本編
「待…て」
一樹は既に息切れしかかっていた。人混みを掻い潜り、構成員を見失わないように走るのは体力を削られる。
警察学校時代、彼は走りがそれほど得意ではなく、ランニングではよく教官に怒鳴られたものだ。
現場には向いてない。
他人も自分もそう思っていた自分が今、推奨されなかった現場の仕事をやっているのが実感が湧かない。
そんな警察官に追われていると知る由もない構成員は、歩道を歩く人々から適当に女性を捕まえる。
「!」
立ち止まった構成員は女性を盾にすると首に自動小銃を突きつけた上で要求する。
「銃を捨てろ!」
一樹は戸惑った。本物の刑事ドラマのようなシチュエーションは初めてだ。これに対応できる機転を彼は持ち合わせていない。
「早くしろ!」
構成員は上空に威嚇で発砲すると、周辺はいよいよパニックになる。
何が最善の策か分からない。一樹はゆっくりと銃を下ろして地面に置いた。
「ハッ…死ねぇ!」
殺される。「G」でもなく爾落人でもなく、人間に殺されるという実感は虚しくも恐ろしい。自分に向けられた銃口が数瞬後にも発砲されるかと思うと、この場から逃げ出したかった。
その時だった。
「!」
突如人混みから飛び出してきた汐見が自動小銃を奪おうと掴みかかる。そちらに気を取られる構成員。瞬時に女性を突き飛ばし汐見に応戦する。
一樹は咄嗟に銃を拾い、よろけながらも必死に走ると女性に駆け寄る。
「走って!」
ショックで尻餅を着いていた女性の腕を引っ張って立ち上がらせると、自身を盾にしながら安全圏へ連れて行く。
一方の汐見は揉み合いになり銃が数発暴発した後、汐見が寸でのところで自動小銃を奪う。構成員は素早く切り替え、ナイフを手にして汐見に襲いかかる。
「はぁぁぁ!」
しかし、汐見の部下がそれを阻止した。部下の捜査員は構成員の手首を掴むと捻りあげる。思わず手放してしまったナイフを汐見が回収すると、捜査員は構成員のスネを警棒で殴打した。
「がっ!」
激痛でひざまづいた構成員に手錠をかける汐見。そのまま構成員を捜査員に預けると、部下に後を任せて一樹に歩み寄る。
「君、大丈夫?」
汐見は手を差しのべる。
「あ、ありがとうございます。命拾いしました」
「気にしなくていいよ」
一樹はそれに応えて握手を交わした。
それは、「G」との関わりが深くなる刑事との、奇妙な邂逅だった。