本編


SATが突入を見送った廃工場に危険物処理班が乗り込んでいく。
ブラストボム程ではないが、廃工場を木っ端微塵に吹き飛ばす量の爆薬が発見されたのだ。もし本当に突入すれば死は免れなかっただろう。
ダミーに誘い込んで一網打尽にする用意周到さは、さすがといったところか。



八重樫、菅波、堤の3人は隊員を待機させ、少し離れた建物から危険物処理班の動向を見守る。



「何故GROWがここまで大規模な組織になったか分かるか?」



不意に八重樫が喋り始めた。いつ処理に失敗して爆発するか分からない状況の中、話しかけてくる八重樫の大物振りに恐れおののく堤。菅波は返答する。



「どこにでもいるようなありふれたテロ組織が時間をかけて肥大化した、ただそれだけじゃないのか?」
「それもある。だが一番の理由は、指導者のザルロフが今までの俗物とは違う、カリスマ性を持ち合わせていたからだ」
「すまない。カリスマの意味が広義すぎてよく分からない」



堤が疑問符を掲げる。八重樫は続けた。



「説明不足だったな。一緒にいて気持ちいいと思わせる空間演出能力という意味だ」
「つまり、ザルロフのそのカリスマに惹かれた連中が集まって今の規模になったということか」
「勿体ないことしやがる。そんなもの、テロリズムとは違うことにぶつけられなかったのか」
「いつの時代も、多人数の人間を統率できるカリスマの大半は悪役だ。良いカリスマは滅多にいない」



八重樫の語る言葉には説得力がある。今までそれらを見てきたかのような口振りがそれに拍車を掛けていた。


「他にも今回気になる点がある」



堤と菅波は興味深そうに耳を傾ける。



「押収されたブラストボム。あれはアメリカが最近生産ラインに載せた傑作だ。まだ同盟国にすら輸出されてないのに、テロリストが持っていた。さらに拘束された構成員が持っていたとされる自動小銃とナイフも、米軍が正式採用している型だ。明らかにおかしい」
「まさか米軍にスポンサーがいるとでも?」
「ああ。だがそれはあっちのMP(軍警察)に任せるとしてだ、この様子だと自衛隊や警視庁にも内通者がいるとも限らない」
「あり得なくはないだろう。ごく一部だがGROWに賛同していた政治家やコメンテーターもいたみたいだしな」
「厄介な。数年前までは発展途上国の内紛を隠れ蓑にする慎重さが、今では堂々と先進国に乗り込んで来る自信だ。間抜けなのか大胆なのか…」



堤の意見が八重樫をさらに語らせる。



「そこだ。ザルロフは何故わざわざ日本まで来たんだ?」
「テロ攻撃の指揮を執るためじゃないのか?」
「ただのテロが目的なら、わざわざ日本まで出向く必用がない。誰か他の兵士に任せればいい」
「何か別の目的があるとでも?」
「ああ。密会、挑発、視察。あらゆる可能性があり得る」
「まさか…」



急いでやってきた隊員が割り込んできた。



「お話中失礼します。出動命令です。新たな座標が届きました」
「よし」
「……」



公安はどんな手を使って構成員を白状させたのか。非合法なやり方をしたのは想像に難くない。
大事なのはそこにザルロフがいるか否か。



「今度は本命であってほしいな」
「まったくだ」



八重樫、菅波、堤の隊は危険物処理班を残して移動を開始した。
八重樫らは爆弾解体成功の一報を移動中に知る事となる。
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