決着の日~2028~
「眠らないのか?」
悪路で揺れるハンヴィー。元々がオフロードを走る輸送車輌として設計されたものの、ペイロードを埋めてしまってはそこらの車輌と変わらない圧迫感になるのが現実の性。車内には疲れた様子のスアレスとベイルがシートにもたれ掛かるようにして寝息を立てている。時間帯も深夜で、警戒地域ではないために銃座には誰も就いていない。一日の半分以上を戦闘と移動に費やしていた今日の中では唯一休める時間であった。しかし全員が一緒に休むにはいかない。必ず誰かが警戒し、誰かが運転を続けて移動させる必要があった。
「私は、大丈夫ですから」
運転を交代したダイスが本日最大の出来事である、突如として邂逅したハイダに問いかけた。ハイダは努めて平常を装っていた。思念の応用で疲労を抑制しているのが明白だった。彼女も人である以上疲弊しないはずがなく、取り繕っている。見知らぬ男達に囲まれたまま狭い車内で無防備に寝るわけにもいかないのだろう。
「そう言うのならいいが。肝心な時に空回るのは御免被るぞ」
「それはこちらの台詞です」
ハイダは車内を見回す。先程から武装したまま爆睡するスアレスとベイルは勿論、ハイダに対抗策のないウォードも開き直って熟睡している。
「移動中は暇でしょうがねえや。ハイダ、お前過去にすげぇ冒険譚とかないのか?それかすげぇ爾落人の武勇伝とか」
通常運転のワーカーのタフさが羨ましく思える。当の本人は先程ハイダを本気で殺そうとしたのを忘れたとしか思えない面の皮の厚さだ。ハイダも因縁は気にしつつも無駄だと分かっているのか、この場のワーカーに対しては適当にいなす受け答えをしていた。
「ここで語るほど立派な旅なんてしてませんよ」
「嘘をつけ。危険な橋を渡った事なんてねぇ爾落人なんているもんか」
確かに正論だ。今の時代に天然記念物レベルの平和ボケした爾落人はいない。利害関係の一致以外に傭兵と交流する義理はないが、それではワーカーに言い負かされた気分になると思われた。暗示抜きに少し冴えてきた脳が活発に動き始め、過去の記憶を掘り起こす。ここは当たり障りのない話しをする。時間や電磁、変化、心理、視解。生存していると思われる者達の情報については伏せればいい。
「では、関わった爾落人の中から一人だけ」
白羽の矢が立ったのは、能力以前に人格が幼稚な男だった。没年当時は200歳ほどだったか。今思えば何故ベルドールに見込まれていたのかすら疑問の実力の彼。自分が言えた義理ではないのかもしれないが。
「以前の仕事仲間の爾落人に融沸という…」