本編
「チッ!」
「フフ…」
続けてベイオネットは数発、光弾を撃つ。すぐに牽制だと見破った男は軽い身のこなしで回避した。お互い、能力による戦闘には慣れているようだ。飛び道具で自分の得意な間合いをキープしている。
続いて男は自分と全く同じ姿をした幻影を5、6人作り出す。それぞれを常に動き回らせ、錯乱。攻撃のフェイントを交えさせ、ベイオネットに狙いを絞らせない。
しかしベイオネットは幻影を見抜いた。ベイオネットは両腕から光鞭を展開。街灯程度の長さの光鞭を360゚、自分を支点に円形に振るう。
「!」
伸びた光鞭は幻影を凪ぎ払う。接触により幻影は消滅、姿を消してベイオネットの背後にいた本体を弾き飛ばす。
「クッ!」
今の光鞭に大した殺傷力はないようだが、男のペースを乱すには十分だったようだ。そして、男の戦法が通じないという大きな牽制になる。
しかしベイオネットから何か仕掛けるというのはなく、常に反撃の構えだ。そして、男のこれまでの能力から何かに閃いた。
「あなた、ジャンヌ・ダルクと行動していた爾落人ね?」
「…だったら何だ」
久しく聞いた名に、男は戦慄した。何故、部外者のコイツがあの戦いを知っているのか。
「私は…ファンよ」
蛇のような笑みを浮かべて男を見据えるベイオネット。さらに背中から4本の触手を生やし、男を威嚇した。触手は個々が生きているかのように動き、さながら白い大蛇のようだ。
「ファンなら殺意を向けるのはおかしいぜ?」
「そうかしら?」
これ以上関わると彼女の雰囲気に呑まれてしまいそうだ。男は2000年生きてきた中で心底気味が悪いと思った。
ベイオネットは触手を伸ばす。男は懐からパチンコ玉を取り出すとすかさず高速で射出した。
男の天然レールガンはベイオネットに直撃したように見えた。
しかしその衝撃波で砂漠の砂埃が舞い、見えない。男は視界をサーモグラフに切り替えてベイオネットを探す。
「……」
付近一帯に生物らしき熱源はない。跡形もなく消滅したのだろうか。それとも撤退したのか。男は警戒を緩めずベイオネットを探した。
「…うっ!」
正面から伸びてきた触手を視認できなかった男。上半身に触手が巻きつき、宙吊りにされる。視界を元に戻してやっとベイオネットを視界に収めた。
「おいおい…」
ベイオネットは左腕が肩口から吹き飛び、触手も2本がなくなっていた。にもかかわらず苦痛の表情を見せず、むしろ目の前にいる憧れの存在に恍惚とした表情をしている。
「電磁…一つ、聞いていいかしら?」
サーモグラフでベイオネットを視認できなかった理由。それは男が触手を通して実際に触れ、理解した。ベイオネットは体温が恒温ではなく、生物としての温もりはない。生きているのか疑わしく、体温は周囲の気温に応じて変化する。まさに人の姿をした爬虫類だ。
「真理は今、どこにいるか知らないかしら?」
「俺が知るかよ!」
刹那、男は拘束している触手を通して電流を流した。
一瞬痙攣して緩んだ触手の隙を突き、ストックしてある全てのパチンコ玉をベイオネットへ向けて射出した。
「くらえ!」
吹き飛ぶ触手。総計数十発のパチンコ玉はベイオネットの四肢を抉り、頭部は貫通、触手は粉々に吹き飛び男は解放された。
「! どこへ行った?」
男の意識が間合いに向いた一瞬の事だった。
ベイオネットは忽然と姿を消した。確かに直撃の手応えはあったはずだ。今度こそ倒したのだろうか。
「……」
まだ嫌な胸騒ぎがする。あの女はこれだけでは終わらない、男のカンがそう告げていた。
拭えない不安を残しつつも、男は去っていく。
行方不明となっていた人々が自衛隊に救助されて生還したのは、それから数分後の事だった。