決着の日~2028~


『良いのですか?あなただけ抜け出してしまって』
「いいんだ。俺は俺で外からの増援を食い止める」


ワーカーはミズノを連れて来ていた。人気のないここで決着をつける。リストの報告を挙げる前にミズノを殺す、最初で最後のチャンスだった。遠くから銃声が響き始め、騒々しくなってくる。


『この手は電撃作戦が肝。早く現場で指揮して離脱しなければ』
「心配しなくてもいい。この国の役所は縄張り争いが絶えなくてな。現地警察はここには出張って来ない。自衛隊とやらは出動案件か悩んですぐには出てきやしねぇさ」
『日本の事をよくご存知で』


この辺りでいい。ワーカーは右手に意識を集中した。早撃ちで仕留める。できればナイフを使いたかったが仕留め損ねれば証拠が残る上、能力によっては至近距離で反撃を受ける恐れもあった。ここは自慢の早撃ちが無難だ。


「!」


リボルバー拳銃の発砲。何百回何千回と繰り返し洗練された動作は今回も滞りなく発揮され、その銃声が周りの自動小銃の反響音に紛れる。音だけでは分かり辛いが、合わせて二発ぶち込む念の入れようだった。


「ん?」


弾丸は確かにミズノの胸に命中して貫通した。だが幻を撃ったかのように手応えはない。その違和感を裏付けるようにミズノは涼しい顔を続けていた。


『これは驚きました。誤射ではないですよね』


ミズノの身体が蜃気楼のように揺らぐと、ガス状に霧散しながら半透明になっていく。ワーカーはこれもまた珍しく無言で身構える。能力を使わせる間もなく殺す計画だったが、不意打ちが失敗した以上ミズノは能力で応戦してくる。


『さて。反抗したあなたの処遇をどうすべきか。何故、私を殺そうと?』


ミズノは頭だけを残して身体を気体に変えた。無色透明となった身体の行方に警戒するワーカーは拳銃を戻すと背中から散弾銃を抜き取り、がしゃこんと重い装填音が重い覚悟を押す。


「俺の利益のためだ」
『おかしいですね。我々とあなたは利害が一致していたはず』
「ヘッドとは今も一致しているさ。あんた個人が邪魔になっただけの事だ」
『なるほど。そうなるとリストが理由ですか』


会話を引き延ばしながら策を巡らす。どうせ殺す前提なのだから情報を漏らしても構わない。時間が稼げれば安いリスク。


「……」


ミズノの能力は全身を気体に変化させる能力だと踏んだ。着ている服も含めて状態を変化させられるのだろう。ガス化はその延長線上のもの。硫化水素やら窒素など具体的な気体になれるかは分からないが、対応策は思いつく。ワーカーは風上へ移動した。


『さすがです。私がガス状になれても風がなければ自力では移動できないと踏みましたか』
「あんたはお喋りだな。会話に攻略のヒントを混ぜていやがる。ブラフか判断がつかねぇがな」


ワーカーは言葉とは裏腹に焦っていた。こちらには有効打がない。全身を気体にできるのなら、どうやって攻撃を通せば良いのか。少なくとも今手持ちの武器では殺せない公算が高いがここで逃すわけにもいかない。


「!」


ワーカーは敵の警備を投影すると発砲させた。しかしミズノは微動だにしない。ワーカーのタネは割れているようだ。


『どうせフェイクなんでしょう』
「どうだかな」
『では予告しましょう。今から水素になってあなたの周りにとりつきます』
「ブラフだろ」


ミズノは全身を無色の気体に変化させた。目視で捉えられなくなったミズノに警戒するワーカー。こちらに向かってきているのか。勘が悪くどこへ撃てば良いのか分からず、銃口だけを向けて牽制。はやり捕捉の能力とそれを扱う人物の存在がどれだけ有用か実感した。


「!」


ワーカーが発砲した瞬間、爆発が起きた。爆心地は散弾銃ではなくワーカーの近くの舗装道路。何もないところが突然爆発するなど予期できない。ワーカーはなす術なく吹き飛ばされ、道路に叩きつけられた。
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