‐Gives‐ 「夢限」大な夢のあと
1945年・8月6日。
日本・広島に原子爆弾「リトルボーイ」投下。
現文明史上初の、原子爆弾の実戦使用。
同年、8月9日。
日本・長崎に原子爆弾「ファットマン」投下。
二度目にして、現文明史上最後の原子爆弾実戦使用。
同年、8月14日。
日本、ポツダム宣言を受諾し無条件降伏。
同年、8月15日。
第二次世界大戦、終結。
1945年、9月3日。
私は戦艦・ミズーリでのポツダム宣言降伏文書調印式に乗じ、連合国軍の支配下に置かれた日本に上陸し、一ヶ月前に原爆が投下された地・広島を訪れた。
原子爆弾の存在自体は知っていたが、後に「原爆ドーム」の名を与えられる建物以外は等しく灰色の光景と、苦悶の表情を浮かべる人々しか見当たらない、正しく地獄絵図と形容出来る様相を見ると、たった一つの爆弾がこの光景を作り上げた・・・間違い無く人類史上最大の「兵器」であると、思わざるを得なかった。
地獄絵図を渡り歩いた私は、原爆の炎・死の灰・黒い雨・・・放射能を浴びて被曝した者達が隔離収容されている、ある病院を訪れた。
念の為に放射線を遮断するコートを着用し、病室に入る事すら許されなかった哀れな被曝者達を横目に、一階の廊下の最も奥の病室を目指す。
誰の案内を受けずとも、私には目的の場所が・・・「彼」の居場所が、感じられるからだ。
「・・・て、めェかァ・・・」
病室に入り、呻きを上げる被曝者達の中から「彼」を見付けて傍らに立つや、すぐに「彼」も私に気付いた。
60代半ばで被曝したにも関わらず、私を見ると共にその包帯姿を起こそうとする、老いてもなおその闘志と強い眼光は「あの日」と全く変わらない、1人の男。
「ホント・・・てめェはいつ見ても、変わらねェなァ・・・」
『当たり前だ。私は爾落の者だからな。』
「はっ、てめェは人間じゃねェもんなァ。まァ・・・今のオレも、もう人間じゃねェのは一緒か・・・」
『そうだな。少なくとも、「あの日」のお前では無いのかもしれない・・・残念だが。』
「ズバリ言うんじゃねェよ・・・ブッ飛ばすぞ?」
『出来るものなら、して欲しいものだな?』
「チッ、てめェはいつだってムカつく野郎だァ・・・それで、何をしに来た?こんなオレを、笑いに来たのかァ?」
『そうしたい所だが、いざお前を見るとその気も失せてしまった。正直、私も何故ここに来たのかはっきりとした理由が分からずにいる。我が主の為ならば、私は障害となるものを数え切れない程に全て壊し、奪って来た。私は主以外の誰が死のうとも何の感慨も湧かないし、嘆き悲しむ事もまた無い・・・まぁ、今の私が自由の身なのもあるのかもしれないが・・・」
「・・・つまりは、オレに会いに来たんじゃねェのか?まどろっこしいんだよ、てめェはよォ・・・」
『・・・そうかもしれないな。』
「ついでに、てめェに一つ・・・言ってやりてェコトがある・・・」
『何だ?』
「耳の穴かっぽじって、よーく聞きやがれよォ・・・!てめェならここ広島と、長崎をこんなにした、あの爆弾を造れるのかもしれねェ・・・だが、それだけは二度と、金輪際、絶対にやるんじゃねェ!!」
『・・・』
「もし破ったら・・・オレが、『アイツ』が化けて出て、ブッ殺してやるからなァ・・・!覚えとけよォ?」
・・・この時の「彼」の言葉を、私は忘れる事は無かった。
だからこそ、今こうして巨大な怪物と化した「殺ス者」を前にしても、私は最も最善な手段であろう「文明の火」では無く、私にとって史上最大の「兵器」であるギガバーサークを選択した。
恐らく私はこのまま敗北し、その生涯を終える可能性が高い・・・
主・蛾雷夜様の右腕として生まれた者として、「組織」の表向きの代表者だった者として、「武人」と呼ばれた者として、負け戦を想定するなど情けない話だが・・・「殺ス者」とはそれ程の存在である事は、私自身がかつてスターリングラードで十分に思い知られているし、そんな相手にあえてギガバーサークで挑む事に、何処か誇りを感じている私がいる、それもまた事実であった。
それは恐らく、「あの日」に蛾雷夜様とはまた違う「至高の創造」を見せた「想造」の女と・・・私に「武人」としての矜持を思い出させた「夢想」の者達・・・「彼」がいたからであろう。
蛾雷夜様が目的を果たすお姿を見届けられない事は、誠に残念だが・・・私の代わりは既にいるし、蛾雷夜様ならばきっと「万物」に至ると、私は信じている・・・
「・・・約束だぞ、アルマ。」
・・・そうだな?タダシ。
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