決着の日~2028~
「本当に来るのかな~」
愛媛県岩屋寺にて、フリーの運送屋『RuRi』を経営している二人の姉妹がたむろしていた。フィンランド出身のスピリーズ姉妹。運転担当兼社長であり姉のラピスと、雑務担当兼画家であり妹のラズリー。
「来ないならそれに越した事はない。そうでしょ?」
二人とも今は仕事中ではなく、一緒にいるマイン・シーランを守るためにあの兄妹と籠城を決め込んでいた。念のために人払いは済ませてあり、ここには味方だけがいる。
「おい!食料が菓子しかねぇってどういう事だ!しかも甘いものばっか」
茶髪セミロングの現代風青年、初之隼薙が怒りを露わにした。彼は疾風の爾落人でここにいる面子の中では一番の戦闘力を誇る。腕には相棒であり戦友のアークもついている。
「いいじゃない。おいしいし料理の手間もないし!」
『しかし穂野香様、糖分ばかりですと栄養が』
隼薙の妹、初之穂野香。ロングヘアーの先を少し結えた、流れるような黒髪は27歳になっても健在であった。
「皆さん、すいません。私のために…」
長めの前髪をヘアピンで左右に留めた緑髪が特徴のマイン・シーランが申し訳なさそうに頭を下げた。
「気にすんな。連中の考えが気に入らねぇだけだ」
「そうそう、困ってる時はお互い様ってね。『持ったり離したり』だよ」
「それを言うなら『持ちつ持たれつ』じゃないかしら」
「皆さん…」
「ねぇ、さっきからなんだろうあれ」
ラズリーがその細い指で天を指差した。古典的の魔法使いのような帽子のつばを上げながら見上げる先にはヘリコプターが。先程から岩屋寺上空を旋回しているようだ。
『恐らく上空から隊員が降下してくるのだろう』
「なに?!男なら階段から上がってきやがれ!」
『隼薙、これも向こうの作戦。理に適う行動を取るのは当然の事だ』
「でもずっと上を取られているのも不利なんじゃないかしら。さすがに私の怪力でもあそこへ投げ当てるのは無理ね」
「任せろ!」
隼薙はヘリコプターへ向けてピンポイントに突風を起こす。距離からすると離れており、かなり精密な狙撃を敢行した形になったが狙い通りのようだ。突風に捕まったヘリコプターはそのまま隼薙の手によって降下していく。
「ちょっとお兄ちゃん!?」
「危ない!」
「落ちちゃうよ!」
「大丈夫だ。アーク!」
『仕方がない。任せろ』
アークはヘリコプターへの気流を微調整するとクッションとして、ふわりと浮き上がるように着地させた。
『隼薙、鎌鼬でテールローターを破壊しておけ』
「おう!」
隼薙は右手を上げ、掌に風を集め始める。僅か数秒程度だったが凄まじい風圧が巻き起こり、やがて風の中にいくつもの鋭い刃が生まれた。
「って、テールローターってどこだ?」
『…機体の後端で回っている小さい方のローターだ』
隼薙は刃を一つに収束させて大きな鎌鼬にすると振り払う。三日月状に伸びきった鎌鼬は狙いをつけやすいよう、あえて放物線を描きながら飛んでいく。凝視する隼薙は機体の真上から力づくで断ち切るように鎌鼬を振り下ろす。鋼鉄の機体は容易く切断され、鎌鼬は地面を深く抉ると全周囲に衝撃波を撒き散らしながら消滅した。
「あら見事!あれならもう飛べないわけね」
「もう~隼薙ってたらなんだかんだで優しいんだから」
「うるせぇ!岩屋寺の近くで人死が出たら縁起悪ぃだけだ!」
『そこまでにしておけ。客人が近いぞ』
アークの警告と同時に特殊部隊が階段を登り終えてきた。多少の息切れがあっても戦闘できる体力は残っているようだ。特殊部隊は投降を呼びかけるつもりがないらしく問答無用で射撃してきた。
「危ない!」
「うわぁ!」
「ちょっと!」
「んの野郎!」
隼薙は自分達に向けて突風を起こすと
アークの干渉で弾丸の勢いを殺しながら、風のカーテンで受け止めるように摘まみ取る。音速で迫っていた弾丸も失速し、パラパラと落下、文字通り銃弾の雨が降った。
「なに!?」
「馬鹿な!」
フルオートで発砲された数百発の弾丸の末路に特殊部隊は戦慄し、確信した。勝てない。言葉を失い、頼りの指揮官の次の指示を待つばかりだ。