決着の日~2028~
少し時間を遡って都内。複数台のバンとトレーラーが走行していた。コンテナの中には完全武装の傭兵が急ごしらえのベンチに向かい合わせで腰掛けている。これから仕掛けに行くワーカーの一団で、ワーカーはトレーラーの助手席から端末をチェックしていた。
「お?俺達のクライアントのお言葉だ。ありがたく拝聴しな」
ワーカーは受信専用の回線を繋いで全員にスピーカーで通信を聞かせた。ノイズ混じりだが比較的明瞭な感度だ。
『諸君。私は、「G」を憎んでいる。「G」を抹殺したい。「G」を、許さない!』
しかし真面目に話を聞いているのは何割程度なのか。傭兵達は自分の手を止めず好き勝手に用事を済ましている。
『これまで私は、あらゆる「G」を目の当たりにしてきた。人型、植物型、寄生虫型、群虫型、鬼人、蜘蛛、亀、鳥、蛇。奴らは地球上のあらゆる生物の姿を模して、私達の間にいる。君の隣は人間か?君の隣は「G」か?彼らはあらゆる手段で君たちの生存を脅かし、我々を震え上がらせる!
奴らは何をして来るだろうか?拳を上げ、突き出したら、奴らが作り上げた結界に阻まれるかもしれない。知らない間に、寄生虫によって精神を蝕まれているかもしれない。時間を操作され、たった1秒で寿命を迎えてしまうかもしれない。体中の血液の流れを操作され、酸素が体に回らなくなるかもしれない。たった一発のパチンコ玉が私達の左腕を吹き飛ばすかもしれない。未来を見透かされ、私達がやろうとしている事が見られているかもしれない。体がねじ曲げられてバラバラにされてしまうかもしれない。言葉によって、我々の行動が操られてしまうかもしれない。私達が恐れてしまう事を餌にしているバケモノがいるかもしれない。自分達の意識に、勝手に他人の意識が潜り込み、支配してしまうかもしれない。怪獣のように、光線で襲って来るかもしれない。腕を銃や剣に変えて襲って来るかもしれない』
ガムを噛んでいた傭兵も、興味なさげに目を閉じていた傭兵も、意気揚々とナイフを研いでいた傭兵も、ジョークをかましていた傭兵も、煙草で一服していた傭兵も、聞こえてくる雄弁な演説に皆いつしか真剣に耳を傾け始めていた。一言一句聞き逃すまいと手を止めて微動だにしない。
『奴らは、我々を人外の者としてその生涯を閉ざしに来る。寿命を全うできず、奴らの意思で我々の命が奪われるのであれば、我々は人間として生きた証さえ失うだろう。私は、人間の素晴らしさを知っている。人間とは、自らの意思でこの歴史を綴って来た。それが、「G」で綴られた歴史なら私はいらない』
トレーラーは信号待ちで停車した。その際ワーカーは交通整理をしている機動隊員へ意味ありげに手を振った。これからぶちかましに行く自分達を見逃していく当局を嘲笑うように。いたずらだと思ったのか機動隊員の興味はすぐに一般車輌に戻る。
『我々はあの頃を取り戻す必要がある。我々は、「G」の事を考える必要の無い世界を取り戻す必要がある。我々は、「G」がいない世界を取り戻す必要がある。さあ諸君、見せてくれ。人間の結束力を。人間の団結力を。人間の統率力を。そして、全てを元に戻してくれ。「G」に、この世界の支配者が誰なのかを思い知らせてやる。「G」に、己の本来の立場がどこなのかを分からせてやる。さあ諸君!存分に殺せ!状況開始』