本編

15


 記憶が繋がった凱吾は、外へと飛び出すと、喉が千切れんばかりに叫んだ。

「装ぉぉぉぉぉぉぉ着っ!」

 その瞬間、不思議と力がみなぎるような感覚がした。真スーツの外見は、変わらない。
 しかし、凱吾にはわかっていた。記憶を取り戻したことで、何かが変わった。
 彼は、愛鷹山を見上げた。

「うぉぉぉぉぉっ! 蛾雷夜ぁぁぁぁっ!」
「凱吾殿!」

 後を追ってきたガラテアの目の前で、凱吾の真スーツは雄叫びに呼応する様に赤いオーラに包まれた。

「凱吾さん!」
「これは一体……」

 ローシェとイヴァンもその光景に息を呑む。
 凱吾は振り向くと、イヴァンに近づいて言った。

「イヴァン、Jの力を貸してくれ」
「え? しかし、これは他の人間には……」
「大丈夫だ。貸せ」

 イヴァンは言われるがままJスーツのバックルを凱吾に渡した。
 凱吾はそれを自らの真スーツの上から腹部に当て、叫んだ。

「Jスーツ、装着!」

 刹那、真スーツが巨大化した。
 ローシェ達の目の前に全身を赤いオーラで纏った巨大な真スーツレベル3の凱吾がそびえていた。

『師匠と姉貴は、ここを守ってくれ。俺は、蛾雷夜と戦う!』

 凱吾は足元の彼らに告げると、ゆっくりと膝を折り、身を屈めた。
 次の瞬間、土埃と衝撃を巻き起こし、凱吾は地面を蹴り上げた。巨大な真は建物を飛び越え、先刻の戦いで焦土と化した愛鷹山の森に地響きと共に着地、そのまま走りだした。

「凱吾! ……きゃあ!」

 ローシェが叫ぶが、凱吾の蹴り上げた大地によって舞う土埃に思わず身を屈める。
 凱吾の走りは加速を続け、土煙が晴れた後には、その姿はもう見えず、舞い上がる土埃の筋が遥か山に残るだけであった。

「彼は一体何を……」
「わからないわ。でも、のんびり彼の後を追うことも、帰りを待つことも出来なそうよ」

 ローシェが呟くと、レイアは冷静な口調で駿河湾を指差した。
 一同が駿河湾を見ると、巨大な「G」が自分達のもとへ迫っているのが見えた。

「レイア殿、見えるか?」
「空間を探査するくらい朝飯前です。……グリードですね。随分とマニアックなものを」

 ガラテアに聞かれたレイアが答え、右掌の上に海中を進むタコに似た巨大な「G」の立体映像を浮かび上がらせた。

「便利ですね」
「読み取ったイメージを光で出力しているだけですよ。光も時空を移動している存在ですから、イメージに合わせて光を留めてしまえば、ご覧の通りです。派手な攻撃技はありませんが、頭部以外にも無数の触手に鋭い歯のある口が存在し、対人戦に優れています。彼はJを渡してしまいましたし、戦闘に慣れているのはガラテアさんだけですね、困りましたね?」
「あなたが倒すという選択肢はないのですね?」

 ローシェがレイアを睨みつけていうと、彼女は不敵に笑った。

「私が本気で戦ったら、太陽系が消滅しますよ?」
「………」
「上陸するぞ!」

 睨み合う二人の間を割って、ガラテアが叫んだ。
 一同が再び海岸を見下ろす。海岸に黒い巨大なタコが上陸していた。
 そして、グリードは触手を次々に伸ばしていく。長い。海岸から10キロ以上は離れている開発部まで触手を伸ばそうとしていた。
 高速で迫る無数の触手が彼らの元へと到達するまでに猶予はあまり残されていなかった。

「戦うしかありません。イヴァン、私達も武器を」
「はい!」
「お待ちなさい!」

 ローシェの指示でイヴァンが武器を取りに格納庫へ走ろうとしたところを、レイアが呼び止めた。

「あれを見なさい」

 振り返ったイヴァンとローシェにレイアは駿河湾の遥か先の空を指差し、言った。
 ガラテアも加わり、三人は柵から身を乗り出してその空を見た。
 雲の中を何かがこちらに向かって飛んでいた。

「鳥?」
「飛行機では?」

 ローシェとイヴァンが言った。
 しかし、ガラテアにはそれが何か知っていた。

「いや、あれはギャオスだ!」
「ギャオス? 覚えのない名前ですが」

 ローシェが聞くと、ガラテアは遥か海上の空を翔る怪鳥から目を放すことなく答えた。

「アトランティス帝国の生み出した四神の一つ、朱雀だ。私達はあの「G」をそう呼んだ」
「あれは味方なのですか?」
「ある時は敵であり、ある時は味方だった。それが四神であり、その目的は私達と同じ、世界を守る為……。今回は、味方だ。しかし……」

 ガラテアは言葉を詰まらせる。彼女は感じ取っていた。まだその巨体をはっきりと目視できないギャオスからは、四神とは違う何かを感じていた。そして、それが何かを彼女は知っていた。

「ガラテアさん?」
「どうした?」
「その……涙が……」
「え?」

 ローシェに呼ばれてガラテアは初めて自分が涙を流していたことに気づいた。
 一方で、グリードの触手はまもなく愛鷹山の麓へと到達しようとしていた。
 しかし、その無数の触手は突如天空から落雷の如く放たれた光線によって切断された。

「グオォォォオ!」

 グリードが触手を縮め、空に向かって咆哮をあげた。

「ギャァァァッ!」

 ギャオスも咆哮を上げながら、駿河湾上空を進み、続けざまに光線を放つ。グリードの触手が次々に切断され、グリードはもがく。

「すごい……」

 レイアの映すイメージを見て、イヴァンは思わず声を漏らした。
 一方、ローシェはそのギャオスの上に複数の人影があるのに気がついた。

「人がいる」
「ほ、本当ですね! 彼らは一体……」

 イヴァンもそれに気づき驚く。
 低空まで滑空してきたギャオスは、衝撃波で水しぶきを上げながら、海岸のグリードの真上を通過した。
 その瞬間に、一つの人影がグリードの目の前に降り立った。すぐさま、鎧を纏ったその人影にグリードの残った触手が襲い掛かる。
 しかし刹那、その手から光る何かが放たれ、次々に触手が切断されていき、大きく円を描き、それは再び手に戻った。

「ブーメランでしょうか?」
「あ、危ない!」

 隙を突いて、後ろから触手が口を空けて襲い掛かる。思わずローシェが叫ぶ。
 しかし、触手は一瞬で倒れた。その付け根には、その人物が持つ槍が刺さっていた。あまりの早業に二人は全く見えなかった。
 更に、ギャオスが大きく旋回して、再びグリードに光線を放つ。グリードの頭部が次々に切断され、体液が周囲に飛び散る。
 そのギャオスの上に仁王立ちをする人影が見えた。人影は長い剣を構え、ギャオスがグリードの真上を通過する瞬間に、飛び降り同時に掛け声と共に剣を振るった。

「百式ぃぃぃぃぃ改っ!」

 人影は剣の先端から巻き起こる竜巻と共に、グリードの頭部を八つ裂きにし、数十メートルもある巨大な「G」を完全に沈黙させた。
 ギャオスは再び彼らに迫り、二つの人影は通過する瞬間に足に飛び移った。
 そのまま、ギャオスは真っ直ぐ彼らの元に迫る。
 身構えるローシェとイヴァンだが、ガラテアは前に出てギャオスに向かって叫んだ。

「銀河殿ぉぉぉぉぉぉぉっ!」



 

 

 一方、先にレギオンと共に飛び出した瀬上は旧御殿場市に当たる森林で、蛾雷夜が怪獣となった姿、オルガと激闘を繰り広げていた。

「化け物がぁ! 喰らえ!」

 瀬上は小型レギオンに背中を掴んでもらい空を飛びながら、オルガへ次々にレールガンを放つ。
 同時にマザーレギオンも電磁砲を放つが、オルガは傷をすぐに再生させる。

「キリがねぇ……」
『その程度か、電磁の爾落人』
「うるせぇ! レギオン!」

 瀬上の声に呼応して、マザーレギオンは腹部のチャンバーから無数の小型レギオンを放つ。

『目障りな真似を……ならば、こちらも』

 オルガは咆哮を上げながら、長い両腕を地面に叩きつけた。

『出でよ。我がしもべ』

 刹那、大地が揺らぎ、オルガの目の前に巨大なロボットが姿を現した。

「まさか、またアイツか!」

 瀬上は覚えていた。そのロボットの名は、メカゴジラ。恐竜型「G」怪獣の代表格として語られるゴジラの名を与えられたそのロボットは、かつて沼津防衛戦で瀬上達が苦戦を強いられた全身が武器といっても過言ではないロボット兵器だ。

『行け、メカゴジラⅡ』

 蛾雷夜の声に反応したメカゴジラⅡは、即座に両腕を構え、手を高速で回転させながらミサイルとなっている爪を次々に放ち、小型レギオンの群れを一掃する。
 更に眼から七色に輝く光線をマザーレギオンに放つ。
 すぐにレギオンも対抗して電磁砲を放つが、メカゴジラⅡはバリアーを張り攻撃を防ぐ。
 そして、攻撃が止んだ瞬間に、全身からミサイルを一斉掃射し、レギオンを吹き飛ばす。

「レギオン! ……畜生ぉぉぉ! 鉄屑野郎がぁぁぁ!」

 瀬上は電磁を操り、磁力でメカゴジラⅡを地面に叩きつけた。
 しかし、メカゴジラⅡはジェット噴射で強制的に磁力から逃れ、頭部を瀬上に向け、口から火炎放射を放った。

「うわぁぁぁ!」

 瀬上は間一髪のところで小型レギオンから離れ、地面に落下して業火を逃れたが小型レギオンは瞬時に燃え尽き、瀬上自身も身体を強打した。

「痛ぇーっ!」
『そこだな?』

 瀬上の頭上をオルガの巨大な腕が木々を薙ぎ倒して通過する。
 木々が倒れ、目の前にオルガの頭部が現われた。
 瀬上は、今度こそ死を覚悟した。

『終わりだ。電磁の爾落び……』
『とぉぉぉぉぉうっ!』

 瀬上は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
 目の前にいたオルガが巨大な真スーツに蹴り飛ばされていた。

「まさか……凱吾なのか?」
『瀬上、悪いが、コイツは俺に倒させてもらう!』

 凱吾は全身に真っ赤なオーラを纏わせていた。
 瀬上は、その気配に爾落人や「G」とも違う不気味なものを感じた。

『MM88を自らの力にしたか』

 蛾雷夜の声が言った。

『あぁ。あんたの生み出した蒲生五月の写し身の形見だ。コイツは俺を擬似的に巫師体質にさせただけじゃない。MM88の力は記憶も、身体も、生体反応の限界も、そして「G」と巫師にある適性をぶっ壊すとんでもないもんなんだろ?』

 凱吾の語るMM88の力を聞いた瀬上は、それが何を意味するかすぐに気がついた。

「それってまさか……あいつの力を?」
『貴様は知っていたか。……そうだ、MM88は模倣の「G」だ。そして、我に対を成す力を模倣させた』
「そういうことか。これで和夜が万物を再現できたのか、わかった。あいつはあの写し身からナカムラが採取したMM88と同化した! そういうことだな?」
『奴のした事は我の感知の外だ。はっきりとしているのは、貴様達が今ここで我に倒される。ただ、それだけだ』

 蛾雷夜が言い終わると同時に凱吾をメカゴジラⅡの一斉掃射が襲う。
 しかし、凱吾はすばやく飛び上がり、それを回避した。

『蛾雷夜、まさか巨大武器庫がロボット兵器だと言うんじゃないだろうな?』

 地響きと共に着地した凱吾はメカゴジラⅡと距離をとり、言った。

『笑止!』
『面白い! そこで待っていろ! すぐにコイツをスクラップにする!』

 凱吾はオルガから視線をメカゴジラⅡに移し、両手を構えた。ガラテアと同じ構えである。

『うぉぉぉぉぉぉぉ!』

 雄叫びを上げながら凱吾はメカゴジラⅡとの距離を一気に縮め、両手の爪と腕に並んだ棘でメカゴジラⅡに攻撃を浴びせる。

『えいっ! やぁっ! とうっ! まだだぁぁぁうぉぉぉおおらっおらっおらっ!』

 容赦のない連続攻撃にメカゴジラⅡも反撃の隙がない。
 しかし、激しく火花は飛び散るものの、厚く硬い装甲を完全には切り裂けない。

『ならっ!』

 凱吾は身を翻し、回し蹴りをメカゴジラⅡに放つが、その隙を突いてメカゴジラⅡは両手のミサイルを撃つ。

『ぐはっ!』

 直撃を受けた凱吾は地面に倒れる。が、すぐさま片足を掴み、メカゴジラⅡを転倒させる。
 その機会を逃さず、凱吾は地面を突き上げ、メカゴジラⅡの上に飛び乗り、マウントポジションを奪う。

『ジャンクにしてやるぜぇぇぇっ!』

 叫びながら、凱吾はメカゴジラⅡの顎を両手で掴み、渾身の力で下顎を破壊し、投げ捨てた。
 しかし、対するメカゴジラⅡもジェット噴射で飛び上がり、凱吾を振り落とす。

『ぐはっ! ……面白い!』

 空中から光線とミサイルを浴びせるメカゴジラⅡに凱吾は地面を蹴り上げ、上空で踵落としを肩にくわえる。バランスを崩したメカゴジラⅡは地面に落下した。

『ロボット兵器の力がそんなもんの訳がないだろう?』

 全身の赤いオーラを一層大きくさせ、凱吾がメカゴジラⅡに迫る。
 立ち上がったメカゴジラⅡは全身からミサイルを凱吾に一斉射撃するが、凱吾の動きは止まらない。

『飛び道具だけで戦うのがロボットじゃねぇ! そんな通り一遍等の攻撃しかできないのか? もう少し骨があると思ったが、お前は装甲だけの骨なしだ』

 凱吾の全身を包んでいた赤いオーラが左腕に集約される。それはまるで腕全体から湧き上がる湯気の様に帯を引き、左腕全体を赤く染める。
 メカゴジラⅡは両目から七色の光線を最大出力で放出した。
 しかし、凱吾はそれを左腕一つで受け止めた。

『それが……お前の限界かぁぁぁぁぁぁあっ!』

 光線を受けた左腕は光線を吸収したかのように七色に輝き、次の瞬間に真っ赤な灼熱の炎に変化し、先までのオーラに代わって左腕全体を包みこむ。そのまま凱吾は地面を蹴り、左腕でメカゴジラⅡの頭部を掴んだ。炎に包まれ溶ける頭部から湯気が上がる。

『爆砕っ!』

 メカゴジラⅡの頭部は真っ赤に燃え上がる左腕に握りつぶされ、粉砕した。
 凱吾の足元にメカゴジラⅡの胴体が地響きを上げて倒れた。
 そして、凱吾はゆっくりと蛾雷夜に身体を向けた。

『次は、お前の番だ』





 

「本当にあの餓鬼、倒しやがった……」

 木々の間から始終を見ていた瀬上は、思わず声を漏らした。
 彼の眼前には、怪獣オルガと対峙した巨大な真スーツが赤いオーラを纏った左腕を構えていた。
 その足元には、尚も黒煙を頭部から上げるメカゴジラⅡ。

「レギオン、動けるか?」

 瀬上は電磁波でマザーレギオンに呼びかけた。先の戦闘の影響でかなり薄弱な反応であったが、問題ないという旨の応答があった。

「無理はするな。悔しいが、あいつらは俺達よりも強い」

 具体的な応答はなかったが、瀬上は肯定と解釈し、この戦いをしばらく見物することにした。
 先に動いたのは案の定、凱吾であった。

『うぉぉぉぉおおおお!』

 凱吾は左腕を下に構え、オルガに向かって飛び掛り、一気に距離を詰める。
 同時に、左腕のオーラが収縮し、腕全体が真紅に染まり、前腕に並ぶ棘と爪が長く鋭利に伸びる。それはガラテアの爪を彷彿とさせる。
 凱吾は躊躇なくその腕を振るい、オルガの頭部を切り裂く。
 更に右腕からも突きを放ち、左腕の切り裂きも繰り返され、頭部は原形を失う。

『!』

 一瞬、凱吾の攻撃の手が止んだ。その僅かな隙を逃さず、彼の左側頭部をオルガのこん棒のように重い腕の一撃が襲った。
 凱吾はまるで投げ捨てられた人形の様に大地を転がり、木々を薙ぎ倒し、やがて地面にうつ伏せた。

『その程度か。……MM88の模倣を自在にできたところで、創造主の我の敵ではない』

 オルガの頭部は瞬く間に再生し、倒れる凱吾を嘲笑う。

「凱吾でもアイツは倒せないのか!」

 瀬上は地団駄した。
 悔しいのは凱吾も同じであった。目の前の木を掴み、握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。

『諦めの悪さは褒めてやろう。だが、それが命取りだと教えてやろう!』

 蛾雷夜は凱吾に向き、左肩にある穴を光らせる。

「まずい! アレを使う気か! ……レギオンッ!」

 瀬上が叫ぶ。すぐさまマザーレギオンは渾身の電磁砲を放った。
 刹那、オルガも左肩から光線を凱吾目掛けて放つ。
 咄嗟に身をかわす凱吾は、ギリギリのところでレギオンの電磁砲で光線を相殺され、回避に成功する。

『死に損ないの蟲が! ……メカゴジラ!』

 蛾雷夜が叫ぶと、倒れていたメカゴジラⅡが突然立ち上がり、失われた頭部の中に存在した砲口から光線が放たれた。光線に直撃したレギオンはその巨体を吹き飛ばされ、湖へと倒れる。

「レギオン! ……よかった」

 マザーレギオンの生存を悟り安堵する瀬上だが、もうしばらくレギオンが戦うことは出来ないと理解し、思わず下唇をかむ。
 凱吾一人で到底倒せる相手ではなかった。

『瀬上! 俺に電撃を放て!』

 再びオルガに向かって身を構えた凱吾は叫んだ。

「どういうことだ?」
『いいから放て! やっとコイツのことが分かってきたんだ……』

 真紅に光る左腕を見て言う凱吾の真意に気づいた瀬上は頷き、渾身の電撃を凱吾に向かって放った。
 一方、オルガは再び左肩の穴を光らせる。
 凱吾の左腕に瀬上の電撃が届くと同時に、オルガも光線を放った。

『うっしゃぁぁぁぁぁあっ! ライジングゥゥゥ……』

 凱吾は両足で大地を強く踏み込み、左腕全体を電撃が帯び始め、閃光が迸り、光線を左手で受け止めた瞬間に、電撃は左手に集約された。

『フィストォォォォォッ!』

 凱吾の電撃拳は、光線を留め、やがて僅かながら押し戻す。

「いけるか?」

 瀬上も思わず、その光景に食い入り身を乗り出す。
 しかし、その為に背後に立つ者の気配をすぐに気づくことができなかった。

『うぉぉぉぉぉぉぉおっ!』

 凱吾が一歩、足を前に踏み出そうとする。

『ふっ……面白い』
『なっ!』

 一瞬にして光線の威力が上がった。凱吾は足のバランスを崩し、一気に光線に押し飛ばされる。

『分子と残さず消え失せろ!』
『!』

 光線は巨大な真スーツの全身を包み、Jスーツが破壊され、巨体は元の真スーツへと戻り、左腕も電撃拳も敵わず肘までの前腕が砕け散った。
 凱吾は死を悟り、同時に意識を失った。
 光線を止めたオルガの視線の先に、凱吾は肉片一つ残されていなかった。
 しかし、オルガは忌々しげにメカゴジラⅡの方向に顔を向けた。

『貴様……』

 オルガとメカゴジラⅡの間に、凱吾を抱えるレイアが浮いていた。

「別に私が何も手出しをしないと言った覚えはありませんよ? 蛾雷夜、この勝負はこちらの負けでいいわ。状況が変わったとだけ教えておきますね」
『邪魔をするなぁ!』

 オルガがレイアに向かって腕を振るうが、その腕は途中で止まる。

『っ!』
「残念ね。……でも、女を殴る男にはいい罰ですよ。しばらく反省しなさい」

 それだけ言い残すとレイアと凱吾の姿は忽然と消えた。
 蛾雷夜が周囲を見ると、瀬上とレギオンの姿も消えていた。
 そして、腕はどんなに力を込めても動かない。時間が止められているかのように。

『魔女がぁぁぁぁぁぁっ!』

 蛾雷夜は大地を揺るがす咆哮の如き声で叫んだ。




 
 

 開発部の格納庫に凱吾を抱えて戻ったレイアに瀬上は駆け寄った。

「おい。どういうことだ?」
「あぁ、見たままですよ」

 瀬上の言葉の意味を理解したレイアは、彼に凱吾を渡して答えた。
 そして、その瀬上の下に老人が駆け寄り、凱吾の腕を調べる。

「お、おい。誰だ? このジジイ」
「大丈夫だ。元々中身がMM88によって模倣された腕の構造を作っていたのだろう。破壊されたスーツの腕を直せば、応急処置は可能だ」
「だから、誰なんだ、お前は?」
「「帝国」最高の発明家、渚ユウジとはわしのことだ」
「いや、知らん」

 瀬上が面倒臭いという表情で、イヴァンを見ると彼が答えた。

「「帝国」の第二東岸領の生き残りだそうです」
「生き残り? そのコロニーも壊滅したのか?」
「壊したのはわしじゃないぞ! ウルフと朱雀だ」

 渚ユウジという老人は、格納庫の壁に寄りかかる二人の男を示した。
 一人は和服を着て腰に刀を差し、男にしては長い髪を雑に一つに纏めている。無精ひげを生やした頬には刀傷が薄っすらと残っている。
 そして、もう一人は身長が2メートル以上の巨体で全身に武装をし、金属製のマスクを被り、ドレット状の髪に見える管が伸びている。

「……って、あいつ人間じゃないだろ?」
「ん? あぁ、ウルフ・ザ・クリーナー。プレデターと自称する種族で、正真正銘の異星人だ。ちなみに、もう一人の男は異世界人だ」

 凱吾の腕を直し始めた渚が答えた。

「はぁ?」
「まぁ詳しい話は後藤君から聞き給え」
「後藤? ……!」

 瀬上が渚に言われて、視線を通路に向けると奥からローシェとガラテアと共に格納庫に入ってきたのは、後藤銀河であった。

「やぁ、瀬上さん。お久しぶりです」

 銀河は緊張感のない笑顔で瀬上に挨拶をした。
15/26ページ
スキ