決着の日~2028~
演説が終わったと同時に大笑いした者が二人。後天的能力者のスタイルズとジェフ。
「だ、そうだ。ワーカー、お前は懇意のクライアントに存在を全否定されているぞ」
「顧客とはいえ馬鹿にしているとは思わないか?」
一団は目的地である防衛省へ到着した。見張りの目が甘いスペースを選ぶとトレーラーを横付けする。拠点とはいえ首都で大規模な攻撃は想定されていないらしく、警備の練度や士気は他国より低いのが見て取れた。情報通りだとワーカーは笑みを浮かべる。
「だとしても構わねぇ。利用されていても利害が一致している以上は乗っかるまでだ」
ワーカーは停車したトレーラーにのそのそと近寄ってくる人影を見つけた。ミズノだ。相変わらずのビジネスマン風の姿。
『どうも』
「…待っていたぜ」
ミズノとは現地で待ち合わせをしていた。もう少し目立たない格好で来いと言いたかったが、これからの事を考えるとどちらでも同じかと勝手に納得してしまった。
「皆聞け。彼はミスターミズノ。彼に仕事ぶりをお見せしなきゃならねぇ。ヘッドへの報告があるらしい」
ワーカーの言葉に全員が困惑していたが、いつもの事で気にする者はいなかったようで特に異論を唱える者はいない。
「さぁ始めろ」
ワーカーに促された傭兵は携行式ロケット弾を用意した。射手が発射器を肩で担ぎ、もう一人が前から熱圧弾頭を装填する。役割が分担される事によるスムーズな挙動はプロフェショナルさを感じ取れた。偶然通行人が目撃していたが映画の撮影だと勝手に思ったのか無関心げに通り過ぎていく。
「連中のオフィスの確認は済んでいるな。やれ」
「イェッサー」
射手は後方を確認してから弾頭を発射した。発射器後方に逃げてきたバックブラストと同時に正面へ飛び出す弾頭。白煙の軌跡をうっすらと残しながら、本来想定されている有効射程距離の倍の距離を飛んだ。ここまでくると射手の手練れた腕が必要になるが移動目標ではないためその心配はない。
弾頭はGnosisのオフィスへ到達すると炸裂した。着弾の勢いでコンクリートの壁を突き破り、熱風の圧力で何もかもを吹き飛ばす。トンネルや屋内における対人に特化した凶悪な弾頭だ。無人だったオフィスの機材、メンバーの私物。何もかもを熱を伴って吹き飛ばした。射手は戦果を確認すべく双眼鏡を覗く。
「…直撃を確認。しかし死傷者は確認できず。無人だったようです」
「そうこなくてはな」
誰かがそう言った。いや、全員が同じ事を口走ったのだ。標的を仕留め損ねた事で中へ侵入して虐殺する口実ができた。殺害欲求の元殺人鬼や訓練の成果を本物の隊員で試したい者、単にトリガーハッピーの者。この場の皆が該当するであろう何かが欠落した思想。経歴は傭兵として練度に差があっても抱えている病は共通に近い者の集まりだ。例え部外者が視察していようがいまいが関係なく、結果さえ出してしまえば良い。
そして全員が誰かに指示されるまでもなく目出し帽の覆面をかぶった。人種や顔認証等、敵になるべく情報を与えないための処置だ。
「さて、狩りの時間だ。ナイフは全員持ったか?ターゲットの顔は覚えたか?覚えてねぇ奴はとりあえず日本人を殺し続けろ。ターゲットの指を回収した者にはボーナスだ。始め!」
先陣を切る傭兵。手には回転式弾倉のグレネードランチャーを持っている。照準器に従って山なりに構えると等間隔で着弾させるように引き金を連続で絞る。すると小太鼓で叩かれたようなやや間抜けな発砲音をリズミカルに奏でると同時に、大きな蜂の巣をしたような弾倉から連続で六発のスモークグレネードを吐き出した。グレネードは着弾すると白い煙を撒き散らして視界を遮る。
「GO!GO!」
煙幕が辺りに蔓延したタイミングで突撃していく傭兵達。最低でも三人一組以上で行動しているようだ。そして早くも警備と遭遇し発砲する者がいた。それが羨ましい者がいたのか、わざと警備へちょっかいを出しにいくグループもいる。
「スタイルズ…はもう行ったか。ジェフ、ブリーフィング通りに配置しろ。サモアはヘルプで待機」
「言われなくてもそうする。お前はどうするんだ?」
既に突入したスタイルズはともかくとして、ジェフは自分の能力で仕事をこなしながら余裕の表情。
「俺は別行動でミスターミズノに仕事ぶりを見せてくる。皆しっかり頼むぞ」
ワーカーはミズノを連れて移動していく。待機する仲間たちは訝しんだがワーカーを止めずに見送った。その中で一人、サモアは突撃銃を握りしめる。
「俺はあと数人で限界だ。その後はインターバルを置く。…サモア、聞いてるか?」
「はい」
「まぁいい、後は先行組と転送組が仕事するだろう。それとミスターミズノだがお前、どう思う?」
「……一体何の事やらです」