本編
特捜課
「とりあえず皆聞いてくれ」
その日は暴力団から押収された拳銃の記録を録っていた。言うまでもなく雑用である。
そんな3人の元に神妙な面持ちの倉島がフロアに入ってきた。3人は何事かと耳を傾ける。
「いきなりだが、刑事部長が特別警戒態勢を発令された。さっき各部署の長が集められ詳細な説明があった」
「!」
「特別警戒態勢? 営利誘拐でも発生したんですか?」
特別警戒態勢とは、本庁刑事部員と管内全警察署の捜査員が部署に関係なく無期限待機になる事だ。営利誘拐が発生した場合に発令される場合が多いが、テロの警戒に発令されたのは初めてだろう。
「事態はもっと悪い。GROWは知っているかね?」
GROW。捜査機関に属する人間なら一度は聞いた事はある組織名だ。綾が代表して答える。
「アメリカがマークする世界的テロ組織、ですよね。最近急激に影響力を強めているとか」
「ご名答。そのGROWが都内でテロを企てているという情報を公安が掴んだ」
「どうしてその情報を?」
「公安が先日、指名手配犯の構成員と居合わせたロシア人を逮捕。尋問した結果白状したらしい」
「ですがテロなら公安が動くはずですよね? 何で刑事部が?」
「刑事部だけじゃない。警備部と公安部、交通部、組織犯罪対策部、総動員で阻止するらしい。公安は既に動いているらしいが」
「これはまた…」
警視庁でこれだけ動員するのは極めて異例な話だった。それ程事態は切迫しているのだろう。
「テロの内容は分かっているんですか?」
「爆破だ。しかも米軍の高エネルギー爆弾を持ち込んだらしい」
「米軍の…ですか」
テロ組織が高エネルギー爆弾を所有している。それだけでも脅威だが、さらに国内に持ち込まれている。警視庁がそれだけ動員するのも頷けた。
「GROWは本気だよ。最高指導者のスタルカ・ザルロフも既に入国しているらしい」
「成る程。アメリカを出し抜いてザルロフを確保する絶好のチャンスでもあるから上は躍起になってる訳ですね」
上の思惑はどうでもいい。GROWが如何なる主張を掲げようとテロを止めなければ大多数の死傷者が出る。この事実が大事だった。
特捜課のメンバーは外回りの支度を始める。
「出ますか?」
「ああ。私もいても立ってもいられないさ」
倉島はフロア奥にある金庫を解錠して拳銃を取ると、それぞれ凌、綾、一樹に手渡していく。
「今回の相手は能力者や爾落人ではない。だがそれ以上に無差別な殺意を持ち合わせた危険な連中だ。心してかかろう」