みぎうで









その男は日本の武士の家に生まれ、武士として育てられた。地元では名前の通った強者であったがそれには理由があった。
範囲は限られるが、彼には人間の気配を感じ取れるのだ。それが目に見えずともどこに何人いるのかが分かった。一撃入れたあとの死人の判定もできた。それを活かした戦場での立ち回りが戦果を挙げていたに過ぎなかったのだ。


だがそれは人間にはない、普通ならざる者の力であった。それに気づいた彼は力を使わないように、頼らないよう鍛錬を重ねた。しかし一向に老けない容姿に、村から親ごと迫害を恐れた男は戦死を装い村を出た。親を守るために親を捨てたのだ。


男は元の名前からとり、ダイスと名乗って海外に出た。そして自分の存在に悩みながら街を目指す中、立ち寄った酒場で偶然、自分の力で自分と同じ存在を見つけたのだ。


「特異者?」
「国によって呼ばれ方は違うようですが、ここではそう呼ばれます。あなたの祖国では爾落人と呼ばれていますよ」


その爾落人によると、爾落人とは不老長寿で基本的に特殊能力が一人一つは生まれ持っているのだという。その能力は多岐に渡り、指先から電撃や火炎を出せるのもいるらしい。そして自分は人間、動物、特異者、生きとし生けるものの気配を感じ取れる能力、捕捉の爾落人だったのだ。
ダイスは自分を呪った。何故俺はこのような能力なのかと。聞けば爾落人ほぼ全員に爾落人同士の気配を感じ取ることはできるという。それの上位互換であるだけなど、劣等感しか感じられなかった。


苛まれ続け出した答えが、自分を鍛えることだった。戦場で自分より経験の劣る人間相手に戦っている時だけ満たされた気がしていたのだ。戦場に移っては人間を殺し、旅をしていく。そしてすぐ、あの男と出逢った。


ウォード。必視の爾落人。彼もまた直接戦闘とは関係のない能力でありながらも最大限に利用して兵士を務めていたという。裸眼でありながら望遠、暗視、透視、サーマルイメージャーを使い分けながら敵を視界に捉え、地力で鍛えた弓の腕で射る狙撃に長けた男であった。


以降、投合したウォードと共に傭兵として世界中の戦地を転々としていったのだ。時代ごとの武器と戦術に適応し、時に敗走し死線を彷徨いながらも二人は各地を渡り歩いた。


それからさらにワーカーという投影の爾落人とも行動を共にすることになる。彼は自身の投影する幻で武装兵や罠を囮に戦場を優位に立ち回る兵士であった。だがそれを能力で容易く見破れる二人に敗北を喫し、実力を目の当たりにした彼は二人について来た。それを迎え入れたのだ。


以降も世界の中でどれだけ自分達が無力かを把握しながら立ち回った。敵になりそうで歯が立たない爾落人との遭遇を回避し、うまく旅を続ける三人。不老長寿で戦闘のノウハウを積み重ね続けた三人は各地を渡り歩き、さらに数百年。


最近は元米国海兵隊員で射撃の腕の高い黒人のトレバー・ベイル、米国陸軍レンジャー部隊従軍経験者で電子戦に強いギャリティ・スアレスを補佐に迎え傭兵業を続けていた。二人とも若い人間でありながら爾落人三人にペースを合わせて行動できる有能な人材であった。


人間の彼らと組み始めて二年。そうして今回、雇われてここに来た。


1993年、クレプラキスタンでのことだ。
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