本編
特捜課の4人は覆面パトカーに乗って所定の位置に着き、かれこれ数時間は同じ場所に張り込んでいた。短い時間とはいえ集中力を削られる。
それに加え、一国の首都だけあって窓から見える雑踏は途切れる事を知らない。
8月である事もあり、車内の温度はクーラー無しでは乗車できない。
時折車内の無線から各地点の状況報告が流れるが特に重要な情報はなかった。
警視庁は検問所を幹線道路に設置したが爆発物を積んだ車輌は発見できず、検問所を追加で設置する為に隣接する県警から交通機動隊を借り出す事態となった。
『先日、「G」ハンターにより展示物の盗難に遭ったドイツ・国り―――』
車の中ではラジオも流していたがザルロフの潜伏を知らない各報道機関は日常的なニュースを放送していた。
運転席の凌は「G」ハンターのニュースが流れた途端、ボリュームを上げた。
「………」
凌は帝都博物館での事件から「G」ハンターの事件を積極的に追うようになった。しかしそれからというもの、警視庁管内での犯行予告はなく、再び対峙する事はなかった。
「「G」ハンターは…まだ野放しのようですね」
「そうみたい。あなた、余程悔しかったのね」
「前回は奴の能力に振り回された揚句、逃走を許してしまいましたから。できれば自分の手で逮捕したいですね」
「あら、結構根に持つタイプなのね?」
「否定はしませんが、あの悔しさは忘れられませんよ」
後部座席の一樹と倉島。倉島が覆面パトカーに乗っているのを見るのは少々異様な光景だった。下手すれば初めてかもしれない。
「係長、GROWが持ち出した爆弾の名前は覚えてます?」
「…ブラストボム、だったかな?」
一樹は既にバッテリーが減りかけているノートパソコンに触れた。すると数秒で目的のデータベースに辿り着く。
「見つけた」
「君…これは英語だが読めるのかね?」
画面に表示されたのはブラストボムの画像と、日本語が一つも見当たらない英語の文章だった。
「オレは世界中のネットワークにハッキングしているんです。英語なんてもうスラスラ読めますよ」
「ホォ……最近の若者は恐ろしいな。で、これはどこのデータかね?」
「もちろん米軍の機密データベースからです」
「毎度の事ながら君が捕まらない事を祈るよ」
「大丈夫です。オレの力でハッキングはバレない」
綾は助手席から見飽きた光景の中に不審人物や車輌がないか見回す。すると視線の中に宅配会社のトラックが入った。
「東條君、あのトラック…」
綾は目をつけていたトラックに指を指して示した。凌も目で追い始めると間もなくトラックは道路の脇に駐車した。それに伴いトラックに後続していた乗用車も後ろに駐車した。
「怪しいですか? あれ」
「何か……」
トラックから出てきた2人の乗員は荷台の扉を開くと、荷台からさらに乗員が出てきた。
「?」
「運送会社のトラックって荷台に人を乗せるかしら?」
「多分乗せませんよ」
2人の会話を余所に乗員は荷台の鍵を閉めると後ろの乗用車に乗って何処かへ走り去っていった。
綾はすかさず車種とナンバーを記憶した。
「行きましょう」
「ええ」
凌は後部座席の一樹と倉島に降りるように促すと反対車線に急いで向かう。