決着の日~2028~


「ひえぇ…」


防衛省にて、験司以外のGnosisメンバーは作業を続けていた。全員でPDF化を終えた紙資料をシュレッダーにかけ始め、一時間弱。Gnosisの性質上扱う資料は全て機密。そのまま燃やせるゴミで捨てて良い道理はない。オフィスの下の階にあるシュレッダーにひたすら紙を流し続けた。


「もう何時間経ってるんだっけ…」
「延々と続いてる気がするぞ…」
「しっかりしてちょうだい。まだ一時間しか経ってないわよ」


最初はコンドウ一人に任せられたが手押し台車六台分に及ぶその膨大な物量により彼はポッキリと折れた。そのまま泣きつかれた全員が総出で処理をしているのだった。


「リーダーだけ自分だけ出てっちゃってズルいよな」
「リーダーは仕方ない。それを言うならズル休みの岸田が…」


前触れもなく建物が爆発音と共に揺れた。一瞬だけ照明が飛び、時間差で火災警報とスプリンクラーの駆動音が響き渡った。明らかに地震ではない様相に他の職員を含めどよめく一同。


「なに?」
「なんだ!?」


蛍は近くを通りかかった警備の隊員を捕まえた。


「君、今のは何が起こったの?」
「原因不明の爆発が上の階であったとしか分かりません。現在確認中です」


そう言うと隊員は走り去っていった。エレベーターは使わないように指示されているのか徒歩で階段を上がっていく。数人の隊員も後に続いた。


『D棟で火災が発生しました。当該職員は警備に従い避難してください。繰り返します…』


すぐにアナウンスが流れた。先に指示を受けて準備をしていた警備の隊員が誘導を始めている。何人かの職員は隊員に食い下がっており、蛍もそれに紛れて情報を探った。


「何が起きているの?」
「爆発は七階であったようです。すぐに消火する見込みですが、何かがガス管に引火したようです」
「何かってなに?」
「詳しい原因は検証待ちですが、近隣からロケット弾が飛来してきたという情報もあります」
「まさか敵襲?」
「そうかもしれません。確認が取れるまで警備は増強しますので我々の指示に従って避難して下さい」
「ありがとう」
「……」


一同は静まり返った。爆発のあった階は自分達のオフィスがある場所だった。事故ならともかく敵襲なら狙いは自分達という事になる。もし本当に敵襲だとするとコンドウのおかげでオフィスから離れていたために事なきを得たのだった。


「……これは…」
「コンドウは命の恩人だ!」
「そうだね!兄者」
「まぁ…結果的にはそうなるかしら」
「確かに…ありがとうコンドウ」
「偶然だろうが助かったぜ」
「いや、それほどでも」
「ありがとう!」
「コンドウ万歳!万歳コンドウ!」


出口に歩いて向かう一同と恥ずかしそうに俯くコンドウ。同時に風船が連なって破裂するような発砲音が聞こえてきた。他の職員も怯えた様子だ。そしてそう遠くない距離からの発砲音に緊張感が走る隊員。報告が入る前から数人の偵察を出した。


「失礼します!」


誘導係の隊員が慌てて無線をチェックする。蛍も近くに寄って耳も傾けた。少しノイズ混じりで漏れ聞こえてきた内容は信じ難いものだった。


『緊急事態。武装集団が敷地内に侵入。規模と装備は不明。警備増強要員は北区二番エリアへ急行せよ。繰り返す』
「失礼します。自分も行かなければ。あなた達も誘導に従って逃げてください」


そう言った隊員は部下を連れて移動していった。やや慣れない実戦に動転しているのか声が上ずっていたがなんとか現場に赴いていく。反面、血の気が引いていく一同。


「ちょっとこれ、本当にヤバいんじゃないですか?」
「まさか狙いは本当にGnosisなんじゃ…」
「だとすると女池の仲間の差し金だろうか」
「まさか直接こんな事を仕掛けてくるとは思えないけど」
「リーダー!リーダーに連絡しましょう!」
「いや、ここは凌さんに…」
「でも今更間に合わないんじゃ…」


パニックになりかける一同。「G」の襲来には慣れていても人間による襲撃はまた違う恐怖だった。「G」はコミュニケーションが取れない底知れぬ恐怖だが、相手が人間の場合は何をされるか想像が及んでしまうからこそだった。


「それもだけどとにかく避難よ。験司には私が連絡する。最後尾は丈と歩がつく事。行くわよ!」
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