本編

23


 デス・スターの和夜は、焦り始めていた。計画に狂いが出始めている。
 後藤銀河が真理を使うことを想定し、群による一斉攻撃を仕掛けた。宇宙戦神の力での敗北は想定していた。
 しかし、宇宙戦神は現われず、別の怪獣によって一掃され、肝心の後藤銀河は士気向上と前線指揮に徹している。
 更に、爾落人や「G」の存在しないはずの「連合」中央コロニーは二体のゴジラによって瞬殺に近い状態で一掃された。
 ホットラインの存在する中央コロニーはデス・スターで消滅させるのではなく、彼らを降伏させる為の人質とするつもりで多様な「G」を送り込んだ。
 だが、結果は第二東岸領よりも早く「G」軍団は全滅した。

「! 何っ?」

 人間のいるはずのない大西洋上に待機させていた「G」が次々に倒される。

「怪獣? 地球に存在している「G」だというのか?」

 正体は掴めない。数体の怪獣が月ノ民の「G」を次々に倒していることだけは確かだ。
 意識を飛ばし、死に際の「G」の視界に飛び込む怪獣を見る。
 海中にも関わらず、火球を放つ亀に似た怪獣の姿が一瞬見えた。

「……馬鹿な。地球が、ガイアがまた俺の邪魔をするというのか?」

 和夜は、遠い昔の記憶を呼び起こされ、唇をかみ締める。

「!」

 更に、彼に追い討ちをかける。蛾雷夜との繋がりが絶えている。恐らくレイアの仕業だろう。
 しかし、それでも蛾雷夜が早々敗れることはない。問題は、新たに彼の情報網にかかったものだ。

『中華コロニー群跡地の上空に現われた「旅団」に後藤銀河がいる。生存者を導いた』

 残存している跡地周辺のコロニー間の通信で交わされた内容であった。
 後藤銀河は、第二東岸領にいるはずだが、新たな後藤銀河の存在が確認された。
 和夜は思わず窓を叩いた。

「ふざけている! 後藤銀河がゴジラみたいに第二、第三と現われてたまるか! 本物は……どこにいる?」

 地球を睨みつけ、和夜は恨めしく呟いた。




 
 

 ユーラシア大陸東部、かつて中国と呼ばれ、清、中華民国、中華人民共和国など幾多の国が歴史の中で興った巨大な大地に、現在は巨大なクレーターが存在している。
 デス・スターの砲撃によって巻き上げられた塵や灰は時間の経った現在は大分薄まっているが、空は不気味に黒い雲に包まれたままであった。
 そんなクレーターの周辺の消滅を間逃れたコロニー上空を、黒色の雲の下を対照的な白く輝く帆船が飛行していた。
 土砂や熱風などの火災による焦土に巻かれた周辺コロニーの住民達は、その姿を見上げて白鳥を連想した。
 そして同時に、彼らはその正体を理解した。
 今回の戦争を起こした月ノ民に属す蛾雷夜の率いていた一派と共に、「旅団」の代名詞として語られ、各地で伝説を残す空飛ぶ白い帆船で旅をする爾落人集団。
 蛾雷夜の「旅団」同様に、己達から団体名を冠することはせず、故に人々は空飛ぶ帆船の名で彼らを呼んだ。

「日本丸!」

 そして、先刻周辺の残存コロニーから伝えられた情報を知る者は、されるべくしてされる連想を口にした。

「あそこに真理の爾落人、後藤銀河がいるんだ! 彼が生存者を導いている英雄だ!」

 噂は噂を生み、不気味な雲の下に栄える美しい白き帆船は、見る者達に希望を象徴させた。
 そんな眼下での様子を視解したクーガーが船橋の中へ入り、舵を握る東條凌に話しかけた。

「どうやら我々が希望になっているようですよ」
「まぁ、実際それに近いことをするんだからいいんじゃないか? 頼む、話しかけないでくれ! これ、結構難しいんだ!」

 東條は額に汗を滲ませている。それというのも、彼は戦闘員担当であり、ほとんど舵を握ったことはない。
 本来の操舵士は、現在中華コロニー群を隠す為に、持ち場を離れてそれに集中している。

「クーガー、可哀相だからあまり遊ばないであげて」

 菜奈美がクーガーを嗜める。船においては船長を勤めている菜奈美が一番偉いのだ。

「別に遊んでいるわけではないのですがね。戯れていたのですよ」
「それを遊んでいるって言うのよ。一応、電磁バカも彼女もいないんだから、航海士であるあなたが二番目に責任ある立場になっているのよ」
「わかっていますよ。……あぁ! 船首楼甲板に出ているハイダさんとダイスさんも順調に銀河さんの役を果たしていますよ」

 元々クーガーが昇ってきた理由はそれを伝えるためであった。
 思念の爾落人ハイダは、捕捉の爾落人八重樫大輔と協力して、コロニー住民達に対して心理の爾落人を模倣しているのだ。
 ちなみに、ハイダが料理番こと環境整備担当、ダイスと呼ばれている八重樫が見張り番兼砲撃手だ。
 主に、個々の能力や性格に合わせて配置を選択した経由があるが、例外もある。

「ねーねー菜奈美ちゃん~♪ おなかすいたぁ~」
「すみません。万物の力でも傍受できない様に通信装置を改造してもらっていたんですが……」

 パタパタと足音を立てて一応、機関長兼整備担当のパレッタが、後に続いて恐る恐る通信士の宮代一樹が入ってきた。

「はぁ~。ハイダは今動けないから、食堂にあるお菓子を食べていいわよ」

 菜奈美が溜め息混じりに答えた。

「は~い! やっぱ船長やっさしぃ~☆」

 パレッタは笑顔で船橋から出て行った。そして、一樹が柱にもたれかかる。

「……ご苦労様」
「パレッタさんがこの船を想造したのでなかったら、僕が全力で彼女をどこかのコロニーの美術館か研究所に放置しています」

 立場上、一番パレッタと関わることの多い一樹の心からの叫びだった。
 そんな彼に対して菜奈美も東條も苦笑するしかなかった。





 

 一方、いつの間にか総司令と化した関口は、最終段階に移そうとしていた。

「最終確認もすんだ。……本当は今、後藤君の真理が覚醒するってのが理想なんだが、贅沢も言っていられない」

 関口はGR-1の操縦端末を操作しながら言った。
 その背後では、オルガとMOGERAが今も尚戦闘を続けている。
 MOGERAは片目をはじめ、かなりの損傷をおっている。スパイラルグレネイドミサイルは残弾ゼロ。右のドリルアームも少し前にオルガの光線に耐え切れず失われた。片目の物理的損壊と共にもう一方もメーザー砲門内部に損傷があり、使用不能。
 対して、オルガは再生を繰り返し、今も無傷だ。

『ガハハハ。所詮は、駒が作った道具に過ぎん! 我には敵わぬわ!』

 蛾雷夜は、勝利を確信して笑う。

「くっ! ……ジジイ! 何とかならねぇのか?」

 凱吾が関口に聞く。内部も衝撃でかなりの損壊をおっているらしい。凱吾の顔も煤けている。
 対して関口はニヤリと笑った。

「待たせたな! 今がその時だ! MOGERAの真の姿を見せてやろう!」

 そして、関口は操縦端末に向かって叫んだ。

「GR-1! MOGERAと合体しろ! ……超ラ級のエンペラーでカイザーなファイナルフュージョンで天元だろうが何だろうが突破しやがれぇぇぇ!」

 刹那、土砂の中から黒い渦がMOGERAに向かい飛び出し、機体を包み込む。

「な、何が起こってるんだ?」

 操縦室の凱吾の体を椅子から突如現われたケーブルが包み込み、全身に刺さり一体化していく。銀河もウルフも同じだ。
 そして、ムツキを含めた四人全員の意識が一つに繋がる。
 やがて渦がMOGERAの機体と完全に一体化した。その機体は、先までの損傷が全て再生されている。

『何が起こったんだ?』
『凱吾の声が直接頭に聞こえるぞ?』
『本当! 信じられないわ!』

 肉体など関係はない。彼らの意識は互いの意識に直接繋がっていた。

『つまり、意識をこの機体のシステムの一部にした訳だな。完全な生体ネットワークということか……』
『『『ウルフ!』』』
『ふっ……驚くことはない。種が違えども、意識という概念においては何も変わらない。面倒な翻訳システムを介さぬならば、互いの意思疎通も容易い』

 ウルフは軽く笑い、答えた。
 しかし、彼らが驚いているのは、そういうことではない。

『ウルフ、結構話すんだな?』
『銀河、何か文句でもあるのか?』
『……いや』

 同時に、モニター越しに確認していたMOGERA周囲の情報も、まるで目で見ているかのように彼らに伝えられ、そして全てが体の一部のように自由自在に動かせる。

「どうだ? これが真MOGERAの力の一つ、言うなればシンクロだ」

 関口が声をかけると、凱吾は笑った。

『如何にも関口さんらしい発想だ。……一つってことは、他にもあるんだろ? 如何にもな力が』
「当然だ。今MOGERAの機体はGR-1と一体化している。つまり、ナノマシン状態は不可能だが、その他のことなら大体の事が可能だ。残弾数も形状も一切制限はない。全てはお前らの想像力が武器になる! 間違ってもマシュマロを食べたいなんて想像するんじゃないぞ!」

 そう言う関口の声がとても楽しそうだ。間違いなく、マシュマロの怪物を作り出したいと考えている。

『悪いが、ふざけるつもりはないぜ! ……あの創造主気取りの化け物に引導を渡してやらなきゃならねぇからな!』
『あぁ! 俺達は生きている! 決して駒なんかじゃねぇ!』

 凱吾も銀河も目の前のオルガに勝つことだけに集中した。
 それを見て関口の目も真剣になる。

「よし! なら、見せてやれ! お前らの本気を! 人の根性って奴を!」

 対する蛾雷夜は一切恐れていない。

『雑魚が幾ら集っても雑魚だ! ただの人に成り下がった佛など、我の脅威になるものか!』
『だったら、味わうんだな? お前が作り出し、道具とし続けた人の力を!』

 銀河はMOGERAの胸部を展開し、バスタードリルを出す。

『いくぜぇぇぇ! バスタァァァー……ドリルッ!』

 しかし、リーチが短い胸部のバスタードリルはオルガの腕によって跳ね除けられる。

『うわっ!』
「だから胸にドリルはぁぁぁ!」

 咄嗟に関口が叫んだ。

『今度は私よ!』

 体勢を立て直したMOGERAは、ムツキが操作する。

『よし! ……どうすればいいの?』
「だぁぁぁ! 思いつくことを叫べ!」
『ポイント還元大感謝セール!』

 ムツキの声と同時にMOGERAの全身からミサイルとビームが一斉に放たれる。

『ぐっ!』

 オルガに全弾命中し、オルガが怯む。
 続いて、ウルフも叫ぶ。

『死ね!』

 左のドリルアームから強力な破壊光線が放たれ、オルガの肩の砲口を吹き飛ばす。

『うぐっ!』
「技名を叫んで欲しかったが、いいぞ! 一気に畳み掛けろ! 必殺技だ!」
『必殺技?』

 関口の言葉に、ムツキが戸惑う。

「とりあえず、お前らの意志を一つにすりゃいいんだよ! 根性でどうにかなる!」
『そんな無茶苦茶なぁ!』
『ふっ……つまり、四人で攻撃のイメージを一つにして、その技を実行すればいいんだな?』

 ウルフが言う。

「そう言うことだ! ……本当によく話すなぁ」
『だったら、手っ取り早い! 巨大なドリルであいつに風穴を開けてやればいい!』

 凱吾のイメージが三人に伝わる。

『わかったわ!』
『了解した!』
『御意!』
『よっしゃぁぁぁ! 理屈なんざどうでもいい! 蛾雷夜ぁぁぁ、これが俺達の力だぁぁぁ!』
「技名は思いついたものを並べりゃいいぞ! 重要なのは意志を一つにすることだ!」

 関口が叫んだ。
 オルガは砲口を再生させる。
 MOGERAは右腕を構え、両足のローラーを高速で回転させる。
 そして、銀河、ウルフ、ムツキ、凱吾が最強と連想される言葉を並べる。

『ファイナァァァルッ!』
『ジャイアントッ!』
『レバレッジ!』
『スパイラルゥゥゥ……インパクトォォォォォッ!』

 刹那、MOGERAの右腕のドリルアームが展開し、MOGERA本体よりも巨大なドリルが現われ、高速で回転する。
 同時に、オルガから光線が放たれる。
 しかし、MOGERAは回避することなく、超高速で前進し、光線を巨大ドリルで防ぎ、そのままオルガに突っ込む。

『砕けちれぇぇぇぇっ!』

 凱吾の叫び声と共に、巨大ドリルはオルガの体に突き刺さり、その身を貫き、粉砕する。

『人間がぁぁぁ………』

 蛾雷夜の声は最後まで言いきる前に途切れ、オルガの巨体は跡形もなく消滅した。
 そして、MOGERAの巨大ドリルも同時に消滅した。
 蛾雷夜は遂に敗北した。




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 一方、第二東岸領の周囲には大量の「G」の屍骸が広がっていた。
 ゼノモーフの群を倒した後も、様々な「G」が送り込まれていたが、その全てを第二東岸領勢は倒したのだ。

「はぁ……はぁ……流石にこの数は……」

 スパイダーマンのスーツを脱いだピーターは、城壁に築かれた「G」の山にもたれかかり、倒れていた。

「情けないな。……本体を倒さない限り、何度も奴らは来るぞ」

 人間の姿に戻った黄が、ピーターの目の前に降り立つと言った。

「怪獣を取り込んでいるなんて無茶苦茶な巫師とは違うんですよ」
「爾落人なのに情けないな。……あいつはまだ戦っているぞ」

 黄は腕の剣でゼノモーフを真っ二つに切断する青年に視線を向けて言った。

「彼に至っては人でもないじゃないですか!」
「聞いたらあいつ、怒るぞ?」

 ピーターと黄が話しているところに、芙蓉が歩いてきた。
 黄が話しかける。

「どうした?」
「レイアさんから連絡が入ったわ。凱吾達がオルガを倒したそうよ」
「いよいよ大詰めって訳か」
「えぇ。……それから、「連合」中央コロニーを“彼”が守ったらしいですよ」

 芙蓉の瞳の色が変わり、紺碧が伝えた。
 それを聞いて、黄の目も変わる。

「あいつが、か?」
「どういう理由かはわからないけど、“彼”まで敵に回すなんて、和夜ってのも相当運が悪いわね」
「確かに。……しかし、これがかつての我らの二の舞にならなければよいが」
「私の予感が当たっていれば、蛾雷夜が敗れた時点でその心配はない」
「そうなればよいが……。頼んだぞ、人間」

 黄昏と紺碧は空を見上げた。どうやらもう一度だけ、「G」と戦う必要があるらしい。
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