‐GHOST‐ 「夢想」者たちの戦い











夕方になって授業が終わり、タダシ達はキャンパスの外れにある小さな小屋に入って行った。
周囲の景観とは明らかに違和感のある、多種多様な色の絵の具で塗りたくったような配色をしたこの小屋こそが、タダシ達が結成したサークル「オカルト研究部」・・・略して「オカ研」の部室代わりの場所である。
結成から三年経つが、未だLU本部から正式なサークルとして認められていない同好会同然のオカ研の部室として差し出すような空き部屋はキャンパス内に無く、仕方なく当初は広場のベンチを部室代わりに使っていたのだが、約二年前に知り合ったある協力者が強引にこの小屋を用意し、トーチュンが実質の顧問を担っての説得により「現オカ研メンバーが卒業するまで」、と言う期限を設ける事で撤去されずに部室として利用される事となった。




「お~ッす!」
「「パレッタ先生、来てます~?」」
『はいさ!待ってたよ~♪』




部室には既に1人の女性・・・自称「「想造」の芸術家」のパレッタがいた。
彼女がこの小屋を用意したオカ研の協力者であり、人気と有能さ故に一応の顧問としての業務もままならないトーチュンの代わりに代理顧問も務めている、オカ研にとっては実質先生のような立ち位置、なのだが・・・




『・・・で、パレッタ先生は何持っとるんじゃけ?』
『ジャーン!今日はこの服を着て貰おっかな♪この頃流行りの「レオタード」だよ☆』
『な、なんじゃあこのピッチピチの服は!?』
『レオタード、数十年前くらいからフランスのサーカスショーで見るようになった服だけど、本物は初めて見るんだな・・・』
「こンなの着たら、色々モッコリするじゃねェかァ!」
『でも肉体美が強調されたり、トレーニングで使うにはぴったりだから、最近流行りの服なのは事実なんだな。』
『うんうん!だ・か・ら、これはまずアキちゃんに着て貰おっかな~?』
「え~、わたしが着るんですか~?う~ん、わたし着てもいいけど男子のいやらしい目は見たくないな~?でも~、チェリにゃんには着せたいなぁ・・・♪」
「オイ、今のお前も十分いやらしい目してんぞ?」
『そう言う事だから・・・男子は一旦ご退場願おう!』




パレッタがオカ研に協力するもう一つの目的、それはこの頃のマイブームであった古今東西様々な衣装の「想造」、及び衣装の着せ替えであった。
しかしどれだけエキセントリックでも女性だからか、その多くは女性向け・・・つまりは唯一の女性部員のアキがその対象になり、他の男性部員3名は着替えの間結局は部室を退去する羽目になるのだった。




「ンだよ、この間!完全に無駄な時間じゃねェか!なンでいっつもアキが着せ替えさせて、オレ達が締め出されなきゃなンねェンだよォ!」
『じゃかしいわ、ボケ!』
『まぁまぁ、女性同士で話したい事とかあるかもしれないんだな・・・あっ、それなら僕も一つ話があるんだった・・・』
「どうした、ダイコー?」
『実は、昨日・・・』




一方、部室では下着姿になったアキにパレッタがレオタードを渡していた。
21歳としては何処かあどけないアジア系の顔立ちと相反する、大正時代の日本人の女性としては平均値以上である160cm越えの長身に加えて比較的豊満な体付きに、パレッタもつい見とれる。



『むふふ~♡アキちゃんってほんとジパング女子の中でもゴクジョーなスタイルしてるよねぇ~?着せ替え甲斐があって羨ましいなぁ~♪』
「も~、パレッタ先生ったらあんまり見ないで下さいよ~。」
『だからこそ、このレオタードが映えるって思ったんだよ~!いやらしい意味じゃなくて、よりキレイに見せてくれるって意味でね!』
「まぁ、着心地は良い感じですよ~?それにしても何だか、チェリにゃんの髪みたいな色だな~。やっぱりあの娘にも着せてみたいな~♪」
『そのチェリにゃんは今日は来ないの?』
「はい。今日はお留守番したいって言ってましたよ~。あっ、この服ちょっとお持ち帰りしていいですか~?」
『別にいいよ?あたしとしてはもっとその子の事知りたいんだけど、ほんと猫みたいに気まぐれだよね~。』
「だから良いんじゃないんですか~。あっ、着替え終わったんでタダシ達呼びます?」
『そうだね☆お~い、男子~!入って来ていいぞよ~!』






『ったく、迷惑千万じゃけ・・・』
『そう言わずに。話もあるし・・・』
「これならまだ河童の話でもした方がまだ・・・」




『お待たせ!アキちゃんの美ボディ、存分に見るがよいぞ~♪』
「じゃ~~~ん!」
「『『・・・』』」




パレッタの号令で再度入室した時男子達は、何故か両手を腰に置きながら不敵な笑みで佇むアキのレオタード姿を、息を呑みながら凝視した。




『・・・アキ、お前ホンマ身体だけはええのう?』
「顔と声は小童(こわっぱ)なンだけどなァ・・・こればかりはデコと同じ気持ちだなァ?」
『アキちゃん、いつもは可憐な服が多いけど、今日は彫刻みたいに綺麗なんだな・・・』
「あの~、パレッタ先生?ダイコー以外また追い出していい~?」
『あたしもダイコー君以外はガッカリかなぁ・・・タダシ君もシュガ君も煩悩に正直過ぎて、女性の美と言うのが分かって無いっ!』
『お、思った事言っただけじゃろがい!三年もオカ研やりながら着せ替え見せ付けといてそんなかしこまる関係か、ワテらは!』
「美術なんか知るかァ!単位落とさなきゃそれで十分なンだよォ!」
「そう言う問題じゃないんだけどな~?」
『まぁまぁ・・・ちなみにもうタダシ君とシュガ君には外で話したけど、僕から話があるから追い出すのは待って欲しいんだな。』
『話?どしたの?』
『実は・・・』




ダイコーは細目を微妙に震わせながら、先程部室の外で交わしたタダシとシュガとの会話を、アキとパレッタに話し始めた。








『・・・昨日、ミーナ姉ちゃんの夢に「切り裂きジャック」が現れたみたいなんだな。』
「なにィ!?」
『つう事は、今日にも夢想世界に「KAIJU」出るかもしれんやんけ!』
『きっと昨日、ウォーレンストリートで見付かった謎の死体が「切り裂きジャックの犯行か?」って、新聞の見出しに書いてあった影響なんだな・・・姉ちゃんは昔から心配性が過ぎるから・・・』
『お前に出来れば夜中に出歩くな、ってよう言うとる過保護じゃからのう?ワテのオカンと似た臭いしよるわ。』
「・・・なら、やる事は一つしかねェよなァ!」







「・・・ッてワケだ!ダイコーのねェちゃん助けつつ、今朝の件に落とし前付けッぞォ!!」
「タダシ~?ダイコーの話なんだから話の主導権取っちゃ駄目だよ~?」
『それは大丈夫だけど、姉ちゃんの方が大丈夫じゃないんだな・・・だから部活動が終わったら、僕の家に「遊びに」来て欲しいんだな。』
『そのお誘い、オカ研顧問代理としては絶対に断れないね☆あたしは乗った!』
「わたしはいつも通り、チェリにゃんに話してから行くね~。」
『ありがとうなんだな。みんな・・・』
『水臭い事言うな、ダイコー!ワテらとお前の仲じゃけえなあ!』
『じゃあ、今夜はダイコー家で決行!
っと、その前に・・・アキちゃ~ん♪ちょっと楽なポーズのまま動かないでね~?』
「は~い。」
『3、2の1で、パシャッと☆』




部活動後の話がまとまるや、パレッタは部室の片隅に置かれた当時最先端の携帯カメラ「イーストマン・ポケットコダック」を元に自分なりに「想造」した、イーストマン社にネガフィルムを送らなくとも写真を自力で現像出来る、数十年前にフランスで見掛けたデュブロニカメラを元にした、今で言うポラロイド(インスタント)カメラを持ち出し、唐突にアキの撮影会を開始。
まともな部活動は今日も無しになったのだった。
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