‐GetterⅡ‐ 逸見樹のある一週間
日曜日。
明日は学校だ。
休日の今日は自由に過ごせて楽しかったけど、明日から学校が始まると考えると多少嫌になる。所謂ブルーマンデー、ってやつ。
学校にいる方が楽しいとか、部活に青春を捧げてるとか、そう言う人じゃない限りは多分ほとんどの学生がそうだろうと思うし、性同一性障害を申告してる身としては通い始めてもうすぐ一ヶ月くらいだけど、可もなく不可もなくって感じでいじめも今の所は無い。
だからそう言うのが嫌、ってわけじゃない。
ボクが行きたいって言ったから、また学校に通い出したんだし、教師や授業にそんなに問題は無いから中学生としては、問題は無い。
むしろ、そう思えるくらいに学生としては、馴染めてる証拠かもしれない。
でも、何かやっぱり・・・
「・・・うむ、まだまだ硬いのぉ。コシがあり過ぎて、ワシの腰にまで来そうじゃわい。アウトじゃ!」
そんな事を考えながら、最近作り始めた「五島うどん」を夕飯代わりに作って、じいちゃんに味見と言う名の「テスト」をして貰う。
じいちゃんは普段はちょっと可笑しいけど、優しい人。でも「花嫁修業」のテストに関しては、意外と厳しい人だ。
この前やっと五島ルビー、トマトを使ったバンバンジーに合格が出て、いよいよ五島列島自慢の料理「五島うどん」への「チャレンジ一年生」、つまりはチャレンジ権を得た。
だけど、今日も不合格だった。今日は自信、あったんだけど・・・
「また駄目かぁ・・・」
「樹、また学校での事を考えながら作っとったな?最近料理が硬めな日は、楽しくなさそうに学校から帰っとる日じゃからのう?」
「う~ん、じいちゃんにはお見通しか。」
「年寄りの経験と近眼を、なめたらいかんと言っとろう?料理には、料理人の全てが出るんじゃよ。良い料理を作りたいなら、良い気分で作るのが一番じゃ!こうやって笑顔で、のう?い~つ~き~?」
「ふふっ、ダメ出ししといてそれは止めてよ、じいちゃん。」
出た、じいちゃんのニヤリスマイル。
一時期は正直うっとおしかったけど、今はボクを絶対笑顔にさせる、じいちゃんの魔法。
こう言う「優しい人」に、ボクもなれたらいいなぁ・・・
「おやすみなさい、じいちゃん。」
「おやすミルトンじゃ、樹~。」
夕食とお風呂を済まして、ちょっと早めの夜10時に寝る事に。
二階の自分の部屋に戻って、布団に入りながらおもむろに部屋を、眺めてみる。
「・・・あのポスター、やっぱ合わないよなぁ。何かいいのあったら、差し替えよ。」
家自体は普通の二階建ての木造住宅なのに、SF映画のポスターを貼ったりとか、いかにも男が使いそうなスタイリッシュさを重視した家具で揃えたりとかしてる、ボクの部屋。
「あの戦い」までは、自分が「男」だと主張出来ているちょっと誇らしかった部屋。
でも今は逆にちょっと、違和感がある。無理して「男」っぽさに拘っている、そんな感じの部屋。
本棚に料理本があったり、最近五島の名産品以外の小物を増やしたりとか、してるのにね。
そう思ったのはきっと、じいちゃんやギャオスがいてくれるから、紀子と憐太郎って仲間が増えたから、何より父さんがボクをボクとして見てくれるようになったから、かな。
よし。次の休みに模様替え、やってみよう。