本編

18


 爆発とビルの倒壊に、ロボコップはすぐに通信を行なう。
 空中に映像が現われ、軍部最高司令官の青年の顔が現われる。移動中らしく、周囲の景色がめまぐるしく動いている。

「ピーター、何があった?」
『恐れていた事態が起こったらしい。異星人とマフィア、ターミネーターが遭遇したみたいだ』

 ピーターと呼ばれた青年は早口で答える。

「異星人か……本当か?」

 ロボコップはピーターではなく、銀河達に問いかけたが、ピーターがそれに答えた。

『間違いないらしい。あの方が遠い昔に会った星の知的生命体と特徴が全く一致しているといっている』
「あの方が戻ったのか?」
『今、こっちに向かってる。あの方の事だから、超高速で飛んできてくれるはずだ。僕もあの方が通信で司令塔の指揮を執ることになったから、今現場に向かってるところさ』
「あの方?」
「この第二東岸領の領主様だ」

 ロボコップは銀河に答え、ピーターに問いかけた。

「渚ユウジも現われたか?」
『まだだ。……今は復讐など忘れて事態の収拾に集中するんだ!』
「……お前は今どこだ?」
『僕かい? 僕は……』
「ここにいる!」

 彼らの頭上から声が聞こえた。
 顔を上げた一同の頭上をピーターが通過する。その手からは白いロープの様なものが建物から伸びており、それを振り子の要領で空中を移動し、空中で回転をすると彼らの目の前に着地した。

「ピーター。遊んでいる場合ではない」
「わかってるさ。だから、僕も本気を出すよ」

 ピーターは笑顔で左腕に付けられたブレスレットを見せた。
 そして、あどけない笑顔は不敵で挑戦的なものに変わり、彼はブレスレットに右手を当てて叫んだ。

「装着! スパイダーマンッ!」

 刹那、ブレスレットは光り輝き、赤と黒の地に蜘蛛の巣状の柄が描かれた戦闘スーツがピーターの身体に装着された。

「蜘蛛男?」

 思わず声を漏らす銀河にピーター、もといスパイダーマンは指をチッチッチと振り答える。

「いいや、違うよ。僕は蜘蛛の爾落人。糸は勿論、あらゆる蜘蛛の能力を持つ親愛なる隣人、スパイダーマンさ!」

 さわやかに答えるものの、流石の銀河も蜘蛛男と名乗る全身マスクに身を包んだ彼に若干引き気味に聞いた。

「その決め台詞、引かれないか?」

 衛生害虫を捕食する蜘蛛は古来より家の益虫とされているが、一方では不気味な容姿から不快害虫とする人もいる事実を告げようかとも思ったが、それを言わなかったのは銀河の優しさであった。
 しかし、当のスパイダーマンは表情こそマスクで分からないが、明らかに動揺した様子を見せる。

「……ひ、ひ、惹かれるのは、モテるからさ」

 訳のわからない解釈をして、誤魔化す。
 ロボコップが銀河の肩にポン、と手を乗せ、それ以上は何も言うなと首を振ってみせる。

「……まぁ、俺の田舎じゃ蜘蛛は田畑を貪る害虫を駆除する有難い存在だったな? ……ピーターさん?」
「フフフ、何を言っているんだい? 今の僕は、スパイダーマンだよ! さぁ、このコロニーの平和を脅かす害虫共を駆除しに行こうではないか!」

 そのまま高らかに笑いながら、スパイダーマンは手からロープのように太い糸を出し、隣のブロックへと向かってしまった。
 そんな姿を見送りながら、銀河はロボコップに聞いた。

「何、あれ?」
「……ここの軍部最高司令官だ」

 彼は口いっぱいの苦虫を噛み潰したかの様な渋い声で答えた。





 

 ターミネーターは両腕に構えたイレイザーをウルフとボスの双方に向けたまま一歩一歩近づいていく。
 ウルフは光学迷彩を使い、ターミネーターから距離を取ろうと動くが、ターミネーターは彼の足元にイレイザーを放った。
 閃光と共に地面が剥がれた。

「無駄だ。見えている」
『………』

 ウルフは光学迷彩を解除し、代わりにヘルメットから赤い三点レーザーを照射し、ターミネーターをロックオンする。
 ターミネーターはそれを気にすることなく、ボスに視線を向けた。

「お前に主から伝言だ。この「G」を共に倒すか、お前も俺に倒されるか。どちらにする?」
「面白い質問だな? わしが貴様ら機械如きに殺されると思うか」
「そうだ。今の俺は殺人に対する制限が解除されている。お前を殺すことも可能だ」
「なるほど。しかし、わしもマフィアのボスとしての立場がある。貴様の提案は、いわば同盟。ならば、貴様の主が顔を出して直接わしに申し立てるのが筋であろう? 敵を増やすか?」
「………」

 二人の間に沈黙が流れる。
 ウルフもプラズマ砲を放つ隙を掴めず、身動きが取れない。
 しかし、その沈黙は突如破られる。

「ウェブシュゥゥゥゥゥゥート!」

 通り中に響く声と共に蜘蛛の糸が連射され、ボスも、ターミネーターも、ウルフも、咄嗟に身をかわす。誰一人、糸に命中はしなかったものの、この奇襲に彼らの緊張は破られ、攻撃対象が確定した。
 即ち、奇襲を仕掛けた蜘蛛の糸を放った人物。スパイダーマンだ。

『敵』
「ピーター……理解した」
「撃てぇーっ!」

 プラズマ砲、イレイザー、対空地艦ミサイル砲が一斉に華麗な着地を決めようとするスパイダーマンを襲う。

「うわっ! おおっ! とうっ! ……危なっ!」

 ギリギリのところで、糸を飛ばして自らの身体をバンジージャンプの如く跳ね上げて、攻撃をかわした。彼の後方で建物が爆撃を受けて次々に崩れる。
 スパイダーマンはビルの屋上に着地し、膝をついた。

「なんなんだ、あいつら! 敵も味方も関係ないのか!」
『単身で渦中に飛び込んだお前が悪い』

 ロボコップが通信で彼に苦言を漏らす。

「悪かったよ。だけど、なんで民間人が対空地艦ミサイル砲なんてぶっ放せるんだ?」
『あの男は代々「帝国」の地下組織を束ねるマフィアのボスだ。昔からあの一家は怪獣級の「G」も相手に戦う、歌って踊れるマフィアだ』
「それは冗談のつもりかい?」
『ジョークのつもりだ』
「……まぁいい。本当にさっさとケリをつけないと、このコロニーも極北領の二の舞だ。……ん?」
『どうした?』

 ロボコップに問われ、スパイダーマンは映像を送る。
 ビルの屋上にいる彼には、コロニーの広い範囲を見渡せていた。コロニーは円形で、大昔のクレーターの上に築かれたと伝えられている。その中心は中央広場になっており、そのやや北部に中央司令部の城がある。
 彼は中央広場の中心に淡い光を見つけたのだ。そこに存在するものは、一つしかない。
 宇宙より飛来した「G」としてこのコロニーのシンボルにもされている。北欧の神話からそれをムジョルニアと呼ばれている。それが、光っていた。

『これは……この上にまだ何かが起こるというのか?』
「そうらしいな。で、そっちは?」
『こっちか。……お前が離脱した為、現在戦闘中だ!』

 そういえば、先ほどから爆音がしていると今更思い出したスパイダーマンであった。

「なら、そのまま頼むよ。僕はムジョルニアが気になるか……らあぁぁぁ?」

 彼が言い終える前に、更なる事態が発生した。
 地鳴りと共に、中央広場の地面が盛り上がり、地中から巨大な球体が出現したのだった。

「なんだこりゃぁぁぁぁ!」

 彼にできることは叫ぶこと、それだけであった。





 

 数分前、スパイダーマンが攻撃を回避し、戦場を離脱した直後、銀河達も戦場に移動していた。

「無茶苦茶だな?」
「常識が通用しない奴らなんだ」

 銀河が驚く隣でロボコップは冷静な口調で銃を構える。
 朱雀も颯霊剣を抜く。

「今回ばかりは厄介だな?」

 銀河は人生初の心理なしでの戦場に、苦笑をしつつ工具箱を開いた。
 適当に倉庫で掴んできたものであったが、蓋に書かれた解説には大型兵器修理用の工具と記述されている。

「ガキの頃を思い出すな?」

 銀河はドライバーを掴んだ。柄にボタンがついている。
 刃が電熱を帯びたサーベルを構えて襲い掛かるマフィアの下っ端に、銀河はドライバーを構え、飛び上がる。
 そして、ボタンを押すと同時に叫んだ。

「でぃばいでぃんぐぅぅぅどらいばぁぁぁぁぁぁっ!」

 銀河の持つドライバーは巨大化し、先端は地面を突き、その衝撃で地割れが起こり、下っ端の足元をすくませ、転ばせた。

「物は試しだな? ……おい!」

 銀河は笑みを浮かべると、すぐさま転んだ男の喉下にドライバーを押し付けた。

「巨大化したら、その首がどうなるかはわかるな? 武器を捨てろ! そして、この場から立ち去れ!」
「へへへ、後藤さん。あっしもプロなんですわ。そうそう大人しくは……」
「黙れ!」

 銀河はボタンを押し、巨大化したドライバーが男の首を押し付け、地面を抉る。
 先端をそらし、首を切断することはなかったが、十分に相手への脅しとなったらしく、彼は大人しくサーベルを手放す。

「それでいい。堅気につけよな? クーデターみたいなことができるのは、本当に己を捨てられる奴か、欲に狩られた奴くらいだ」
「後藤さん……! 危ない!」
「へ?」

 男の声に後ろを振り向く銀河。ターミネーターがイレイザーを構えていた。

「地獄で会おうぜ」
『否!』

 ウルフがターミネーターのイレイザーを蹴り飛ばす。

「お前を倒すのはこの俺だ!」

 更にロボコップがもう一方の腕に持つイレイザーを銃で撃ち抜く。

「旧式め」
「お前とは違う! 俺は人間だ!」

 ロボコップが声を荒げて発砲し、ターミネーターの胸部を撃つ。
 しかし、機械のターミネーターはそれで倒れない。更にロボコップが発砲しようとすると、それをウルフが間に入り制する。

『獲物』
「……好きにしろ。用があるのは、そいつの主だ」

 ロボコップの言葉を受けて、ウルフは両手でマスクをゆっくりと外した。
 片目が白濁したウルフ・ザ・プレデターの素顔が露わになる。

「なんて醜い顔だ」

 素顔を見たターミネーターが思わず呟いた。
 対するウルフは、咆哮を上げ、スピアをターミネーターの腹に突き刺す。

「かゆいな」
『………』

 ウルフは右手を翳す。スピアがターミネーターから抜け、手元に戻った。

「その槍も「G」ということか」
『グングニル』

 ウルフはスピアの名を答えた。神器の一つであり、使い手の選士の意のままに手元へと戻る力がある。

「この地には似合いだ。異形のオーディン」
『ウルフ!』

 自らの名と共に、ウルフはグングニルをターミネーターの頭部に突き刺した。
 そして、力の限り腕を振り動かし、ターミネーターの頭部を砕いた。
 火花を散らし、ターミネーターは沈黙した。

「やったのか?」

 朱雀が銀河に問いかけた。
 朱雀の後方を見ると、マフィアは全員倒されていた。

「案ずるな、みねうちだ」
「いや、そういうことじゃなくて……すごいな?」
「この程度の人間、朝飯前だ」
「ボスは?」
「見失った。逃げるような男ではないから、恐らくまた何か兵器を持って戻ってくる」
「嫌な予感しかしないな?」
「そうでもない。味方なら、頼もしい男だ」

 朱雀はそういうが、味方にはならないと思う銀河であった。

『諸君! まさかT‐800を全滅させるとは、恐れ入った! いや、実にエレガントだ!』

 突如、ターミネーターの上に老人の映像が現われた。

「渚ユウジ!」

 ロボコップが冷静さを失って映像に向かって銃を乱射する。

『残念だが、これは映像だ。冷静な君らしくないな、ロボコップよ。かつて心理の爾落人であった君はもっと客観的に事実を見れる男であったぞ?』
「心理?」

 銀河は思わず声を上げた。
 渚が銀河に気づく。

「ん? 君は……」

 しかし、その間にロボコップが割り込み声を荒げる。

「渚ユウジ、もうお前は終わりだ! すぐにお前の居所を突き止めるからな!」
『ふっ、まさかな。……ロボコップ、わしは逃げも隠れもしないぞ! わしは……』

 地響きが起こり、中央広場上空に巨大な球体が現われた。

『ここにいる!』




 
 

 巨大な球体は、ゆっくりと変形し、手足が伸び、ヒトの形になる。

『形式名をGR1。ゴート、それがこのロボの名前だ!』

 渚の声がコロニー中に轟く。
 鈍色の人型ロボットは全身特徴のない影法師の様な姿をしている。唯一特徴となるのは、頭部に光るモノアイだ。

『諸君、今宵は我が対「G」ロボット兵器最高傑作、ゴートと踊り明かそうじゃないか!』
「またお前はふざけたことを! 許せん!」

 ロボコップは銃をゴートに向けて発砲する。

『効かん効かん! マイクロ原子炉搭載のナノマシンが合体したゴートは、損傷はおろか傷という言葉すら無縁な存在だ!』
「原子炉がナノマシンに搭載されているだって? ばかばかしい!」

 スパイダーマンが嘲笑混じりに言う。

『ふっ! 怪人蜘蛛男、貴様の知る科学の常識がいつまでも通用するものと思うな! 見るがいい! これがGR‐1の力だ!』

 刹那、ゴートの眼が発光し、光線が放たれ、スパイダーマンのいたビルが一瞬にして吹き飛んだ。
 間一髪でビルから逃げたスパイダーマンは銀河達の前に着地する。

「なんなんだ! あの強力な光線は!」
『収束放射熱線の威力は上々だ。本当は全身から放出させる拡散放射熱線も試したところだが、このコロニーを一瞬で焦土にしては意味がないからな』
「そんな真似、絶対にさせん!」

 ロボコップが叫ぶ。

『貴様の力は封じられている。いくら叫ぼうと心理がわしに届くことはない』
「くっ!」

 炎が舞い上がる瓦礫を隔てて立つゴートを見上げて、ロボコップは唇を噛む。
 そんな彼に銀河は疑問を投げかけた。

「あなたは心理の爾落人なのか?」
「そうだった。しかし、100年前に俺の体はこの地に現われた「G」との戦いで一部を残して失われた。死ぬはずだった俺をこの男は実験台に利用し、眠ることもできないこの体にされた」
「無事だったところは?」
「頭部……顔の表面と、ここだけだ」

 ロボコップは自分のこめかみの辺りを指で示した。脳だけは無事であったのだろう。

「……何故、彼は心理を封じたんだ?」
「知らん! あの時、このコロニーも大半が消滅し、人口の9割が死んだ。黒い魔物……あの「G」がその後どうなったのかも、俺は知らない」
「……黒い魔物」

 銀河は脳裏に複数の「G」の姿が浮ぶものの、どれも話のようなおぞましい破壊行為をするほどの理由に心当たりがなかった。

「心当たりがあるのか?」

 朱雀が銀河に聞く。

「いいや。ありすぎてわからないともいえるが、原因もなく殺戮をするような者はいない。残忍と非道は違うからな?」
「そうか。……お前が力を失っているのと何か関係があるのか?」
「違うだろうな? ……そうか」

 銀河は言いながら、ニューヨークで動力炉に自分の力が封じられたということを思い出した。

「どうした?」
「もしも俺と同じように力を封じ込める装置があって、それが彼の体に埋め込まれているとすれば………いや、しかしそんなものがアレ以外にあるのか?」

 考えを呟く銀河だが、その瞬間、一つの可能性が脳裏に浮んだ。
 銀河はゴートを見上げた。

「何かわかったのか?」
「……コップさん、もしかしたら心理の力を取り戻せるかもしれない」
「ロボ・コップという氏名でなく、ロボコップという呼称なのだが……それは、本当か?」
「あぁ。……朱雀、ウルフ、スパイダーマンさん、全力であのロボと戦ってください。俺は、渚ユウジを彼と一緒に止めます」





 

 一方、朱雀の猛攻を逃れたボスはゴートの後ろに回り、地割れで荒れた公園内にいた。

「……間違いない。ムジョルニアが覚醒している」

 ボスは光り輝く鎚、ムジョルニアに向かった。
 北欧神話でトールが持つとされる伝説の鎚の名を宿し、神話のムジョルニアと同様に担い手以外には持ち上げることができない。
 しかし、その「G」が今は覚醒している。ムジョルニアに選ばれた者がこの近くにいるのだ。
 今までにもムジョルニアは覚醒をしかけたことが幾度かあったと伝えられる。その際は、ムジョルニアに選ばれた者以外も物理的に動かすことが可能であったという。
 動かせるとはいえ、それはとても鎚を扱うとはかけ離れたものだったという。
 しかしながら、かつて人はこれを十数メートル上昇させ、クレーターを埋め、台の上にムジョルニアを置いたと伝えられている。
 つまり、大きな力を用いれば、今のムジョルニアは動く。

「最後の武器だ」

 ボスは口の奥に指を突っ込み、奥歯を抜き取った。
 奥歯の中に仕込まれた小さな機械を取り出すと、両脇を掴んで回した。
 機械の中心が赤く点滅を始めた。

「微小であってもN2爆薬の威力は強力だ」

 ボスはムジョルニアに機械を取り付けた。
 爆発してムジョルニアが吹き飛ぶ方向は、ゴート、そして銀河達のいる方向だ。

「がははは! 死なば諸共だ!」

 そして、まもなく機械は大爆発を起こし、ムジョルニアは吹き飛ばされた。





 

 ビルの影に隠れた銀河はロボコップの装甲を外し、複雑に入り組んだ内部の構造を調べていた。

「お前、機械に詳しいのか?」
「ん? 一応、携帯は持ってなかったけど、FAXなら一、二回使ったことがあるぜ?」
「………」

 ロボコップの頬を冷却液が流れる。

「大丈夫だ。俺の嫌な予感が当たっていれば、見つけられる」

 そして、動力部分の保護板を外し、動力が露わになった。

「……力と肉体を失った心理の爾落人。お前は、力を取り戻したいか?」

 銀河はロボコップを見下ろして問うた。
 その姿は、彼には神々しさすら感じられるほどの威圧であった。

「お前は、何者なんだ?」
「後藤銀河、力を失った真理の爾落人だ。お前に問う。お前は何者だ?」

 銀河の黒い瞳が彼を見つめる。その瞳に映る自分に、彼は同じ質問をした。
 お前は何者か。それは、この体になった時に捨てたもの。
 過去と共に記憶の奥底へ封じ、渚ユウジへの復讐を刻んだ記憶の蓋を開ける鍵。
 俺は何者か。

「俺は……心理の爾落人、アレックスだ!」

 その瞬間、彼の動力炉が光った。
 同時に銀河の心を揺さぶる衝撃が走った。

「心理、解放されたな? アレックス」

 銀河に言われ、外された装甲を取り付けたアレックスは、ヘルメットを脱ぐとニヤリと笑った。

「そのようだな?」

 刹那、公園で大規模な爆発が起こった。





 

 戦うとはいえ、巨大なロボットと三人では大きさにあまりの差がある。

「このサイズの「G」と戦ったことは?」

 スパイダーマンが聞くと、朱雀は深呼吸をして答えた。

「以前、岩屋の邪神柳星張を滅した」
「そいつは心強い。おたくは?」
「ない」

 ウルフはぶっきらぼうに答え、マスクを取り付ける。

「そうか。僕は、前に巨大な蜘蛛と蛇を倒したことがある」

 スパイダーマンも言うが、誰も聞いていない。
 彼の言葉を最後まで聞かず、朱雀は颯霊剣を構え、飛び上がった。

「百式改ぃぃぃっ!」

 風の渦を纏い、ゴートに襲い掛かる。
 続いてウルフもグングニルを構え、駆け出す。

「おい! 話ってのは最後まで聞くもんだぞ!」

 スパイダーマンも糸で体を飛び上がらせ、ゴートに糸を連射する。

『無駄無駄無駄ぁぁぁぁぁぁっ!』

 ゴートの体が一瞬で粉末上に分裂して周囲に広がり、三人の攻撃は外れた。
 そして、すぐにナノマシンは集り、ゴートの体に合体する。

「捕らえられない!」
「ならば、捕らえられるようにするまでだ!」

 スパイダーマンが網目の細かい糸を次々に飛ばし、ゴートを捕らえる。

「どうだ!」
『ふっ! 熱に耐えられねば、大したことないわ!』

 ゴートの全身が発光し、一瞬で全身を捕らえた糸が燃え尽きる。

「そんな!」
『この程度の放射、面白くもない! 次はこのコロニーを燃やすぞ!』
「くっ!」

 ゴートはゆっくりと三人へと迫る。
 しかし、三人のうち朱雀だけはゴートではなく、別の方向を見つめていた。

「なに余所見してんだよ!」

 スパイダーマンが朱雀に言うが、朱雀はそれを無視して両目を閉じる。

「お前は何者だ? いや、お前は……」

 朱雀が遥か大西洋の方角の雲へ向けて颯霊剣を翳した。
 その瞬間、公園で大爆発が起こった。
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