「行くぞ！」


丈と歩はそれぞれ目前にいた傭兵へ姿勢を低くしながら右肩から突っ込んだ。同時にカービン銃の銃身を敵の指ごと掴んで銃口を上へ逸らしながら、敵の腹から押し出していくように前進する。その姿は相撲の押し出しのように力強く、速い。事前に顎へ掌底を叩き込んで抵抗する意識を削ぎ落としていたのか、そのまま敵を盾に使い後方に控えている敵まで接近しようとする。


「Stupid of Manning!（マニングの間抜けが！）」
「It's nice to shoot?（撃っていいよな？おい）」


一瞬銃撃に躊躇った傭兵だが盾になっている仲間をお構いなしに突撃銃で撃つ。盾にしているおかげでノーダメージの丈と歩だが、肉に弾が食い込む嫌な感触は伝わる。


「There is no meaning to shoot！（撃った意味ねぇじゃねえか！）」


敵は寸でところで格闘戦に切り替えた。丈と歩は盾にしていた傭兵を突き放すとその勢いのまま突進した。


「うぉぉぉ！」


傭兵は突撃銃を逆に持ち替えるとストックを振り上げて殴りかかる。丈は片手で受け止めるが傭兵は膝蹴りを腹に入れた。ニーパッドの装甲が丈の内臓を抉る。


「ぐ…うぉらぁぁ！」


丈は一瞬だけ込み上げてきたが、抑え込むと力ずくで突撃銃を取り上げて遠くに放り投げた。さらにナイフを抜き取ろうとする隙を与えないよう殴戦を強行するが、傭兵も拳の刺突で応戦して五分の格闘を繰り広げた。


「この！」


丈は傭兵のチェストリグのベルトと腕を掴むと遠心力をつけて壁に叩きつけた。傭兵も抵抗しようと丈の腕を殴りつけたが完成された筋肉には無駄な抵抗に等しく、勢いは衰える事なく背中から壁へめり込んだ。


「shit…（くそ…）」


砕けた破片を肩にのせながらなおも立ち上がる傭兵。普通の人間ならとっくに堪えているはずだがまだ立ち向かう。自身の闘争本能に火がついたのか、またはプライドを傷つけられたのか、チェストリグを外すと素手で丈に挑む。


「I Come took Jap！（かかってこいよこいよ日本人！）」
「なんて言ってるのか分からないぞ！」


だが馬鹿にされているのは肌で分かる。元々挑発に乗る性格ではない丈だが、仲間の命がかかっている以上は本気で勝ちに行く。殴る蹴る殴る殴る。丈が繰り出す分だけ傭兵もそれに応えるように返した。まるで巨体がぶつかり合う怪獣同士の乱闘だ。だが傭兵の奮戦虚しく、次第に一方的にやられていく。防弾プレート越しにハッキリと伝わる丈の拳は確実にダメージを蓄積させたのだ。やがて丈に胸、首と手刀を叩き込まれ、強く咳き込んだところを膝裏にローキックをくらう。うつ伏せで倒れた傭兵を背中から踏みつけると糸が切れたように動かなくなった。


一方の歩も主に相手の攻撃をいなしながら隙を突き攻撃を加える。力に物を言わせる丈とは対照的は格闘スタイルだが、バディを組むならむしろ相性が良かった。柔よく剛を制するを体現する。


「！」


蛍達の方から銃声が聞こえ、一瞬だけ気がそれた歩の足元は文字通り掬い上げられた。転倒こそしたがしっかり受け身を取った歩に傭兵は馬乗りになる。腕に全体重を乗せながらナイフを突き立て、歩は両腕で受け止めて阻止したが無理な体勢なのかじわじわと刃が顔に迫ってきている。


「くっ…」


珍しく表情が歪む歩。ナイフの刃渡りは長くはなかったが目から突き刺されば容易に脳まで達するだろう。さすればいくら身体を鍛えていても簡単に即死させられる。


「Do not chanting the name of God to believe…（信じる神の名を唱えな…）」


傭兵が呟いた瞬間歩は力を緩めてナイフを迎え入れた。しかし顔を軌道から逸らして。ナイフは歩の耳を掠めて床を切りつけ火花を散らした。


「！」


敵の重心が偏った瞬間を見逃さない。歩は巴投げの形で敵を蹴り上げて排除すると立ち上がった。傭兵も立ち上がってナイフを振りながら牽制するが狙いが散漫だ。歩はナイフの手を受け止めて壁に叩きつけ、喉に拳の刺突を見舞うと傭兵は沈黙した。


「やった…」
「！」


再び他方向から聴こえてきた銃声に強張る二人。蛍達を思い出したかのように様子を伺うと驚くべき光景が広がっていた。