決着の日~2028~


防衛省ではワーカー一味による警備との銃撃戦が展開されていた。既に敷地内中心部近くまで侵攻を許している警備。また、職員の避難がまるで間に合わず凶弾に倒れる者が続出していた。それはいつの間にやら高所を陣取った狙撃手が優先的に警備を排除している事に起因している。


「リーダーと通話中に切れたけど大丈夫かな…」
「もしかしてジャミングか?」
「うわ!こっちはダメです」


蛍達は安全な場所を求めて移動していたが、どこもかしこも銃撃戦で敷地外まで移動するのは困難を極めそうだ。隊舎を徹底的に潰され、孤立していく警備。生き残っている隊員も防戦一方で、さらに目を見開いたままの死体達。


「…皆待って」


今度の死体は違うようだ。うつ伏せに倒れていてよく分からないが装備品から見て襲撃者。体格は日本人とはかけ離れた恵まれた身長で、突撃銃のストックも長く伸ばしてある。


「ちょっと見張って!」


蛍は丈に死体を仰向けに転がさせ、自身は屈むと死体のホルスターから自動拳銃とマガジンを取り上げた。スライドを引いて薬室を確認すると安全装置をかける。拳銃程度の射撃訓練は受けているために自衛手段にはなるが、やはり人へは撃ちたくない。蓮浦も黙って突撃銃を拾うが、こちらの方のマガジンは仲間が持ち去った後なのか回収できずやむなく突撃銃を捨てた。


「これは…」


続けて蛍はボディアーマーのポーチに忍ばされていた端末を取り上げた。パスコードか指紋認証を呼び掛けられると、躊躇わず死体の人差し指をホームボタンに押し付ける。するとロックが解除され、元から開かれていた画像アプリには自分の顔写真が表示されていた。


「え?」


次の画像を順に見ていくと験司や引田など、コンドウ以外の全メンバーが記録されていた。しかも防衛省のデータベースから抜き取られたものなのか、それぞれ制服を着ている画像。身の毛がよだつ。


「どうやら狙いは私達みたいね…」
「えぇ?!」
「どうしますか」
「どこかに隠れていましょうよ」
「それがいいかもしれないわ。敵もここに長居はできないでしょうし。時間が経って増援が来れば不利になるのは向こうだわ」


勝利条件にもよるがアウェーで攻め込むには敵より何倍もの戦力が必要になる。万国共通の認識は敵とて同じはず。しかし全員が敷地外まで見つからずに脱出する自信もなかった。敷地を隔てるゲートが三つかあるがそこを全て押さえられているとすれば通過する際に必ず見つかってしまう。ここはどこかに隠れて敵が一掃されるか撤退するかまでやり過ごすのが無難かもしれない。


「そうしましょう。とりあえず身の安全を優先する。皆E棟へ」


簡易的なシェルターがある建物へ、皆異論なく頷いた。現在地からほど短い距離を全力で目指す。


「行くわよ…!」


蛍は思わず口を手で覆った。目の前に転がっていたのは先程自分が呼び止めた警備の隊員だったのだ。顔馴染みの職員や警備が制服を出血でどす黒く染めながら倒れている様に、不慮の事態とはいえ巻き込んでしまった自分を呪った。


「えぇ…もう大丈夫。行きましょう。首藤、先頭について」


験司という絶対的なリーダーが不在な今、皆の不安を煽るリアクションは避けなければならない。引田はその重圧を察するように蛍の背中を押し、他のメンバーもその背中を追いかけていった。
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