本編

20


 時を同じくして、MOGERAの足元で寝かされていた凱吾にも変化があった。

「うぅ……」
「凱吾!」

 すかさず彼の右手を握っていたローシェが呼びかける。
 凱吾はゆっくりと目を開く。

「ロー……シェ? 俺は……生きてたのか?」
「えぇ! レイア様が」
「姉貴が?」

 凱吾はゆっくりと視線をローシェの隣に立つレイアに向ける。
 レイアは、彼に視線を向けず、そのまま旧沼津を移動するメカゴジラⅡの映像を見つめたまま答えた。

「あんたを死なせるわけにはいかないのよ。少なくとも、この戦いが終わるまでは」
「ありがとう」
「腕は動かせるの?」
「…うぐっ!」

 レイアに言われて左腕を動かそうとする凱吾だが、全身に激痛が走り、呻き声を上げる。

「凱吾!」
「まだ動けないみたいね。……関口さん、凱吾が目覚めましたよ」

 声をMOGERAの操縦席に転移させると、再び映像に集中した。
 すでにジャイアント・ロボとメカゴジラⅡが対峙していた。





 

「……行くぞ!」

 朱雀の声にギャオスは「G」軍団に目掛けて急降下した。
 刹那、彼らの眼下で爆発が起こった。

「! 始まったか?」

 ガラテアが眼下の二体のロボット兵器を見下ろして声を上げた。
 先に仕掛けたのはジャイアント・ロボだった。眼からの光線でメカゴジラⅡの足元を破壊する。
 しかし、体勢が崩れたメカゴジラⅡもすぐさま反撃のミサイル一斉射撃を行なう。
 四方八方から迫るミサイル群をジャイアント・ロボは両腕を左右に振り、指先からミサイル弾を連射し、更に背中のロケット噴射装置の間からと、胸のマークを分離させたミサイル、眼からの光線と口からの火炎放射によって一掃する。
 すかさずジャイアント・ロボは硝煙による煙幕の中に入り、体勢を持ち直したメカゴジラⅡの目の前に姿を現すと同時に、腕を大きく振りかぶって強烈なパンチを放つ。が、当たる直前にメカゴジラⅡの頭部発射口からの光線に直撃し、腕が爆発、消失する。
 更に、再度ミサイルの一斉射撃を至近距離でメカゴジラⅡが放つ。
 刹那、大爆発が起こる。

「ジャイアント・ロボがやられた!」

 着地と同時に、朱雀流百式剣法の連続技で周囲の「G」を倒した朱雀が叫んだ。
 しかし、隣で巨大ジラを一撃で炭化させたガラテアが立ち上がる煙幕を見て声を上げる。

「いや、まだだ!」

 その言葉の直後、煙は渦を巻く突風によって吹き飛び、中から高速で回転し旋風を起こすジャイアント・ロボが姿を現す。
 回転をやめると、周囲の塵状になったナノマシンが集り、ジャイアント・ロボの損傷部が再生された。

「無敵というか、不死身だな」

 その光景に瀬上が思わず呆ける。

「危ない!」
「うわっ!」

 そんな瀬上をグラボウズが地中から襲い掛かる。
 咄嗟にイヴァンがメーザーライフルを撃ち、グラボウズを射殺する。

「大丈夫ですか?」
「あぁ、助かった。……!」

 瀬上はイヴァンに礼を言うと、電撃でイヴァンに襲い掛かろうとしていたマタンゴを吹き飛ばす。
 すぐさま二人は背中を合わせ、周りを取り囲む「G」を攻撃する。

「囲まれています!」
「臆するんじゃねぇ! 所詮は雑魚の集りだ!」

 瀬上が声と共に電撃を放つ。イヴァンもメーザーライフルを連射する。
 襲い掛かるマタンゴ、小型ジラ、グラボウズを次々に倒す二人だが、埒がない。

「しかし、雑魚も数があると面倒だな! っとぉ!」

 瀬上は周囲の砂鉄を集めて鉄球をつくると、それをレールガンにして放った。一瞬で大量の「G」を倒し、更にそれを連続で繰り返す。
 イヴァンもメーザーガンの出力を上げ、「G」を倒す。
 その時、ガラテアが叫ぶ。

「コウ殿、イヴァン殿、伏せろぉぉぉっ!」
「「!」」

 二人はすぐさま地面に伏せる。
 刹那、ガラテアが放った光弾が二人の上空を通過し、彼らの前方の「G」を周辺の森ごと爆破した。
 顔を上げて、ガラテアを見ると、彼女の後方には無数の巨大ジラの死骸が転がっていた。

「強ぇ……」

 思わず呟く瀬上だが、ガラテアの体もかなり傷を負っていた。
 立ち上がり、ガラテアに二人は駆け寄る。

「大丈夫か?」
「大したことはない。あのジラも私一人で倒したわけではないしな」

 ガラテアが答えて、空を見上げる。
 ギャオスが超音波メスを乱射し、次々に巨大ジラを切り刻んで倒している。

「流石は、四神の一つってところか」
「もう一人の朱雀殿もなかなかやる」

 瀬上にガラテアは森の中で起こる旋風によって吹き飛んでくるマタンゴの死骸を見て次げた。
 森の中から朱雀の怒声が聞こえる。

「百式ぃぃぃぃぃ改っ! うぉぉぉぉっ! 四十四式ぃぃぃ改ぃぃぃぃぃっ!」

 刹那、森の木々が吹き飛び、大量のマタンゴの死骸が彼らの前に転がった。
 その死骸の山から衣を脱ぎ、血だらけになった上半身を露わにして、全身から湯気を上げる朱雀が這い出てきた。

「はぁ……はぁ……はぁっ! 捨て身の四十四式改まで使わせるとは、幻惑作用のある霧を使う術者かと思えば、なかなか手強い奴だ」

 瀬上達に近づきながら話す朱雀の目は、鬼や怪と見間違える程に鋭いものであった。

「マタンゴの胞子に惑わされなかったのか?」
「危うく術にかかるところだった。だが、己の芯で敵の気を感じてそれを絶てば、例えこの心身が惑わされようと戦うことはできる。風が吹けばやがて霧も晴れる」

 淡々と話す朱雀は、依然として戦い続けるメカゴジラⅡとジャイアント・ロボを見た。
 一同も二体の戦いに視線を向ける。
 再生ができるジャイアント・ロボとはいえ、ナノマシンの絶対数は変わらない為、戦いが長引けば長引く程にその強度も質量も減り、次第に大きさも小さくなる。
 しかし、それはメカゴジラⅡも同様であった。すでに残弾はついており、肉弾戦と光線攻撃に留まっていた。
 メカゴジラⅡはジャイアント・ロボに光線を浴びせながら迫り、飛び掛る。倒れてマウントポジションを取られるジャイアント・ロボ。

「しまった!」

 思わずイヴァンが声を上げた。
 しかし、それはジャイアント・ロボ最大のチャンスであった。
 ジャイアント・ロボの全身が発光し、刹那、全身から高熱を発し、メカゴジラⅡを一瞬にして融解させてしまった。
 周囲の木々も一瞬で炭化し、大地も溶ける。瀬上達もその猛威が襲うが、ガラテアが咄嗟に変化の力でそれを防ぐ。
 完全に破壊されたメカゴジラⅡの前でジャイアント・ロボが咆哮を上げた。

「た、倒したのか?」
「その様だな? 確かに関口殿が最高傑作と自負するだけのことはある」

 ガラテアが瀬上に言い、周囲を見渡す。
 今の高熱によって、周囲の「G」も倒されていた。
 それを見てイヴァンが安堵する。

「終わりましたね」
「いや、まだだ! ……来る!」

 朱雀は溶岩状になった地面を見つめて言った。彼は敵の気配を感じていた。
 刹那、大地が割れ、地中から二体のクローバー、そして吸収の「G」イリスの完全体が現われた。

「なっ!」
「ここで破壊者だと!」
「柳星張! やはりこの世界にもいたか」
「! 朱雀殿はイリスを知っているのか?」

 ガラテアが聞くと、朱雀は視線をイリスから離さずに答えた。

「あぁ。前の世界で戦った邪神だ。……この世界ではイリスと呼ばれているか。強いのか?」
「他の「G」の能力を吸収する「G」だ。強い。そっちでは?」
「強かった。柳星張もある意味で吸収の力を持っていた。……これも何かの因果だ。戦おう」
「そうだな。戦うしかないな」

 三体の「G」を見上げる二人に瀬上が言った。

「しかし、ここでクローバーとイリスを出すとは、蛾雷夜もいい趣味してんじゃねぇか。逃げるってのも一つの戦略だぜ?」
「逃げれば、人類が滅ぼされるだけだ」
「うっ……ったく! やるならさっさとやるぞ!」
「行くぞ!」

 朱雀の声と共に、ギャオスとジャイアント・ロボがそれぞれクローバーとイリスに攻撃を仕掛ける。
 残るクローバーが彼らの前に残った。ギャオスと戦うクローバーに比べると小柄であるが、それでも十数メートルはある。
 第二ラウンドが始まった。





 

「イリスを使うとは、蛾雷夜も面白いことをしてくれますね」

 操縦室に凱吾とローシェと共に転移したレイアが、戦いの様子を見て笑った。
 それを見て関口が苦笑する。

「戦う気になったか?」
「いいえ。余計に失せました。共食いみたいな真似をする気にはなりませんよ」
「そりゃそうか。……んで、どうだ? 行けそうか?」

 関口は操縦席に座る凱吾に話しかけた。

「……あぁ。さっさといかねぇと、あいつらがやられるからなぁ?」

 全身から汗を滲ませながら、操縦桿を握った凱吾が答える。

「MM88も腕と共に随分失ったと考えられる上に、その腕も急場しのぎのものだ。真スーツ自体もかなり損傷を受けている。本来なら、MM88が十分量に増えるのを待って、腕もスーツごと直すべきなんだが、如何せん時間は待ってくれない。痛みは勘弁してくれ」
「関口さん! 体が動けば十分だっ! 痛みはすぐに慣れるっ! 後はぁぁぁ……気合いぃぃぃだぁぁぁぁぁっ!」

 凱吾は叫びながら両手でそれぞれの操縦桿を握り締めた。
 それに呼応してMOGERAとG動力炉が震える。

『うそっ! 出力、エネルギー、回転数……全て最大値の100パーセントを超過しているわ!』

 驚くムツキに関口が告げる。

「それが凱吾とMM88の、そしてMOGERAとG動力炉の力だ! 今ここにはその条件が全てそろってる。……後藤君、君もMOGERAに乗ってくれ。G動力炉の莫大なエネルギーの元は君の真理……いや、正しく言えば真理の力と一体化した宇宙戦神だ。君がいることでその力はより確実にMOGERAへ変換される」
「わかった」

 銀河は頷き、副操縦席に座る。
 そして、関口はウルフの肩に手を置いた。

「お前さんと悪魔ノ血も力になってくれ」
「………」

 ウルフは無言で銀河の隣の副操縦席に腰をおろした。

「簡単な操縦方法はムツキからその個別モニターを使って受けてくれ」
『私の負担!』
「カリスマ主婦なら複数の事も同時進行でできるだろ? ロボのオペレーションも朝食と弁当の支度も同じようなもんだ」
『そ、そうね。わかったわ!』
「関口さん、お上手ね」

 レイアが関口にこそりと耳打ちした。
 それに彼は苦笑する。

「伊達に2000年も長生きしてないさ」
「……よし! いいぜ!」
「こっちも一応必要な操作法だけは覚えたぞ?」
「把握した」

 操縦席に座る三人がそれぞれ親指を立てた。

「早っ! ……まぁそれでこそ最強の兵器を操る者達だ。レイア、MOGERAを転移させてくれ。それと同時に俺達は戦いが見える位置に転移しよう」
「面倒がなくていいですね」

 微笑んだレイアは、次の瞬間、MOGERAと自分達を転移させる。
 転移の瞬間、凱吾が叫んだ。

「MOGERA機動ぉぉぉっ!」





 

 ギャオスの攻撃にクローバーは牽制されるが、完全には劣勢に追い込めていない。
 地空戦による優位性以上の優劣を出すまでの差は二体にまだない。
 一方、ガラテア達はクローバーに圧倒されていた。
 クローバーの振り下ろす腕がガラテア達の立つ大地を砕く。

「流石は破壊者といったところか……」

 隆起した岩の上に着地したガラテアが下唇をかみ締める。
 鉄鉱を多く含む岩石を電磁で宙に浮かせ、その上に立った瀬上がガラテアに言う。

「だが、俺達には戦う他に手段がない! ガラテア、手伝ってくれ! この岩をレールガンにして奴にぶっ放す!」
「わかった!」

 ガラテアの目の前に岩石を移動させた瀬上が彼女の隣に着地すると、ガラテアは岩石を変化させ、鋼の塊にする。

「しゃぁぁぁ! 行くぜぇぇぇぇっ!」

 瀬上は叫びながら、それを超弩級のレールガンとしてクローバーに放った。
 刹那、プラズマの光が迸り、爆音と共に一筋の光がクローバーの頭部を吹き飛ばす。

「やった!」

 別の岩に着地していたイヴァンが歓喜を上げる。
 しかし、その隣に立つ朱雀が首を振った。

「いや、まだだ!」

 直後、激しい爆発に伴う爆風が彼らを襲う。

「うわっ!」
「くっ!」
「なんだ?」
「柳星張……」

 忌々しげに爆風の先を見つめる朱雀がイヴァンを片手で抑えながら呟いた。
 爆発は、イリスとジャイアント・ロボの戦いから起こっていた。
 ジャイアント・ロボは高熱を中心に宿したまま分裂し、球体状の渦となり、そのままイリスを取り込むと瞬間的に極限まで凝縮して爆発したのだ。
 爆心地を見つめる一同だが、そこはまだ立ち込める煙に包まれている。

「……よけろ!」
「うわっ!」

 咄嗟に危険を察した朱雀がイヴァンを抱えて岩の裏に飛び降りた。
 次の瞬間、煙の中から巨大な触手が彼らの頭上を通過した。
 そして、それは先ほど頭部を吹き飛ばされたクローバーの屍骸に伸びて巻きつくと、巨大なクローバーを引きずり、煙の中へと消え去った。
 同時に、もう一体のクローバーが悲鳴をあげて、複数の触手によって煙の中へと引き摺り込まれていった。

「一体、何が……?」
「わからんが、それが敵ならば斬るまで!」

 朱雀はイヴァンを岩陰に残して、岩を登る。
 そこへガラテアと瀬上が合流する。

「今の触手、イリスのものだ」
「まさか、破壊者を吸収したってのか?」
「わからん。……空からも、わからないようだ」

 朱雀が空を見上げて言った。
 いつの間にか夜明けが近づき青みがかかった空ではギャオスが警戒する。
 突如、煙は旋風によって吹き飛び、触手のように長く伸びる腕に突き飛ばされるゴートの形態になったGR-1が彼らの目の前を横切り、やがて山を抉り倒れる。

「「「「!」」」」

 一同は愕然とする。
 そして、愕然とすることすらも許さぬほどにおぞましい咆哮が爆心地に立つイリスから上げられた。
 イリスの容姿こそ変化は見られないが、肩や背中の殻からは赤い光の粒子が噴き出し、前傾姿勢をとり、腕はより太く長くなり地面を突き刺し、触手も根元で枝分かれしており無数に広がっている。

「あれは私達の知るイリスではない。姿こそ変わらないが、あれは蛾雷夜の生み出した邪神だ」

 ガラテアがずらりと牙の並んだ口を開き、白い息を吐きながら咆哮を上げるイリスを見つめて呟いた。
 ガラテアだけではない。その場にいる全員が邪神と化したイリスの禍々しさを感じていた。

「しかし、逃げるという手段はない! 行くぞ!」

 朱雀が叫び、飛び上がると急降下してきたギャオスの背に飛び乗った。
 そして、紫に染まる空に舞い上がると、ギャオスは翼を閉じて矢の如くイリスに向かって急降下する。その頭部には朱雀が颯霊剣を構えて立つ。

「同じ朱雀の名を宿す俺達のぉぉぉぉ力をぉぉぉぉっ! 朱雀流百式剣法改奥義ぃぃぃぃっ!」

 ギャオスは甲高い咆哮を上げながら、その身を高速で回転させる。
 そして、イリスの直上でギャオスは渾身の光線を放ち、同時に朱雀はギャオスの頭部を蹴り、更に回転を加えて叫んだ。

「百式改ぃぃぃぃぃぃっ!」

 刹那、イリスを朱雀とギャオスの光線が貫き、強烈な旋風と衝撃が巻き起こる。

「「「おぉ!」」」

 一同はそれに歓声を上げる。
 しかし、それは次の瞬間に絶望に変わった。
 赤い光が天頂から落ち、無傷のイリスが赤く光る薄膜状の羽を纏い、彼らの目の前に着地した。
 地上に空いた穴の奥で朱雀が仰向けになったまま、忌々しげに底を叩く。
 絶望するガラテアだが、険しい表情で爪を鋭利に伸ばして叫ぶ。

「うぉぉぉぉ! もう私はセクメトではない! だが、銀河殿から与えられたこの変化、この魂の力で、貴様を滅ぼすぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 ガラテアの全身を紅蓮の炎が包み、髪が逆立ち、八つの束に分かれ、炎はそれぞれの髪の先に広がり、やがて八つ首の龍の像を浮かび上がらせた。
 そして、それぞれの炎の龍が口を開き、炎、風、氷、雷の四つの弾が交互に溜められる。

「くらえ! 覇帝紅源撃ぃぃぃっ!」

 ガラテアの叫びと共に、八つの光弾は一つの束となってイリスへと向けて放たれた。
 同時にイリスも全ての触手からあらゆる力が放たれ、更に背中一面から赤い光の粒子が激しく放出され、大きく開かれた口から黒く輝く光線を放ち、全てが一つの束となった。
 二つの光線がぶつかり、激しい閃光が迸るが、力の差は歴然であった。
 ガラテアの光線は一瞬にしてイリスの黒色の光線に吸収され、彼女達に襲い掛かる。

「くっ!」
「「うわぁぁぁっ!」」

 瀬上達は悲鳴をあげ、思わず目を閉じた。
 しかし、光線はいつになっても彼らを襲わない。

「え……?」
「こ、これは……」
「MOGERA!」

 イリスの黒色の光線は、彼らの目の前に転移したMOGERAが壁となり防がれていた。
 やがて光線は止み、時を同じくして朝日が昇り、MOGERAの傷一つ残されていない装甲が朝日に照らされ、輝いていた。





 

「あれがイリスだなんて、最悪ね」
「うわっ!」

 突然のレイアの声に驚いて瀬上が振り向くと、彼らの後ろに転移したレイア達が立っていた。

「機動したのか?」

 ガラテアが聞くと、レイアは頷き、操縦室の様子を宙に映す。

「銀河殿!」
『あぁ、ガラテアか。成り行きで乗ることになった』
「銀河殿ぉ!」

 苦笑まじりにガラテアが銀河を呼びかける。銀河は笑顔で誤魔化す。
 ガラテアの横から関口が凱吾に声をかける。

「どうだ? 「G」の無力化を更に改良してエネルギーとして吸収するMOGERAの特殊装甲は?」
『完璧だ。莫大なエネルギーもG動力炉とムツキのお陰で完全に吸収されている』

 汗を滲ませて凱吾が答えた。
 それに気づいた瀬上が声をかける。

「お前、汗は大丈夫か?」
『大丈夫だ。まだ体が回復しきれていないだけだ。……そうだろ、ムツキ?』
『えぇ。生命活動には異常ないわ』

 ムツキがモニター内で頷いた。
 それに瀬上とガラテアが驚く。

「「ムツキ?」」
『あ、ご無沙汰しています』
「生きてたのか?」
『はい。その節はご心配をおかけしました』

 笑顔で頭を下げるムツキを見て、瀬上が浮んだ疑問を口にする。

「……そこになんでいるんだ?」
『関口さんに頼まれて、MOGERAのOSを引き受けました』
「いつ?」
『2046年のあの戦いの最中です』
「あの後か?」
『はい』
「「………」」

 瀬上とガラテアが無言で、関口を睨む。慌てて関口が言い訳する。

「いやぁ、言ったつもりだったが……どうやら忘れてたみたいだ。ほら、あの時かなり場が混乱していたし……」
「そもそも俺達はあんたが生きていることすら知らなかったんだが?」
「いや、それは戦略的な事情で蒲生との秘密にしたんだ」
「「………」」
「関口さん、これでは言い逃れできませんね」

 レイアが他人事というのを前面に出した口調で彼の肩をポンと叩いた。
 そんなやり取りも、イリスの咆哮で中断された。

『場の和みも吸収しやがったか。……だが、MOGERAの初陣には申し分ない相手だ! 行くぞ!』
『『『おう!』』』

 刹那、MOGERAが動いた。





 

 MOGERAのローラーシステム作動し、足の裏に付いた車輪が高速で回転し、イリスに向かって突進する。

「行くぜぇぇぇ! ドォリィィィル……アタァァァーック!」

 機体頭部の口部にあるクラッシャードリルを高速で回転させて攻撃を仕掛けるが、その瞬間、イリスは背部から赤い粒子を噴射、触手から赤く光る薄膜状の羽を展開し、残像を残して空中へと飛翔した。

「早い! ならば……ウルフ、頼む!」
「御意」
「よぉし! MOGERA、セパレーションモォォォードッ!」

 ウルフが応えると、凱吾は叫んだ。
 刹那、MOGERAは上下に分離し、上部は地中上戦特化型のランドモゲラーに、下部は空中戦特化型のスターファルコンに変形した。

『スターファルコン、対象を超音速追尾します』

 スターファルコンでムツキがオペレーションする。爆音と衝撃波を残し、スターファルコンはイリスを超音速で追尾する。
 一方、ランドモゲラーは着地と同時に大型ドリル、バスタードリルを回転させ地中へと潜り込む。

「捕捉」
『ターゲットロックオン。ツインメーザーバルカン、発射っ! ……やった! 命中したわ!』

 超音速で上昇するイリスを捕捉したスターファルコンは、MOGERA腰部の左右に搭載されたメーザーバルカンを発射し、命中させる。
 更にツインメーザーバルカンを連射し、イリスを地上へと追い込む。
 地上に近づくと、地中を進むランドモゲラーが急速上昇する。すでに、空中を高速で降下するイリスは捕捉している。

「しゃぁぁぁ! 後は任せろ! ドリィィィル……インパクトォォォッ!」

 地中から垂直に飛び上がったランドモゲラーは、二つのアームドリルと中央のバスタードリルで急降下するイリスの腹部を貫通させた。
 直後、地面に落下したイリスは地響きを起こし、地面に陥没した。

「ムツキ、ウルフ! 合体だ!」
『了解。スターファルコン、ユニテッドモード』
「よし、ランドモゲラー……チェェェーンジッ! ユニテッドモォォォォォドッ!」

 凱吾の合図に応じ、垂直降下をするスターファルコンは空中のランドモゲラーとぶつかる直前にムツキのオペレーションによりMOGERAの下部に一瞬で変形した。
 凱吾も叫び、ランドモゲラーのバスタードリルを格納し、頭部を展開、MOGERAの上部に変形させる。

「「『『合体!』』」」

 上下から真っ直ぐぶつかった二つの機体は、一同が叫んだ次の瞬間、再びMOGERAへと合体した。
 一方、地面に倒れたイリスは、頭部と触手を上へと伸ばし、全身から赤い光を放つ。
 MOGERAも空中で水平姿勢になり、ドリルアームを突き下ろし、真下にイリスを見下ろす。更に、バスタードリルの格納されている腹部を展開し、パラボラ状の砲門を出し、凱吾が叫ぶ。

「面白い! MOGERAの力を見せてやる! モゲラァフルバァァァストビィィィームッ!」

 刹那、MOGERAの両目、両腕、パラボラ砲門が光り、一斉に光線が放たれる。イリスも光線を一斉に放つ。
 双方の光線は交差し、互いに直撃して激しい閃光が迸った。
 光が収まり、日輪を背景にMOGERAは湯気を上げつつもそこに存在していた。

「イリスは……?」
『消滅したわ』

 凱吾が聞くと、ムツキはイリスが完全に燃え尽き、消滅したことを示す。

「よし。損傷率は?」
『最大20パーセント以下よ。現在冷却、復旧中。……10パーセント以下まで回復できるわ。対「G」吸収特殊装甲も95パーセント以上を維持しているわ』
「G動力炉に問題は?」
『ないわ。エネルギー系に問題なし。今の光線によるダメージだけよ』
「よし!」

 凱吾がニヤリと笑い頷くと、レイア達の姿が操縦室に映し出された。

『圧倒的な力を発揮できたみたいね』
「あぁ! 今度こそ蛾雷夜に勝つ!」
『ガハハハハッ! わしの生み出した駒を倒した如きが何をほざく!』
「「『『!』』」」
『蛾雷夜!』

 モニターを見ると、土煙と地鳴りを上げて、その巨体からは想像できない高速移動でオルガの姿となった蛾雷夜が迫ってきていた。

『魔女がぁっ! わしの動きを封じるとは忌々しい真似をぉぉぉっ!』

 蛾雷夜の怒声にレイアはわざと声をオルガに転移させて答える。

「あの程度の術にこれだけの時間を費やすあなたが愚かなだけよ。そんなに悔しかったら、俊足の力でなく、転移を使って来なさいよ。……できるのなら、の話だけど」
『貴様ァァァッ!』

 オルガはレイア達に向けて肩の砲口から例の光線を放つ。
 しかし、その光線はレイアによって一瞬で消滅される。

「私にそんなものが通用する訳がありませんよ。……「人」如きがっ!」

 そして、レイアとオルガの間にMOGERAが割り込み、オルガと対峙する。

『なんのつもりだ? イリスを倒して調子付いたか?』
「お前の相手は俺達だっ!」

 凱吾が叫ぶ。
 MOGERAと対峙し、足を止めたオルガは大笑いを上げた。

『我が捨て駒風情が、そんな人形で創造主たる我に刃向かうかっ! 確かに、あの状態のイリスを容易く倒したのは、駒と人形にしては良くやった。……だが、あえて言おう! 雑魚であるとっ!』

 そして、オルガは先ほどのイリスを超えるおぞましい咆哮を上げた。
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