決着の日~2028~


都内にある自衛隊病院にて。先日から岸田は験司の権限を利用して個室で寛いでいた。防衛省襲撃の報告はまだ行き届いておらず、病院側も通常業務を続けている。今日の岸田はずっとテレビを見ており、平日勤務なら視聴できない昼の情報番組や夕方の刑事ドラマ再放送を流し見ている。これだけでも非日常感を味わえるのだから満足していた。唯一の苦行と言えば美味しくない病院食を完食させられる事くらいか。そしてもう一眠りかまそうとベッドに横になった時、電話の子機を持ってきた看護師が入ってきた。


「岸田さん、お電話ですよ」
「ど~も」


ナース服の看護師を引田に見立ててしまい、ニヤつく岸田。後退る看護師。


「電話?まさか深沙さんかな…やっぱり心配なんやな…」
「なんでもいいので早く出てください」


看護師は呆れながら子機を押し付け、岸田は表情をだらしなく綻ばせながら受け取った。看護師は逃げるように個室から出て行く。


「もしもし深沙さん?」
『私は逸見だ』
「陸将?!」


岸田は慌てるあまりベッドから転がり落ちた。自分が傷病者であるという体も忘れ、床に正座して座り直す。


「ななななんで陸将が」
『説明は後だ。防衛省が武装勢力の襲撃を受けている。君は浦園達生存者をティルトローター機で回収に行け』
「え?!」
『今すぐ三宿駐屯地へ向かい機体を受領、急行しろ。基地司令には私が話を通している』
「ははははい!」
『ここの院長にも三宿まで車を貸し出すように言ってある。Gnosisは全員無事だそうだからすぐに向かえ』
「ははー!」


岸田は両手を上げてからひれ伏す。少しでも時間が惜しく、手近にあった作業用迷彩服を借りる。患者衣から着替えて自分を奮い立たせた。


「待ってろ深沙さん、俺が白馬の王子様になったるで!」
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