本編


廃工場



数十分前までGROWの拠点だった工場はSATの制圧下に置かれ、隊員により兵士の拘束、監視、周囲の警戒、不審物の捜索が行われていた。
しかし、情報端末はデータが破棄された後だった。データの復元は期待できないと、指揮班の隊員は言っていた。



上層部は今後の方針を都内に潜伏している残党の拘束・排除を念頭に置き、拘束したザルロフを護送する準備を整えていた。
結果だけ見れば事態は終息に向かいつつあるが、八重樫にはまだ不安要素がある。あれだけ世界中の捜査機関から逃れ続けたザルロフが、こんなにも簡単に捕まるとは考え難い。しかもアジトへの急襲程度で。
何か逃亡の手筈を整えているのかもしれない。



そしてもう一つ。



「…結局、化学兵器は見つからないか」
「ブラフじゃないのか?」



突入前に兵士の証言していた化学兵器は依然発見されず、堤が不安を漏らす。



「…本人に聞くのが一番だろう」



八重樫の提案に、菅波と堤は強張った。八重樫に尋問させればザルロフの身が危ない。
そのまま部屋を出ていこうとする八重樫。それに菅波もついて行く。八重樫は珍しく苦笑いした。



「別に見張らなくとも殺しはしない」
「…そうか?」



初めて見せた八重樫の表情に、菅波も釣られて苦笑いした。
八重樫は菅波を止まらせると一人、ザルロフが拘留されている部屋に向かった。
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