決着の日~2028~


「がはっ!ぐぅぅ…」


ワーカーは気を失っていたようだ。咄嗟に周りに敵がいないか見回すが誰もいない。またどれくらい時間が経ったのか分からず、腕時計を確認したがものの十数秒だったようだ。爆音で難聴気味の耳を叩きながら煤けた顔を腕で拭う。手放した武器を回収して銃身をしごいて歪みをチェックした。そして思い出したかのようにぶり返す苦痛。


「クソ…痛ぇ」


あの爆風をくらった割には身体も問題なく動けているようだ。骨折などはなく擦り傷程度で済んでいる。しかし目の前にはミズノの一切の痕跡は残されていない。そこで結びつく走馬灯のように思い起こされたハンヴィー内での一幕。これがきっかけとなり最近の出来事が一つに繋がった。


「……」


ミズノという「人間」は確かに存在した。気態の爾落人ミズノは融沸というワードから生み出された架空の存在。ワーカーはリストを見たあの時、動揺のあまりミズノを自動拳銃で既に殺害していたのだ。その上リストは持ち出して処分したが死体と車は処分しきれず現地警察に発見された。だから射撃訓練の時に一発弾丸が少なかった。だから同行したミズノに傭兵達は訝しんだ。だから気体になったミズノを勘で捉えられなかった。殺した後のミズノは自分にしか見えていない幻だったのだ。ショックを引きずり続け、一人道化を演じていた。


「フフッ…ハハハハハ!」


ワーカーは安堵のあまり気が狂ったように笑いこけた。今まで出した事のない声量で笑い疲れ、涙を拭うと振り向き様に散弾銃を撃つ。すると背後に迫っていた警備を殺害した。


「がぁ!」
「!」


それにしても気にかかる事が一つ。さっきまでのミズノは幻でも爆発は現実に起きた。何故爆発したのかを考えるが、真っ先に思い浮かんだのは無人攻撃機。昔の嫌な思い出がそう直感させ、空を見上げると目視で小さな影を捉えた。正気に戻してくれたのは感謝するがそれは今回だけ。ワーカーは通信端末を仲間に繋いだ。


「スタイルズ、出番だ。上にUAV(無人航空機)。撃ち墜とせ」
59/96ページ
スキ