本編
















東條凌。彼は警察官だった。先日辞令を言い渡された凌は自分の荷物を片手に、新しい職場となるフロアの扉を開けた。


フロアは新設された部署のものだというのに、備品は必要最低限しか揃っておらず、ひどく殺風景だった。だからこそ1人だけフロアにいた人間は目立った。


その人は、長めの黒い髪をポニーテールにした大人っぽい、落ち着いた雰囲気の女性だった。



「本日より特殊捜査課に配属されました、東條凌巡査であります」



凌は上司と思われる女性に敬礼しながら自己紹介する。



「…そんなにかしこまらなくてもいいわ。私もここは今日が初めてよ」
「そう…ですね」



相手から感じ取れる特有の気配で、女性が普通の存在でない事が分かる。女性も凌に対して同じ事を思ったのか、一瞬怪訝そうな表情になった。



「私は二階堂綾、巡査長よ。よろしく」
「よろしくお願いします」



自己紹介を済ませた凌は自分のデスクに着く。荷物をデスクに収納していく凌だが、初対面の人間と互いに黙っているままなのは気まずかった。綾も同じ事を思ったのかは不明だが、彼女から話を切り出した。



「東條さんは爾落人をどう思う?」
「どう…と言うと?」
「一般人と同じ人間かどうかってことよ」



凌はこの質問の意図を理解できなかった。綾が凌を爾落人と悟った上で質問しているのか。いずれにせよ厄介な質問だ。



「二階堂巡査長は、難しい質問をしますね」
「名前を呼ぶ時は階級をつけなくていいわ。警察は軍隊じゃないんだから」
「失礼しました、二階堂さん」



爾落人である凌本人でさえ、まだその答えは見出だせていなかった。凌は特に当たり障りのない返答を考える。



「自分は爾落人を根底から「G」であると考えます」



実際に凌自身はまだそう思っていないものの、大衆の世論を反映した無難な返答だと思った。



「私もね、爾落人を同じ人間とは思えないの」
「……」
「あんなの人間だとしても異端者よ。何を考えているのかも分からない、青森の蜘蛛型や湘南の巨人と同じ」
「しかしそれだけでは…」
「「G」なんて存在するだけで世界に悪影響を与える存在よ。有害そのものでしかない。そんなの、いないに越した事はないわ」



綾が冷静に語るその言葉は、自分に向けられていると直感した。同時に自身に重くのし掛かった。綾が「G」を嫌悪していると、認識させられた瞬間だった。


これが、凌と綾の出逢いだった。
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