決着の日~2028~


「無駄だ!さっさと去りな!」
『大人しく撤退を推奨する。この行為がお前達の意思でないのは分かっている。すぐに引き返し上に伝えろ。これ以上非生産的な行為はやめた方が良い、とな』
「だあぁお前は長いんだよ!折角かっこよくキメてたのに台無しじゃねぇか!」


特殊部隊は退かないらしく、接近戦を仕掛けるべく陣形を縮めてきた。どうやら多角的に攻撃を仕掛け、死角を作り出せば押し切れると踏んだらしい。


『隼薙、どうやら威嚇は効果がなかったようだぞ』
「あそこまですれば普通逃げるだろ!」
『これ以上非殺傷を狙う攻撃は難しい。ある程度の傷害を加える覚悟を決めろ』
「くっ…仕方ねぇか…」
「待って!」


やむを得ないが仕方ない。腹を括った隼薙を引き止めたのは穂野香だった。


「危ねぇから下がってろ」
「私に考えがある!お兄ちゃんは渦巻き状の気流を作って!私がそれに火炎を載せるからアークは進路調整お願い!」
『なるほど、そういう事か』
「え?どういう事だ?」
「いいから言う通りにして!」
「お…おう」


隼薙はピッチャーが豪速球を投げるモーションのように拳を振りかぶり、陣形を組んで接近する特殊部隊を分断するコースに狙いをつけた。隊員を傷つけないよう、力加減を大方調整して。


「くらえ!」


隼薙は投げつけるように風の渦巻きを発生させた。陣形の合間を突き抜けた突風にやや驚いた様子の隊員達だが足は止めなかった。


「また風か」
「いい。進め」


穂野香は隼薙の近くまで来ると発生源である風の渦の前に両手をかざした。両手はアイドリングを始めていたのか、既に体温以上の高熱を帯びている。


「パイロアタック!」


穂野香の両手のひらから発生した火炎流は渦に飲み込まれ、渦巻きは火炎を纏った。側から見れば火炎の竜巻を錐揉み状に発射された形だ。


「アーク!」
『任せてください』


アークは火炎の渦にコントロールを加えた。すると直進していた火炎の渦は動きが加わり、隊員達の間近を掠めながら通過していく。


「なに!?」
「あっつ!」


体感は熱風に当てられた程度だが、その視覚効果は絶大だ。火炎の竜巻が獲物へ飛びかからんとする蛇のようにうねり、駆け抜けていく光景。特殊部隊の戦意を削ぐには効果絶大だった。


「こんなのに敵うわけがない…」
「退け!撤退だ!」


特殊部隊は撤退していった。追撃はせずに見送る隼薙。


「やったね!」
『穂野香様、さすがです。この機転がなければ苦しい戦いを強いられていたかもしれません。それに比べて隼薙よ、先程はお前の失態だ。最初にヘリを墜としたが故に彼らから敵性と判断されてしまった。いつもの通り浅い判断だ』
「んだとアークてめぇ!」
「まぁまぁ二人とも」
「それほどでもないわよ」
「お姉ちゃんは何もしてないよね…」
「…本当に皆さん、ありがとうございます」


深々と頭を下げたマインに、隼薙は照れ臭そうに頭を掻いた。
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