決着の日~2028~


「仕留め損ねたぞ。奴らは死んでない」


単眼鏡でヘリポートを観測していたジェフが呟いた。全方位に撒いたはずの手榴弾を一斉に弾き飛ばされた。それが兵器によるものにも見えなかったのがジェフの根拠を裏付ける。


「どういう事だ。あれをやって無傷なわけがない」
「だが現に奴らは切り抜けた。間違いない、向こうにも何らかの能力者がいるぞ」
「どうする?」
「このまま奴らの死角に隠れながらキャパの回復を待つ。移動していなければ今度はC4(プラスチック爆弾)を転送するさ」
「連中の能力で先に攻撃されるんじゃないのか」
「それはないだろう。連中に俺達の居場所は分からないはずだ。生存者がいる可能性がある手前手当たり次第に攻撃してこない。不利なのは向こうだ」
「確かにそうだ。回復は何分待てばいい?」
「少なくとも十分だ。時限信管の準備だけしておけ」


再び動き出す傭兵達。ジェフの推察は捕捉の存在によって瓦解しているものの、セオリーとしては間違っていない。その反面ヘリポートは敗走ムードが漂っている。


「逃げましょう!また爆弾でも送り込まれたらおしまいです!」


一樹が下への階段へ走り出しそうな勢いだが、肩で息をする綾を見て立ち止まる。綾の消耗が激しいだけでも戦況は悪いはずだったが八重樫から退避の指示はなかった。


「LGB(レーザー誘導爆弾)だ!すぐに敵を空爆しろ!」
「逃げないんすか!?」
「敵が転移持ちならどこへ逃げても爆弾は来る。先に敵を殺るのが得策だ」
「それ空爆までに攻撃受けたらおしまいですよね?」
「いいからやれ。こうなった以上は相手が悪すぎる」
「ひぇぇ…」


前触れもない危機に覚悟を決める八重樫。綾の消耗がなければここから飛び降りて念力で着地してもよかったがもう無理だ。回復は待てない。懸垂降下も手だが降下中にやって来た敵にワイヤーを切断されれば抵抗できない。凌という光撃の増援が間に合っても数の暴力には心許なかった。


「東條達にも警告しておかなければな…」


実際のところ転送はインターバルがあるため、殺される前に殺す判断は間違っていない。捕捉で居場所を特定してピンポイントで攻撃できる手段があるのも幸運だ。それを知る由もない三人は生きた心地がしなかった。綾は一樹の肩を借りながら周囲を警戒していたが、殺される覚悟を決めている。


「頼むよ早く来てくれ…」


一樹は祈るようにタフブックを抱きしめ、一機の無人攻撃機に指示を送る。防衛省の高高度上空にて旋回待機していた無人攻撃機はそのイルカに似た機首を向けて急降下している。両翼に懸架された誘導爆弾がオンラインで起動した。


「LGBは全部使え!マーキング周辺を絨毯爆撃して確実に仕留めろ」
「まだ周りに生存者がいるかも」
「それはない」


八重樫は突撃銃のハンドガード横にマウントされたレーザーポインターでジェフの陣取る場所をマークする。誘導爆弾はこれに従い照準されていた。


「発射!」
「頼むわよ…」


八重樫は着弾までレーザーでマークし続け、固唾を呑んで見守る。投げ出された誘導爆弾に未練はないと言わんばかりに踵を返す無人攻撃機。着弾までのその数秒が長い。


「!」


着弾した。誘導爆弾は質量弾の役目を兼ねたようで偶然落下の直撃を受けた傭兵は爆風に関係なく四散した。ジェフは爆風に吹き飛ばされるがさらに逆方向から迫る爆風に挟まれ圧殺。全身に熱を浴びて苦しみながら死亡した。周りの仲間も熱や爆風で即死ではないものの息絶えた。残された数人の敵は何故ピンポイントでジェフが狙われたか分からないまま、命からがら現場から退避した。


「成功だ!」
「や…やった!助かった」


敵に転移持ちがいるとこうも追い詰められるとは。つくづく翔子が敵で現れなくてよかった。


「でも…」
「安心するのは早い。今からここに籠城戦になる。岸田の迎えが長引けばそれだけ不利になるはずだ」
「先に能力者と爾落人を空爆すれば案外簡単なんじゃ?」
「それができればいいが今回は不意打ちだから上手くいった。今のでリーパーの存在を知られて能力で迎撃される可能性もある」
「ひえぇ…」
「まずは東條達との合流が優先だ」
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