本編
「……」
地下道。八重樫隊は依然としてセントリーガンに道を阻まれていた。あれから死者は出ていないものの、前進できない。
焦り出す隊員達を尻目に策を巡らす八重樫。その目に通気ダクトが留まる。そこで突入前に目を通した工場の設計図を思い出した。うろ覚えだが通気ダクトはセントリーガン設置場所のすぐ近くまで繋がっていたはずだ。
「高田、対物ライフルを持て」
「了解」
指名された高田は戸惑いながらも対物ライフルを持っている隊員と自分の突撃銃を交換する。
「通気ダクトであれの背後に廻り込んで撃て。直前に陽動して銃口をお前から逸らす」
「了解」
「タイミングは直前に合わせる。通気ダクトにはトラップが仕掛けてあるはずだ。注意しろ」
他の隊員は高田を通気ダクトまで持ち上げる。高田は金網を開ける前にトラップの有無を確認した。
「!」
八重樫の言う通り、本当にトラップがあった。気付きにくいが、金網と傍に置かれた手榴弾にリード線が繋がれている。金網を開けるとそれに連動してピンが抜ける仕組みだ。焦って金網を開けようものならば破砕を喰らうだろう。
「……」
そこまで想定できた八重樫にはとことん敬服する。警察官ではなく軍人の方が向いているのではないか、そう思ってしまう。何年も戦場にいないと身に付かないような感覚や貫禄が、あの男にはある。
高田は隊員から借りたニッパーでロープを切断してから金網を開ける。先に対物ライフルを押し込むと、ダクトに入る。
「チッ」
通気ダクトの中は通路より酷い有り様だった。溜まった埃によく分からない虫の死骸が多数散らばっており、なおかつカビの臭い。
八重樫がここを通りたくないがために自分を指名したと勘繰りたくなる程だ。
「クソッ!」
しかしその甲斐はあったようで、先に辿り着いた金網からは鎮座するセントリーガンが見える。しかもここの金網はセントリーガンの後方だったようで、銃口はこちらとは180゚真逆の方向、つまり八重樫達がいる死角の方向を向いている。
「配置に着きました」
『合図と共に撃て。こっちは囮を出してセントリーガンを惹き付ける』
「了解」
高田は対物ライフルの安全装置を解除すると構える。
「3…2…1…撃て」
八重樫は放置されていた椅子をセントリーガンの感知圏内に蹴飛ばした。死角から飛び出した椅子を無差別に発砲するセントリーガン。その後方の天井から身を乗り出す高田。対物ライフルで狙いを定めると、射撃。結果を気にする間もなくダクト内に身を隠した。
弾丸はセントリーガンの銃身に命中、爆発でひしゃげて無力化に成功した。弾薬箱に引火しなかったのは高田の腕か。
「もう出てきていいぞ」
ダクトから降りてくる高田。対物ライフルを下にいる隊員に渡し、それから身を乗り出して降りる。
「よくやった」
「え…えぇ」
初めての事で面喰らったが、八重樫に労われるのは不思議と悪い気がしない。八重樫に労われるからこそ、だからか。
「総員陣形を組み直せ。一型だ」
八重樫隊は陣形を組み直すと再び地下道を侵攻する。