本編

24


「そうかぁ~。あの子、ひっそりと「連合」で暮らしていたのに残念ね」

 パレッタが「連合」中央コロニーでのゴジラの話を聞き、言葉を漏らした。
 視線の先にいる関口も頷く。

「やっぱりあなたが細工をしていたんですね。「連合」で爾落人が人々に紛れて暮らしていたことを知った時に、俺の「G」無力化装甲の話に興味を以前持っていたあなたの事を思い出しました」

 珍しく関口が丁寧語で話す相手がパレッタであることに、彼の隣に立つ瀬上は密かに驚いていた。

「まぁ~ね☆ それに彼のことだから、また別に良い所を見つけるでしょ♪」

 さり気なくパレッタがまともなことを言っていることに瀬上は再び驚いた。

「それで、そっちはどうなんだ?」

 関口は、瀬上と同じく驚いた顔のままになっている菜奈美に視線を移し、いつもの口調で聞いた。

「あ……! とりあえず、片付けたわ。周辺のコロニーの人達も協力してくれたから、大量の「G」も全滅させられたわ」
「よかった。今、こちら側に黒星がつくと、最後の詰めが難しくなるからな」
「でもでも大丈夫だよ~☆ あのMOGERAの動力炉は私の傑作の一つなんだから!」
「「えっ!」」

 瀬上も菜奈美も驚く。

「あれ? 言ってなかったか? ……てゆうか、幾ら俺でも練習用のプロトモゲラを急造で戦闘用に改造しながら、メカニコング製造に参加していたんだ。短期間でG動力炉を完成できるわけないだろ?」
「そうよ~♪ 私の傑作を積んでるモゲちゃんがあんな丸いものに負けるわけないわよ!」
「そうですよ! 俺達の至高の作品に敗北などない!」

 そして、空間の隙間を介して肩を組む二人。
 瀬上と菜奈美はそれぞれ額に手を当てる。そこで菜奈美は気がついた。

「待ってください。関口さんとパレッタが行動を共にしていたのは……」
「ん~? あの会議からしばらくの間だよ」

 パレッタの言葉を聞いて、菜奈美は時系列を整理する。
 会議の時に、吾郎が殺され、写し身の五月が入院し、そして凱吾が保護されて関口とナカムラによる拉致事件が起こった。つまり、パレッタと関口が行動を共にできるのはその間の時期になる。そして、関口が事件を起こす前になる。

「つまり、一連のことを計画している段階からニューヨーク決戦を予測していたんですか?」
「別に俺は予知能力者じゃねぇから! そんなに具体的にはわかってない。だが、凱吾にMM88の力を与えて切り札にすることを考えれば、必然的にあいつが失踪する選択をするのも、ナカムラ氏のバックに和夜がいて、後藤君と2046年よりも前に決戦を起こし、互いの力があの規模の事態を発生させるとは予想できるだろう? だったら、既にわかっていた2046年や今の戦いに備えた最善策は、G動力炉って器を用意することに他ならねぇ。だから、東京へ向かう前にパレッタさんに頼んでおいたんだ」
「……それ、話していたらもう少し事態は穏やかに進んだんじゃないですか?」

 菜奈美は怒り気味に言った。
 しかし、関口は平然と答えた。

「時間の爾落人ならわかるだろ? 既に決まった未来を変えるってのは、少なくとも俺の知る範囲では不可能だ。余計な情報は、歴史のイレギュラーをなくさせる。良くも悪くもな」
「………」

 二人の間に険悪な空気が流れたことを察した瀬上が話を戻した。

「問題は最後の詰めだろ? 後は、MOGERAがデス・スターを潰せば終わる」
「そうね。……それで、MOGERAは?」
「今、ムツキが最終調整をしている。……ん? あぁ、わかった」

 関口は操縦端末をイヤホンに転送していたらしい。耳に手を当てて会話を済ませると、菜奈美に告げた。

「準備ができた。五月、送ってくれ」
「わかったわ」

 空間を開いていたレイアが頷き、手をMOGERAに翳した。
 刹那、MOGERAが消滅した。転移させたらしい。
 関口が解説する。

「直接デス・スターを送った。月の衛星軌道ってのは流石に距離があるからな。奇襲って意味合いもある。最善策といえるだろう?」
「そうね。……また「G」が来たらしいわ」
「そうか。……ちっ! 蛾雷夜がやられたことを察したらしい。こっちにも「G」を差し向けてきた!」

 そして、それぞれの背後で各々が戦闘準備に入る。瀬上も回復したレギオンと共に飛び立つ。
 最後に菜奈美は関口に言った。

「MOGERAと連絡は続けるんでしょ? なら、伝えて。あなた達の帰る地球は私達が守るって!」
「おう。伝えておく!」

 そして、空間が閉じられ、それぞれの戦いが始まった。




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 旧沼津市周辺で、ギャオス、レギオン、朱雀、瀬上、ガラテア達が「G」軍団を相手に激しい戦闘を始めた中、レイアは別の場所に転移していた。
 旧御殿場市周辺の森の中にレイアの姿があった。
 彼女は無言で、木々が生い茂った森の中を一目散で歩いていく。
 木々が折れ、地面に落ちている枝を避け、巨木の前で足を止めた。
 木々はそれが落ちてきたために折れたのだった。
 レイアは、それに声をかけた。

「まさか、このまま生き延びようと虫のいいことを考えているのではありませんよね?」

 レイアの視線の先で、巨木の根に仰向けで倒れる蛾雷夜は、彼女の言葉に笑った。
 かなりの重症を負っており、人間ならば瀕死だ。

「負けは素直に認めてやろう。……だが、息の根を止められなかったのは、貴様らのミスだ」
「だから?」

 レイアは、じっと蛾雷夜を見下ろし問いかけた。

「わしは生きる。どうせ後藤銀河は力を取り戻しておらん。勝てはしない」
「……私が見逃すと?」
「命乞いなどする気はないが、先の戦いにおいてわしは負けた。そして、この戦いの決着はまもなく着く。貴様にわしを殺す理由がすでにない」
「……理由がない? 面白いことを言うわね!」

 レイアは口に手の甲を当てて高笑いした。
 そして、鋭い眼光で蛾雷夜を睨んだ。

「理由ならあるわ! お前を殺すに足る確たる理由が!」

 レイアは蛾雷夜の全身を時空の力で固定する。もう彼には逃れられない。

「お前は私の父、蒲生吾郎を私の写し身に殺させた……。お前は、何度殺しても殺したりない父の仇よ!」

 そして、レイアは一呼吸おいてゆっくりと両手を広げた。

「お前は、時空の力で殺すのでは足らない。この次元にお前という存在、複製の力、その根源から滅し、二度と転生することができない様にする必要がある!」

 レイアの体に巨大な魔女の姿が重なる。

「だから、お前には特別に根源破滅天使ゾグを使い、消滅させる!」

 レイアの姿は、召還された最強の魔女の鎧、ゾグに変わる。
 その圧倒的な存在感に蛾雷夜は、初めて死の恐怖に駆られ、必死にもがく。
 しかし、時空によって捕らわれた彼は逃げることも叫ぶこともできない。
 ゾグは無機質な仮面で、根源的な死に恐怖する蛾雷夜を見下ろし、それに向けて右手を翳した。

『さようなら』
「!」

 レイアの声と同時にゾグの手から光線が放たれ、蛾雷夜は一瞬にして消滅した。
 そして、ゾグは無機質な仮面の奥から高らかな笑い声を上げながら、姿を消失させた。

「……凱吾、お父さんの仇は討ったわよ」

 森に一人残ったレイアは、空を見上げて呟いた。

 


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 一方、デス・スター内に転移したMOGERAは、巨大な空間にいた。

「まさか、デス・スターの中は巨大な空間になっているのか?」

 銀河が思わず声に出した。広い空間は、球形であるようだが、あまりに広いため、一番遠い壁は霞んでいる。

『間違いないわ。デス・スターは厚さ2キロの壁で形成された巨大なボールよ』

 ムツキが解析結果を伝える。

「まさか、蛾雷夜を倒して、ここに直接転移してくるとは思わなかったよ」

 突然の声の主、和夜は一番近くの壁に立っていた。

『和夜!』
「後藤銀河、2000年ぶりだね。まさかそこにいたとは思わなかった」

 銀河に和夜は言った。細い瞳は鋭くMOGERAを捕らえている。

「折角、来てくれたんだ。……肝心のレイアを連れてきてくれなかったようだし、少しそこで遊んでいてもらうよ」

 和夜は両手を広げた。
 刹那、壁にプレデターとゼノモーフを掛け合わせたかのような容姿をした「G」が大量に出現した。その数は瞬く間に増え、巨大な空間の壁一面を覆い尽くした。

「これは俺が生み出したオリジナルの「G」で、プレデリアンと呼んでいる。レイアとも連絡が取れるのだろ? 助けを求めて、降伏すれば彼らを消滅させよう。……では、失礼」

 和夜は壁の中に消えていった。
 そして、プレデリアンは一斉に壁を蹴り、MOGERAに襲い掛かってきた。

『畜生! 来たぞ! ドリィィィル……ハリケェェェーンッ!』

 凱吾は叫び、MOGERAのドリルアームから竜巻状の光線が放たれ、襲い掛かる無数のプレデリアンを倒す。
 しかし、一体、また一体と攻撃を逃れたプレデリアンがMOGERAに達し、次々にまとわりついて攻撃を始める。

『隙間や機密扉周辺を狙って攻撃しているわ!』
『この蟲、知能がある! 厄介な相手だぞ!』

 ムツキとウルフが想定外の攻撃に苦言を漏らす。

『今のMOGERAの装甲は再生可能だ! 何度破壊されても耐えられる!』

 凱吾は言うが、プレデレアンの数は次第に増え、少しずつMOGERAを覆い始める。

『プラズマァァァメェェェーザァァァービィィィームッ!』

 MOGERAのプラズマメーザービームが壁のプレデリアンを次々に破壊するが、それ以上にプレデリアンの数が多く、遂にMOGERAの全体がプレデリアンに埋め尽くされる。

『うぐっ! 装甲損傷が再生速度を上回っているわ!』
『畜生! キリがねぇ!』

 ムツキが伝える状況が凱吾の頭にも直接伝わる。凱吾達を雑魚の集りと言っていたオルガを倒したMOGERAが2メートル程のプレデリアンの群に敗れようとしていた。
 この状況にどうしようもない苛立ちを覚えていたのは、凱吾だけではない。銀河もまた同じであった。

『……やめろ。同じ「G」同士が、同じ命同士がどうしていつも、いつも互いを殺しあわなきゃなんねぇんだ? 駒扱いさせて戦うのが戦士じゃねぇだろ? 本当の戦いってのは何の為に戦うかを決めた者同士が、覚悟があるもの同士がやるべきことだろう? 俺は、駒扱いされているお前らと戦いたくはない!』

 しかし、真理を失っている銀河の声はプレデリアンにも、そして凱吾達にも届かない。
 銀河は悔しかった。蛾雷夜や和夜が命を駒として扱うことに感じた怒りは、単純に命を粗末にする行為であるという綺麗事なものではなかった。
 彼は覚えていた。かつて、旅人がガラテアに人類抹殺の為に力を与え、蘇らせた後に気づいた焦燥感を。そして、意志を持って戦って死んでいったこれまでの旅で出会った全ての人々を。
 遂に、銀河は喉が千切れんばかりの大声ですべての思いを込めて叫んだ。

『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』
『『『!』』』

 刹那、MOGERAの胸部から眩い閃光が放たれ、全てのプレデリアンの動きが止まった。
 プレデリアンだけではない。凱吾達もプレデリアンへの抵抗をやめた。
 その直後、MOGERA内部のG動力炉から放たれる光は、操縦席内の銀河に飛び、銀河の全身を包み込み、そのまま操縦席から壁、装甲をすり抜け外へと飛び出す。
 空中に静止した光はやがて両目を閉じた銀河の中に消え、空中に浮んだ銀河はゆっくりと瞼を開いた。

「もう俺達と戦うな。駒として無駄に命を犠牲にするな。戦うのなら、意志を、覚悟を持ってかかって来い! その時は相手になる」

 金と紺にそれぞれ染まった瞳をプレデリアン達に向けて、銀河は語った。その一言一言がプレデリアン一体一体の全身に響く。
 そして、全てのプレデリアンは静止した。
 それを安堵した表情で見渡す銀河は、凱吾達の目には神々しく見えた。それが、自分とは何者かを求めて世界中を旅し、争いを根本からなくそうとし続けた後藤銀河という真理の爾落人の姿であった。

 


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 暗雲の下、円庭にマイトレアが立っていた。以前と同じく、彼女はその中心に立っていたが、眺めるのは遠方に聳えるバベルの塔ではなく、眼下に広がる業火と暗雲の間の宙を飛び交う鳥の群だった。

「これが貴女の言っていたことか?」

 マイトレアの背後に立つジェフティは問いかけた。

「そうよ」

 予想通りの返答をマイトレアは返した。
 ジェフティは、彼女に歩み寄り、隣に立つと同じように鳥の群を見つめた。
 今宵は満月のはずであるが、黒煙が空を隠し、地上を照らすのは赤く燃え盛るアトランティス帝国滅亡の炎だった。

「この国は四神によってまもなく滅びるのか? ガイアの「G」を怒らせた為に、滅びるのか?」
「えぇ」

 彼の問いにマイトレアはそっけなく答えた。
 彼は続ける。

「貴女は以前、我に告げた。アトラス王……ゴゥダヴァと科学者、そして貴女自身の思惑がこの国を滅ぼすと。あの四神を生み出す様に促したのは、『大洋の神』の意志もあるな?」
「恐れ多いことを申しますね? 『大洋の神』が何者か、あなたなら存じているはずですよ?」
「歴代アトラス王の祖。……だが、その理由と此度の四神を作らせた目的は、同じなのではないか?」
「恐ろしい人ですね。そこまで知っていながら、後に全てを忘れるのですから」

 マイトレアは皮肉を含めて笑った。

「後の事は我にはわからぬ。しかし、我は幾代のアトラス王を見てきている。その上で人前に決して姿を見せることのない『大洋の神』と今回の四神、そしてアトラス王の疑惑をつなげたのだ。……貴女が我に告げた言葉を考えてな?」
「それで、何を考えたのですか?」
「『大洋の神』は、あの塔を作らせた神だな?」
「そうですよ」
「ならば、『大洋の神』がアトラス王や四神に固執したのか? その目的は自ずと見えてくる。化身ではなく、真の「神」を生み出すことだな? 理由までは我とてわからぬが」
「愚者の考えることなど、私達には理解し難いものですよ」

 マイトレアの口調に『大洋の神』への嫌悪を感じたジェフティは、話を進める。

「しかし、結果は斯様なもの。これが運命ならば、それは今ここで問うても意味がない。それに我自身もあの研究者の思惑が『大洋の神』ともアトラス王とも違うものだったと考えている」
「そうですね。これは一種の事故、運命の悪戯でしょうね」
「うむ。……だが、アトランティス帝国が本当にあの魔物で滅びるような国であったとは、やはり信じられぬ」
「では、この眼前の光景はなんですか?」
「幻想でないのならば、何者かが介入したと考えるべきだろう。ならば、誰か?」

 ジェフティはマイトレアを見た。
 彼女は涼しい顔で滅び行く帝国を見つめている。
 再度彼は問うた。

「アトラス王に何を囁いた?」
「私は真実を語っただけです。己が何の為に生み出された失敗作であるのかを」
「! ……それが何を意味するのか、わかっているのか?」
「当然よ」

 彼女は仮面を被っているかの様に無表情で冷淡な顔でジェフティを見た。
 ジェフティは考える。彼はアトラス王として生み出され、それが存在した理由であり、役割であると思っていたはずだ。それが、創造主の欲望による失敗作であったと知ったのだ。存在意義そのものを根底から彼は失ったはずだ。
 かつてバベルを崩壊させた時のジェフティのように、存在そのものへの疑問を持ったのではない。彼は、アトラス王になる為に生み出され、それこそが役割であった。神官や他の者であったなら、何かしらに理由を作ることで己を救う術もあったであろう。
 しかし、アトラス王の役割は国の象徴なのだ。政や国の維持は神官達がいればいい。
 アトラス王とは、国を分裂させぬ為の象徴なのだ。即ち、存在こそが役割であり、存在意義そのものであったのだ。

「……己の存在そのものが失敗作だと知り、彼は絶望した。そして、創造主の目的は国など関係なく、「神」の誕生であると知ったのならば、己の存在意義を得る為に考えるのは、恐らく二つ! 即ち、己が「神」となるか、己が手で「神」を作り出すかだ!」
「……「神」ではなく、正しくは佛よ。この世界の根源が生み出した世界を作り出すの力そのもの。それが佛よ」

 マイトレアは彼の言葉に直接的な回答はせず、訂正をした。

「佛?」

 怪訝な顔をする彼を見て、マイトレアは嘆息した。

「記憶にない……んですね。偉そうに考えを語る割には、情けない話だわ」
「我も、それを知っているというのか?」
「えぇ。なぜなら、あなたも元々は真理の佛だったのですから」
「なっ! どういうことだ?」
「今は思い出せないのならば、それでいいですよ。それよりも、お話を続けてください。ゴゥダヴァは何をしたのですか?」
「……恐らく、双方を選んだのだろう。既に国への未練はないと考えられる。ならば、国を犠牲にしても……いや、事実を知った彼にとってこの国は憎くすら思ったのであろう。ならば、此度の滅亡も理解できる。それほどの覚悟の上で、彼はその佛とやらの誕生を行い、同時に叶うならば自らが佛になろうと考えた」
「恐らく、そうでしょうね。その結果、この国は四神によって滅ぼされる。しかし、彼は結局力を得ることはできず、今も同化の力しか持たない」
「何の力なんだ? その『大洋の神』とアトラス王が望んだ佛の力とは?」
「万物ですよ。万物の佛。愚かな創造主ですよ。己が万物の力を得られず、二つに分けられた片方の力しか与えられずに存在してしまった。苦悩した末、出した結論が万物の力を持つ存在の創造主となり、佛の祖となり、絶対的な存在になろうと望んだ。その愚かな願望が、全ての原因です」

 語り終えたマイトレアをジェフティは鋭い眼光でじっと見つめる。

「……まだ何か企んでいるな? 何故、最初に我の前に現れた? アトラス王に事実を語り、滅亡へ誘うのならば、直接彼の前に現れれば済むこと。我の前に現れる理由はない。何を企んでいる?」
「絶対の運命と呼べる既定の事実に私は従っているだけですが、それでは納得しないでしょうね。……ゴゥダヴァが万物の佛になる為には、この地から旅立たねばならない。この星に存在する「G」では、彼を真の万物の佛にすることはできない。当然、彼が自身の真実を知らねば、他のアトラス王と同じ結果になる。伝えるのは、私。そして、私を彼は愛する。国やアトラス王のしがらみがなくなっても、私の存在が彼を引き止める原因になる。彼には、この星へ戻りたくないと思わせ、かつ万物の力を自分が手に入れるという強い決意を持たせなけばならない」
「……我に殺させるつもりか?」

 ジェフティはマイトレアを睨んだ。彼女は頷く。

「えぇ。あなたは私を殺し、時空の力は時間と空間の力に分かれます。そして、ゴゥダヴァはあなたを倒すために、万物の力を求めて旅に出ます。私があなたの前に現れたのは、あなたに今、この事実を伝え、理解させる為です」
「それが既定の事実なのかも知れんが、我が貴女を殺す理由はない。この国の事は確かに貴女の思惑が大きく影響を与えているが、結局はあの四神が原因だ」
「別に、あなたに理由があってもなくても、構わないのですよ。なぜなら……」
「マイトレア!」

 その時、背後からアトラス王、ゴゥダヴァが走ってきた。
 刹那、マイトレアはニヤリとジェフティに笑みを見せ、自身の胸にジェフティの剣を転移させた。

「!」
「マイトレアァァァーッ!」

 胸に剣が刺さったまま、ゆっくりと倒れるマイトレア。
 ゴゥダヴァは叫び、マイトレアの元に走るが、彼が抱きかかえる前に彼女の体は光となって消滅した。
 ゴゥダヴァは彼女の衣を握りしめて涙を流すと、おぞましい形相でジェフティを睨んだ。

「ジェフティィィィィッ!」

 ジェフティは声を出そうとする。真理ならば彼を説得できる。万物の力を求める覚悟を与えることもできる。

「!」

 しかし、彼は声を発することができない。すぐに声を転移されていると悟った。
 相手は時空の力を持っており、真理の対策も完璧であった。己の死すらも計画しているのならば、ジェフティの声を一定時間使えないようにするのも容易い。

「よくもぉぉぉ!」

 ゴゥダヴァはそんな彼の状況を知るはずもなく、愛する者を殺された怒りを剣に込める。

「!」

 仕方なく、ジェフティは応戦した。声を封じられていても、真理は理を司ることができる。相手の剣を朽ちらせると、彼は庭園のヘリを飛び越え、逃げた。
 それしか、彼には方法がなかった。
 そして、ゴゥダヴァはマイトレアの思惑通り、アトランティス帝国滅亡と同時に半島の一部を宇宙へと舞い上がらせた。それこそ、半島の地下に作られていた巨大宇宙船、月ノ舟そのものであった。
 紀元前約1万年の事である。
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