なくなかった。
「互いにベストを尽くさなければ人間相手でも俺達は殺されるだろう。…東條、お前の光撃もアテにしている」
「はい」
八重樫は凌に背中を預けると、いよいよの多対二の対人戦に緊張が走った。逮捕や逃亡目的だった「G」ハンター戦とは違い、本気で殺しに来る敵へミスは許されない。凌は平静を保とうと努めた。