本編
日本
関東某所
ザルロフとベイオネットは既に日本に入国していた。偽造パスポートと変装、記録の改ざんによって観光客として入国したGROWの幹部格は、現在は空きビルに潜伏している。
「何故日本でテロを?」
ベイオネットは窓から見える人々の雑踏を眺めながら聞く。ザルロフは静かに語りだした。
「初めて「G」を発見した学者が日本人だというのは知っているな」
ベイオネットは晒している白い首を縦に揺らして頷く。ザルロフは続ける。
「日本人が「G」という歴史的な発見をしなければ、その概念は生まれなかった。存在すら認知されなかっただろう。その点で日本人は偉大だと私は思う。だが一方で「G」によって世界が分散しつつあるのも事実だ。
それなら私ではなく、「G」を発見した日本人が世界に統合を促す責任があると自覚すべきだ。それを日本人に傷みを以て分からせる。これは日本に覚醒を促す儀式である」
「そう。あなたらしい、自らの思想を裏切らない理由ね」
「おい、馬鹿にしているのか」
ベイオネットを制止しようとした幹部格。スキンヘッドが特徴のロシア人だ。彼の名はグロス・パーヴェル。
元ロシア海軍少佐で、ザルロフに次ぐ要注意人物として本国にマークされている男だ。
ベイオネットはそのパーヴェルを無視して続けた。
「少し、この国を見て廻りたいの。いいかしら?」
「……」
ザルロフはベイオネットを完全に信用した訳ではなかった。最初に武装兵を始末した働きは今後の活躍を期待させるものだったが、自分の存在、出生、経歴、能力の詳細を含め語らない事が多かった。いくら自分の思想に賛同したといっても手の内を明かさなければ信用は得られない。
今までベイオネットは戦闘要員として同伴させていたが、今回の計画にも彼女の必要性はない。彼女がいなくなるのは若干の不安はあるが、不足の事態の時の保険はかけてあるため自由行動を許す事にした。
「いいだろう。「G」の楽園を見て廻るといい」
「フフ…」
まただ。ベイオネットがいつも浮かべる蛇のような笑み。何か良からぬ事を考えているのだと直感させる。
ベイオネットは白昼の都会に向かって歩き出した。