本編











約一時間後。
一同はGnosisの残りのメンバーと合流し、憐太郎と紀子を右手に乗せたガメラと、ややぎこちなく飛ぶ双子と共に樹を左足に乗せたギャオスが、夕焼けに包まれた橙色の空へ飛んで行くのを見送っていた。
それは他でも無い憐太郎達の願いであり、等身大の子供の願い・・・勾玉で心も体も繋がった、ガメラとギャオスとの一時をもっと過ごしたい。
そんな細やかな我が儘を叶える為であった。




「では、福江島を一周したら帰って来ますねー!」
「父さんは先に、家に帰っててー!」
「じゃあ、行ってきま~す!」




ヴォウァァァァォォオン・・・



ギャァオォォォォ・・・




『あ~ん!!四神の巫子の紀子ちゃんと樹君について、もっと知りた~い!と言うかあたしも、ガメラかギャオスに乗りたいのに~っ!!』
「貴女は早く、遊樹さんと城崎さんをつがる市まで帰しなさい!それまで、この手錠は外さないわよ?」
『も~、みぃちゃんのイケズ~っ!』
「これが、先天的「G」保有者『爾落人』・・・!実際に会うのは初めてだが、外見は確かに人間・・・しかし、あの杖や能登沢の友人と共に一瞬で青森から福江島にワープした事は間違いない・・・!つまり、空間に由来する「G」を・・・」
『違うよ~?あたしの「想造」はあたしが頭で思い描いたモノを形にする「G」だし、あの鏡もワープしてるってよりは反物質の世界を通ってるって感じだし・・・』
「反物質だぁ!?まだ誰も存在を証明出来てねぇ、おれ達のいるこの物質世界の外にあるとんでもねぇ物質じゃねぇかぁ!おい、今すぐその鏡出せぇ!おれが反物質を撮影した最初の人間に・・・」
「蓮浦に首藤も、落ち着きなさい!確かに爾落人は興味深いけど、今はひとまず遊樹君と城崎君を帰すのが最優先、諸々の交渉はそれから!」
「しかし、頭に描いたモノを形に出来る力か・・・!俺なら、1/1ダイゴロウのフィギュアを出してみたいな!そう思わないか、弟よ!」
「そうだね、兄者!でも、僕はダイゴロウよりはやっぱり、永遠の初恋のルリルリで・・・」
「こっちはこっちで、下らねぇ妄想しやがって・・・!バカ言ってねぇで、早くエアロ・ボットの破片の片付けにでも行って来い!」
「「り、了解です!!」」
「・・・やはり、Gnosisは妙な連中の集まりと言う俺の認識は、間違ってはいないようだな・・・」
「少なくとも、オレと蛍と引田は入れんなよ?」
「すんませんけど、俺もちゃいますからね!俺は・・・」
「お前も黙ってろ岸田!お前はいいから、借りパクしたバイクを返しに行きやがれ!」
「それに、最初から関西弁なのは貴方からしたらおかしいんじゃないの?岸田さん?」
「は、はいぃっ!!」
「う~ん!おれも透太と一緒に、ガメラに乗りたかったなぁ~!」
「仕方ないよ、拓斗。家に内緒で来てるんだから、早く帰らないと・・・」
「待ってくれ、その前に君達にも謝罪しておきたい・・・先程はパレッタを傷付け、君達を脅迫して本当に申し訳無かった。今は考えを改め、「G」を受け入れて行く所存だ・・・!」
「・・・じゃあ、おっさんも今度からガメラを応援しろよな!」
「それくらいのお願いなら、聞いてくれてもいいですよね?」
「・・・分かった。約束しよう。」


ーー・・・夕和。
だいぶ間違った遠回りをしてしまったが・・・やっと樹と、本当の家族になれそうだ。
いや・・・厳密には樹と「あいつ」との家族と言う事になるのか。




ーー美愛、見ているかい?
紀子とやっと、本当の能登沢家になれたよ・・・居候じゃない、本物の家族として。
憐太郎と先輩を会わせる事にはなってしまったけど、憐太郎は君と同じように先輩に抗う道を選んだ。
ただ、これなら本当に君のようになってしまわないか、と言う不安は消えないけれど・・・だからこそ、私が絶対に憐太郎も紀子も守ってみせるよ。
あとは、あの子を・・・亜衣琉を早く、見付け出さないとね・・・











一方、福岡市。
今だジーダスの暴威による爪跡が残る、廃墟と重機の姿ばかりの街のとある地下駐車場に、平司の姿があった。
既に飛行場にて明日香と解散した平司は只1人、仁王立ちで何かを待ちわびている様子だ。




「・・・んっ?おお、来たかね!待っていたよ!!」




やがて、駐車場に一台のトラックが入って来た。
ゴシック体で「RuRi」と書かれた、ラピスラズリの表面のようなテイストのコンテナが目を引くトラックは大型車の駐車スペースに停車し、ドアを空けて瑠璃色の髪をした2人の女性・・・ラピス・F・スピリーズとラズリー・T・スピリーズが出て来る。




『お待たせしました~、平司おじ様♪』
『こんばんは~。「あんぱんとシュウマイ」の「RuRi」です!』
『「安心と信頼」ね、ラズリー。それ、どんなセットメニューなのよ?』
「やぁ、ラピス君にラズリー君!!いつも色々と運んで貰って、悪いね!!」
『わぁっ、びっくりしたぁ・・・土井さんって、いつもメガホン使ったみたいな大声ですよねぇ。』
「ははははは!これぐらいの声量が無いと、政治界に蔓延る烏合のグループは黙らせられないからねぇ?まぁ、先程までは不愉快なグループに会って来て不機嫌だったのだが・・・今の私は、今からギブして貰うグレイトな物の事を考えて、すっかりグッドムードなのさ!!」
『この世の中、色々と世知辛い事ばかりで大変ですよねぇ?ささっ、それではお待ちかねのご注文の品を、お受け取り下さいっ!』
「ありがとう。有り難くギブさせて貰うよ・・・!」




平司はラピスから掌サイズの白い小箱を受け取るや、したり顔で箱を食い入るように見つめながら、満面の笑みを浮かべる。
まるで、誰も崩し得ない完全犯罪を思い付いたかのように。




『あの~、おじ様?とりあえずは喜んで頂けて、幸いです♪』
『それって、そんなにうれしいものなんですか?もしかして、付き合ってる人とかいらっしゃっ・・・むぐっ!』
『ラズリー?依頼物に関する事も、依頼者のプライベートな事も一切触れないのが、うちの会社のルールなのよ~?いい加減覚えなさ~い?』
「いやいや、今の私はグッドムードだ・・・だから、特別に君達にも見せてあげよう!これはね、私が一万年・・・そう、それくらいの感覚でずっと探し求め続けていた、グレイトなモノなのだよ・・・!!」
『『・・・えっ?これって・・・』』






しばらくして、依頼を果たしたスピリーズ姉妹は平司に別れの挨拶をすると、トラックに戻って駐車場を去って行った。
平司は相も変わらずに小箱の中身をしたり顔で見つめていたが、トラックが見えなくなったと同時に突如後ろへ振り向き、柱の影にいる「何か」にアイコンタクトを取る。




ーー・・・もし、このまま玄武を子供の玩具に堕落させるならば・・・私にも、策がある・・・!
その為の鍵の二つ目を、私は今ギブした・・・あとは、最後の鍵をギブするだけ・・・
そしてその時、私は完全なる勝利者となり・・・お前の全てが、終わるのだよ!!
その瞬間まで、精々ヒーローごっこをしているがいい・・・
能登沢、憐太郎!!




柱の影から平司へ歩み寄るのは、濡羽(ぬれば)の長い黒髪を持ち、二次元の女性を見ているかのような非常に豊満な胸元と肩・腹・脚を惜し気も無く晒け出す露出度の高い服装をした、小悪魔と形容出来る妖艶な美女であった。
平司は彼女に小箱の中身・・・幾つもの赤い斑点が付いた漆黒の玉髄・血石(ブラッドストーン)の勾玉を手渡し、彼女もまた不敵な笑みで血石の勾玉を受け取った。




「・・・これが、『禍玉』なのですね。なんてキレイなのかしらぁ・・・♪」
「君がまた弟君と再会し、ギブする日も!遠くは無いと言う事だよ・・・!
だろう?能登沢亜衣琉君!!」
「そうですねぇ・・・うふふっ、その時が楽しみです。待っててね・・・?私の愛しの、レーンくんっ♡」
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