決着の日~2028~


「二人とも大丈夫かしら…」
「隠れて!」


角兄弟の制圧を待つメンバー。その別方向から傭兵が二人やってきた。背後を見張っていた引田が声をあげ、五人は再び十字路の両サイドに退避する。実質的な挟み撃ちで、もし丈と歩が速やかに制圧できなければ逃げ場がない。


「これホントにヤバいですよね?!」
「なんとかする!」


蛍は自動拳銃で狙いすまして射撃した。殺めても構わない本気の発砲。しかし敵も銃撃をやり過ごし、一人が銃撃して援護するともう一人が前進。それを交互に繰り返して蛍の照準する余裕を与えないまま距離を詰めてきている。


「くっ…」


ただただ無駄撃ちを強いられる蛍。最後のマガジンを装填し、下がりきったスライドを押し戻した。内心気が気でないがコンドウ達に悟られないよう気丈に振る舞う。まだ抵抗が続くのか角兄弟は交戦中のようだ。


「…!」


敵は前進を止めたかと思うと手のひらサイズの黒いパイナップルを投げつけてきた。それが破砕手榴弾であると気づくのが遅れたのが蛍のここ数年で一番の失敗だ。あれをくらえば銃撃よりも酷い惨状になる。


「It's the end(終わりだな)」


敵は銃撃を止め、炸裂に巻き込まれぬよう退避した。そのために手榴弾に一足早く反応した男がいる事に気づかない。その男は投げつけられた手榴弾をキャッチするとすぐに敵へ投げ返したのだ。


「蓮浦!」


蓮浦だ。咄嗟の判断に躊躇する彼がこの時ばかりは考えるよりも先に身体が動いていた。それに悪くはない運動神経が味方していたのだ。しかし起爆までに身を隠す事までは考えが足らなかったのか、その後は棒立ちだ。蛍は蓮浦の手を引いて引き込み、倒れこむのと同時に破裂音が鼓膜を揺らした。


「うぐっ…」


炸裂した破片全てから身を隠すには至らず、蓮浦は少量の破片を脚に受けた。


「蓮浦さん!」
「え!?嘘だ!」


破裂音で全員の耳が遠くなったが、蛍が指示を飛ばすまでもなく引田がすぐに蓮浦を診る。蓮浦の服が防刃だったのが幸いだったか出血はない。痛がる蓮浦を引田に任せると蛍は敵の様子を伺った。敵も蓮浦が予想外の反撃だったのか破片のダメージがあるようだ。


「……」


蛍は思考する。この先まだ敵と出くわす可能性がある以上弾を補充する必要があった。丈と歩の制圧が長引く場合も然り。こちらはこちらで敵を制圧して奪うしかない。験司に代わって皆を守るために。


蛍は自動拳銃を構えて照準をブレさせないよう、上半身を固定するように腰を低くしながら歩いて接近する。それを見たコンドウが血相を変えた。防弾装備もなしに身を晒すのがどれだけのリスクか、素人目にも想像がつく。


「ちょっと蛍さん!?」


呻き声が聞こえた傭兵の元へ近づくと詳しい状況が見えた。二人とも倒れ、とどめを刺してしまえば難なくマガジンは手に入る。守るための殺人に手を染めるのは覚悟を決めていた。引き金の指に力がこもる。


その時、視界の端に映った人影。


「There it is!(いたぞ!)」


爆発を察知した別の傭兵が現れたのだ。銃口を向けられ、無様に照準器へ捉えられた自分の姿はえらく滑稽だろう。自分の銃口を向けて反撃する猶予はない。その瞬間から生殺与奪は握られたのだ。蛍から見える敵の動作一つ一つがスローモーションのようにゆっくりと流れていく。
蛍は息を呑む。部下も守りきれずに終わる。愛する者からも看取られずに死ぬ。それがどれだけ心細い事なのか。彼女の涙腺が決壊しかけたが、それでも泣かなかったのはまだ折れない強さが残っていたからだ。


「…験司」


別の銃声が轟き、敵の頭を撃ち抜いた。点射で二発ずつ、指切りで。味方が現れて助かったのだ。蛍が安堵したのと同時に聞き慣れた声が聞こえた。


「無事か!?」


幻聴かと思って声の主へ振り返る蛍。だがそこには確かに験司がいた。


「験司…どうしてここが?」
「オレも同じ状況なら同じ判断をするからな。当たり前だろ」


験司は蛍が安堵のあまり抱きつくより早く、強く抱きしめた。
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