本編


訓練後、警備部の庁舎に戻った八重樫の隊。部下を部屋に戻した八重樫は1人、装備品の返還手続きを終えた。そして菅波を探して屋上に向かう。洗濯されたシーツが干されて風でなびく傍ら、菅波はベンチで煙草を吸っていた。



「部下に実力を見せろとせがまれたんだって?」



菅波は八重樫を一瞥もせずに話しかけてきた。八重樫はそれが当たり前かのように会話を返す。



「…たまには部下に上下関係を改めさせた方がいいからな」



八重樫は菅波の隣に座った。



「今月も同じ調子みたいだな」



菅波は去年の空港での一件の後、訓練でのスコアが八重樫を上回り始めた。本人曰く現場の些細な変化を察知して敵の襲撃を予想できるらしい。
今のも個人個人の異なる足音から自分を特定したのだと、八重樫には分かっていた。
恐らくはそれが菅波本人の能力だろうが、指先から炎でも噴射できない限り能力を自覚できないだろう。



「ああ。相変わらずのスコアだが疲れやすい。また医者に相談したが異常はないらしい」
「……」



それはお前が「G」の能力者になったから身体への負担が増えたんだ、そう説明できればどんなに楽か。
現代科学、少なくとも社会に出回っている科学技術では証明できないだろう。
また、自分が爾落人で捕捉の能力だから分かると打ち明けたところで信じるかどうか、信じたところで能力者になった事実を受け入れられるか疑わしかった。
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