決着の日~2028~


蛍はヘリポートにいる全員に使える端末を持っていないか募ったが、全体的に電磁パルスをくらったためか一人も持ち合わせはない。戻ってきた凌と角兄弟にも尋ねたが端末は例外なく無力化されていた。八重樫は口を開く。


「活路は一つしかない。岸田が到着する前にEMPの能力者を始末する」
「でも…どうやって」
「ここから狙撃できるのか?」
「不可能だ。だから俺と東條が直接強襲する」
「でもそれじゃピックアップに間に合いませんよね?」


蛍が粗を突いてきた。このヘリポートは17階建てビルに相当する棟で階段で上がるには時間がかかる。仮に岸田が無事に到着しても長時間待たせるのは危険だし、だからといって地上に着陸させるのも躊躇われる。状況が八重樫達を完全に追い込んでいた。


「その場合構わず離陸しろ」
「そんな!」
「大丈夫だ。万が一乗り損ねても俺と東條だけなら地上から強行突破はできる」


誰も代替案を言い出せる者はいなかった。確かにそれ以外の方法がないからだ。接敵しながら捕捉で能力者を特定し、光撃で強襲。現状の戦力ではこれが最善の策だった。二人を援護する用意を始めた一同。慌ただしく行き来する中八重樫は隙を見ると験司に耳打ちした。


「生存者含めた今の人数ではオスプレイには全員乗れない。どのみち二人分定員オーバーだ」
「そうか…すまねぇな」
「気にするな」


それから八重樫はヘリポート防衛についての細かな指示を出し始めた。


「……」


綾は凌の背中にあるマガジンポーチに八重樫用の弾倉を挿入した。綾に背中を預けている凌は途中一言も喋らず覚悟を決めていた。綾も無言のまま黙々と作業を進めている。


「終わったわ」
「…必ず戻ります」
「そ。生きて帰ってきたら好きなだけ胸を揉んでいいわ」


綾はまるで他人事のように言い放ったが、凌にとっては鼓舞されたようだ。同時に張り詰めていた表情は軟化し、いつもの歳下相応の目になる。


「言いましたからね?覚えててくださいよ」


凌は右手で拳を握って自身の左胸を軽く叩くとはにかんでみせた。砕けた笑顔を見て安心したのか綾も微笑み返す。


「悪いが時間がない。すぐに行くぞ」
「はい」


綾に見送られながら、八重樫と凌はベルトにカラビナを装着してワイヤーで棟の壁面を懸垂降下していった。十メートル間隔で区切りながら足を着いて降りていく、登山家やレスキュー隊が多用する移動方だ。階段を降りていくより時間の短縮と体力を温存できる上、訓練を積めば素早い。ヘリポートに残された験司は警備と共に機関銃を撃って威嚇し、無防備な二人への狙撃を牽制した。やがて地上に到達した二人はカラビナを外し、突撃銃を構えた八重樫を先頭に移動を開始した。


「頼むぜ…」


験司は狙撃銃で警戒にあたる。自分達の今の役割はヘリポートへの敵の侵入を阻止する事だ。信号弾も回収できなかったため成功の有無を告げる連絡手段はない。互いの成功だけが前提の脱出計画はただ祈るしかなかった。
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