‐GHOST‐ 「夢想」者たちの戦い











1907年、イギリス・ロンドン。
18世紀の産業革命を発端にして、世界有数の繁栄と人口数を誇る大都市・・・ながら、その栄華と引き換えに貧富差や不衛生の極みによるパンデミック、ありとあらゆる犯罪が蔓延り、20世紀を迎えるに当たって多少は改善されたものの、未だ無秩序に排出され続けるガスが引き起こす白い混沌(カオス)の世界を、多様な人々が明日をも見えない日々を生きている「霧の街」。








そんな「霧の街」で生まれた、もう一つの混沌・・・安息の一時である筈の眠りの先の「夢」の中で、ロンドンの中心街・ブルームズベリーに住まう人々は、夜な夜な見えざる恐怖に襲われていた。






『タ・・・スケ、テ・・・!!』






・・・キィイイイッ・・・










『また謎のショック死体か・・・』
『外傷無し、毒物も無し・・・ここ3年で50人を越えるこの原因不明の遺体達、一体何なんでしょうね?』
『・・・やっぱり、「ジャック・ザ・リッパー」?』
『バカ、仮にも警官がその名を不用意に口に出すな!』
『ですが、ならこのロンドンでだけ起こるこの謎過ぎる連続死亡事件は何です!?不可解にも程があるでしょう!』
『でも、「ジャック・ザ・リッパー」も遺体に傷は残したぞ?』
『・・・そう言えば、夢に怪物が出て来て殺されかけた、って言うあの噂が出始めたのもショック死体と同じ3年前かららしいですね?』
『おいおい、「切り裂きジャック」の次は夢遊病かよ?』
『「KAIJU」、だったか?このロンドンを何だと思ってるんだ・・・』




昼下がりのウォーレン・ストリート。
その路地裏で、まるで悲鳴を上げているかのような恐ろしい形相をしたまま道路に転がる男性の死体を見ながら、駆け付けた警察官達が呟く。
彼らが呟いているのは、1888年にロンドンで娼婦達を多数殺害しながら、20年近く経った今もまだ捕まらずにいる謎の連続殺人鬼「ジャック・ザ・リッパー」、またの名を「切り裂きジャック」。
もう一つは、約3年前から人々の間で噂になっている、「夢」の中に現れる未知数の恐怖・・・総じて怪物の姿をしている事から、いつしか日本における巨大生物の呼称から名付けられたその恐怖の名は、「KAIJU(カイジュウ)」。
今日もまた「KAIJU」が誰かの夢を襲い、夢の世界を介してその誰か自身を壊し、謎のショック死を遂げる・・・人々はこの恐怖を、未だ姿を消したままの「切り裂きジャック」と被らせ、彼の再来だと密かに恐れる日々を過ごしていた。










その夜・・・ここは、誰かの夢の中。
またの名を、「夢想世界」。
大きな砲弾のような形をしたロケットが右目に突き刺さり、血を流しながらも不気味な笑顔を浮かべて夜空に輝く、顔の付いた月・・・その表面に、二体のKAIJUがいた。




キィキイイイッ・・・




一体は、手足と両手の鎌がやや大きくなり、目が黄色になった以外は正しく蟷螂に酷似した、緑色の体の昆虫のようなKAIJU・カマキラス。




ガァバァハハハハッ・・・




もう一体は、頭に多少の毛髪と一本角が生え、愛嬌よりも厳つさを感じる何処かガマガエルに似た面構えをした、深緑色のイボイボの表皮の爬虫類が人間のように両手を合わせて音を鳴らしながら、二本足で直立している・・・としか形容出来ない、ユニークなフォルムをしたKAIJU・ガバラ。




「こんのカマキリ野郎がァ!ガバラがぶちのめしてやらァ!!」




そして、ガバラの・・・いや、ガバラの中から聞こえて来るもう一つの意志・勇猛な男の声。
彼の叫びを合図に、ガバラは右手を振り翳しながらカマキラスへ走り、カマキラスもまた両手の鎌を突き立てながら羽根を広げ、ガバラへと飛んで行った。




「・・・ハッ、動きが単純過ぎンだよォ!」




高速で飛翔しながら迫るカマキラスの鎌による双撃が、ガバラの首へと振り降ろされる・・・その刹那。
ガバラは頭だけを後方へ下げ、カマキラスの鎌を一切の無駄の無い動きで回避し、不敵な笑みと共に頭の角を紫色にスパークさせながら、隙だらけになったカマキラスの顔面を、スパークと同時に電流を帯びた右ストレートで殴打。
強力なパンチに怯みながらも、カマキラスは急激に羽根を羽ばたかせ、即座に飛び上がってガバラと距離を取ろうとするが、その前にガバラはカマキラスの左脚を右手で掴み、そのまま再び角をスパークさせながら電流を右手伝いでカマキラスの全身に流す。




キィィィィイッ!




10000V(ボルト)を越える激しい電撃に、カマキラスは苦悶の叫びを上げる事しか出来ず、苦しみ紛れに両手の鎌を振り回すもガバラの顔面さえ掠める事は出来ず、やがて弱々しく体を月面の地へと落とす。




「くたばりやがれェ!この害虫野郎がよォ!!」




ガバラは全く抵抗出来なくなったカマキラスの体を両手で持ち上げると、そのまま上空に広がる宇宙へ目掛けて力強く放り投げ、しかる後にガバラも角をスパークさせながら跳躍。
大量の電流を纏わせた右の拳で、宙を舞うカマキラスの腹へと強力なアッパーを食らわせた。




キィィィイッ・・・!




悲鳴と共にカマキラスはなす術無く空中で爆発四散し、ガバラは月を割らん程の猛烈な勢いで月面に着地。
その衝撃で月は激しく揺れ、右目に刺さっていたロケットが取れてしまった。




「おッと、ちょっとやり過ぎたなァ?なら、とっととズラかるかァ!ガバラ!」




ガァバァハハハハッ・・・




何処か素っ頓狂な勝利の雄叫びを上げたまま、ガバラは夢想世界から瞬時に消え去り、後に残されたのは変わらず笑みを浮かべ続ける月だけであった。








『う・・・ううん・・・Zzz・・・』




所変わり、ラッセル広場のベンチ。
ベンチをベッド代わりに寝転ぶ、明らかに泥酔していると分かる、顔を赤らめた1人の男。
彼は酔いの勢いに任せたままベンチで眠りに付き、その直後から発作を起こす難病患者のような苦悶の表情を浮かべながら苦しみ悶えていたのだが、暫く後に唐突に現れた男女混成の集団に囲われ、また暫く後に彼らが去って行くや苦しい様子を一切見せなくなり、鼾(いびき)を立てながら快眠の中に入って行った。





『うんうん、今日も鮮やかに任務完了!これであの酔っぱらい君も快眠出来るわね♪』
「ってか、またカマキリ野郎かよ・・・まァ、オレのガバラだけで楽勝だったけどなァ?」
『楽勝言うなら、秒殺せんかいや?時間掛かり過ぎじゃろが?』
「あァん?てめェ、オレにケンカ売ってんのかァ?元ケンカ屋として、買うぞ?」
『上等じゃあ!今度こそワテの方が強いって事、思い知らせたるわぁ!』
『はい、2人共止めるんだな。次はシュガ君に行って貰って強さを証明する、それで今日は手を打つんだな。』
『おう、それでええわ。じゃから覚えとけや、タダシ!』
「はん、頭デコのてめェよりオレのオツムの方が容量あんだよ!」
『んじゃとぉ!』
「も~、わざわざぶり返してちゃタダシのおつむも変わんないって~。」
『それよりタダシ君、今回の「夢想」ってどんなのだったの?』
「ええっと・・・右目に弾が刺さった顔のある月でした。気色悪ぃったらありゃしねェっスよ。」
『あの酔いどれオッサンが、そんなキテレツな「夢想」を見とるんか?』
『それは間違い無く、「月世界旅行」と言う映画の影響なんだな。僕は観た事無いけど、世界中で話題になっているから、あの人もその映画を観て夢中になっていると思うんだな。』
『やっぱり?あたしはそれ、観た事あるよ!いや~、あんなトリックを凝らした映画を作るなんて、現代人もスゴいと思ったねぇ♪まさに創意工夫だね☆』
『そうなんですか。流石は、「想造」の芸術家のパレッタ先生。しかし、夢の中でならあの遥か彼方の月にも行けちゃうんだな・・・僕はいつか、本当に行って見たいんだな。』
「ダイコーなら、ほんとに行けちゃうんじゃない?わたしは本当にうさぎやかぐや姫が月にいるのか、気になるなぁ~。」
『じゃけど、宇宙には空気が無いんやろう?そもそもどうやって、あんな空の上まで飛ぶんじゃ?』
『まぁ、その辺りもいつか何とか出来る日が来るよ!なんなら、あたしが誰よりも早く造っちゃおっか?』
「オレはヘンな服よりは、そっちを造って欲しいモンだぜェ・・・」




そして、泥酔者をKAIJUから救った集団は夜空に浮かぶ満月を見上げて語らい合いながら広場を去り、霧の中へと消えて行くのだった。
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