決着の日~2028~
「どうです?」
「外れた」
一樹は八重樫の指示でワーカーを空爆した。籠城戦を見越し、残りの爾落人と能力者の排除を第一目標として先制攻撃を仕掛けたのだ。一つネックだったのがワーカーの現在地がヘリポートからは死角で、レーザー誘導できずカメラの目視でしか照準できない事だった。空対空ミサイルをマニュアルで発射したのは良かったものの、狙いは若干ズレたようだ。
「残弾は?」
「一番機はなし」
「一番機を能力者に特攻、二番機を降下して攻撃態勢へ。爾落人を再度狙う」
「了解」
一樹はタフブック経由で無人攻撃機に指示を送る。画面には二機のフレキシブルカメラが捉えた映像が、それぞれの高度から地上を拡大したものが映し出されていた。しかしどちらも解像度が粗く敵にワーカーがいるとは分かっていないようだった。
「八重樫さん!」
「無事だったか」
凌と験司以下Gnosis一同、生き残りの職員と警備を含めた他の生存者がヘリポートへ上がってきた。綾や蛍は職員を落ち着かせると引田の指示で負傷者の応急手当を始める。凌は消耗しているであろう綾へ目配せするが、今は構うなとアイコンタクトで返されて験司と八重樫の元へ向かった。
「生存者はこれだけか?」
「あぁ。他は運良く逃げ果せたか殺されたかだろうな。状況はどうだ?」
「籠城を見越して爾落人と能力者を先に排除する。リーパーで攻撃中だ。迎えはいつになる?」
「早くても20分後だろうな。スムーズにいっても離陸はまだだろ」
「持ち堪えるしかないな。浦園は使える武器をチェックして四隅に配置、接近する敵がいれば迎撃しろ。殺さなくても釘付けにしておけばいい」
「任せろ」
験司は連れてきた警備全員を呼び出す。皆突然の実戦で狼狽ているが戦意は失っていないようだ。験司の指示で使用可能な機関銃や狙撃銃を弾薬と共に配置、人員を割り振った。
「東條、早速だがエレベーターのワイヤーを切っておけ」
「はい」
ここから徒歩で離脱する選択肢がない以上、エレベーターは不要だ。自ら退路を一つ断つ形にはなるが、敵に利用されるよりかは使用不能にするのがいい。
「俺達も行こう」
「助かります」
エレベーターホールに向かう凌に角兄弟も随伴した。二人はエレベーターの乗場戸を素手でこじ開け、目一杯広げると目の前には昇降路が見えた。規則的に設置されたガイドレールが完成されたパズルのような美しさだが、どこか無感情さを感じさせる。普段ならお目にかかる事のない光景だが特に感想を漏らす余裕もない。凌は下を覗き込むと籠は二階ほど下の階に止まっていた。
「二人とも下がって」
凌は右腕から光刃を発生させるといつもより長めに伸ばして横に一振り。目の前のワイヤーを斬った。さらに昇降路に身を乗り出すと再び光刃を振るい、三日月状の斬撃波を飛ばして他のレーンのワイヤーを切断した。これで全ての籠は使えない。
「……」
奈落の底に落ちていく籠を見下ろす凌。ほぼ最上層から地上に激突した音と風圧が立ち昇り目眩がした。それがこれから始まる激闘の幕開けであった。