本編
「君達ッ!!一つ忘れてはいないかねッ!!」
「「「!!」」」
・・・と、ここで打倒エアロ・ボットの余韻を破壊する静観者・・・平司の大声が、憐太郎達の上空から聞こえて来た。
一同が空を見るや、ヘリコプターは明日香の的確な操作によって彼らの前に急着陸し、ドアを力強く開いて平司が現れる。
「また出やがったな、全ての元凶が・・・!」
「あの人が父さんの先輩で、父さんを利用した汚い大人の、土井平司・・・!」
「土井大臣・・・本当に来てたんだ・・・」
「大丈夫、紀子。僕が、僕達が絶対に君を守る・・・!あんな奴になんか、負けるもんか!」
「相変わらず、口の利き方がなっていないなぁ?グリーンユース君ッ!!それに、逸見樹君!君も!!」
「うるさい!!僕だって言っただろ・・・あんたみたいな自分勝手な大人は、絶対に許さないって!!」
「ボクも憐太郎の気持ち、分かるよ。第一声からして、鬱陶しい大人なんだってね。そう言う大人に、敬意を払う必要なんて無い。ボクもあんたが・・・この島を、ギャオスを傷付けて!父さんを本当の悪者にしようとしたお前なんか、大嫌いだ!」
「レン、樹・・・」
「先輩・・・いや、土井平司!確かに俺は間違いを犯した・・・この惨状の罪は、生涯を掛けて償って行く・・・だが!お前は俺の過った考えやかつての絆を利用し、俺と晋を裏切り・・・あくまで自分の目的の為だけに、俺に晋の子供達を傷付けさせようとした!しかし、俺はもう間違えない!晋達を、「G」を・・・ありのままの樹を俺は受け入れる!そして、勝手な棚上げ論だと言われようと!俺はお前の所業を許さない!
次に樹を傷付けるような真似をしてみろ・・・この命を掛けてでも、お前を地獄に叩き落としてやるぞ!!」
「・・・成程、君も!お前も!どいつもこいつもグリーンユースと言う事か!!まぁ、まさかエアロ・ボットを破壊するとは、流石は我が求めし四神だと言っておこう・・・だが!証拠は何一つとして残されてはいない以上、お前達が出来るのはここまでだ!!私を糾弾する事も、止める事も出来やしないッ!!
四神はお前達が思っているような、ただのグレートな怪獣などでは無いのだ!私の理想に必要な・・・『万物』にさえ至れる存在なのだよ!だから今は見逃してやる・・・が!!いずれ私に牙を向けた事を悔やむ日が来る!!それだけは、覚悟しておくんだなッ!!」
「言いたい事はそれだけか・・・!オレもGnosisのリーダーとして、あんたの弟として!絶対にあんたの野望に、紀子とレンを巻き込ませねぇ!」
「私も、意見は変わりませんよ。先輩・・・亨平と同じく、私は友の全てを利用して子供達を傷付けた貴方を許さない!憐太郎は、紀子は、樹君は・・・私達が守ってみせる!」
「・・・土井大臣。私も、もう貴方を怖れません。レンが、皆さんがいてくれる限り・・・そして、玄武の巫子として・・・一つだけ、貴方に言います。
ガメラは、貴方を許さない。」
グァヴウゥゥゥヴァァン・・・!
紀子の宣告と共に、彼女の決心を宿した翠の瞳で平司を睨むガメラ。
その眼差しに捉えられた平司の脳裏に、存在しえない筈の「かつての玄武」の姿が去来した。
ーー・・・かつて、最強にして最凶の四神と言われた、グレイテストな手駒だったお前が今度は私を止めようと言うのか・・・!
ジェフティのように・・・ッ!!
「あんたが何をして来ようと、僕達は最後まで絶対に諦めない・・・!あんたなんかに、僕達は!絶対負けない!!」
「・・・そうか、ならばその時を楽しみにしているがいい!!私も楽しみだよ、能登沢憐太郎・・・いつかお前が、私に屈服する瞬間を見るのがな!!」
「大臣、行きましょう。」
「そうだね、松田君!それでは愚か者共よ、グッドラック!!」
ここにいる全ての者達に気圧されながら、最後まで不敵な態度を崩さぬまま、平司は明日香と共にヘリコプターで去って行った。
「無理かもしれないが幸運を祈る、ってか?ふざけやがって・・・」
「下らん皮肉を・・・しかしあの妙な横文字と言い、昔はそんな事をする男では無かったと言うのに・・・」
「確かに、別人と言ってもいいくらいの変わりようだった・・・それでも、私達は良識ある大人としての責任を持って、憐太郎達を守ろう。」
「良識のある大人、ねぇ?なら逸見さんよ、あんたはまず俺達Gnosisにやるべき事があるんじゃねぇか?」
「・・・長年に渡る高圧的な態度及び、樹の治療を身勝手な理由で拒絶した事を、謝罪する。どうか、今からでも間に合うならば樹に、巫子としての適切な治療を願いたい。」
「父さん・・・」
「・・・本当は土下座くらいして欲しかったけどよ、それはあんたの『息子』を救わない理由にはならねぇからな。まだ体が成長期なら今からでも大丈夫だろうし、東京に来させるのも色々面倒だから、暇が空いたメンバーを時々ここに寄越してやるよ。だから、心配すんな。」
「・・・本当に、感謝する・・・!」
「あ、ありがとうございます。」
「良かったですね、樹さん!」
「今は『爾落のエキス』による、安全で確実な拒絶反応の除去が確立しているから、安心して。樹。」
「うん。ボクもやっと弱い体を気にせずに、色んな所に行けるんだね。」
「しかし、亨平と験司君は犬猿の仲だと聞いたが、上手く蟠(わだかま)りが解けて良かったじゃないか。」
「あぁ・・・正直、今でもガラの悪いトップと奇妙な連中と言う認識は変わらんが、それでも仮にも組織のリーダーたりうる程度に大人なのだと言う事は分かったな。」
「おい、逸見てめぇ!それが色々譲歩して寛大に望みを聞いてやった奴に対しての態度かぁ!やっぱりその頼み、断ってやってもいいんだぞ・・・?」
「まぁまぁ、験司君。これでも控えめになった方なんだ、分かってやってくれないか。」
「あっ、いたわ!験司ー!能登沢くーん!紀子ちゃーん!」
「「レーン!!守田さーん!!」」
戦いの終わりと共に、蛍が拓斗・透太・引田・子ギャオスを連れて合流しにやって来た。
「光先生!拓斗!透太!」
「お前達まで・・・」
「ごめんなさい、験司。海岸にいるよう言われたけど、皆それぞれ心配になって・・・」
「いや、エアロ・ボットはガメラとギャオスで破壊したし、あいつ・・・兄貴も捨て台詞残してどっか行きやがった。だからもう心配すんな、蛍。」
「・・・分かったわ。みんな、無事で良かった・・・!」
「レン、見てたぜ!!ガメラがでっけぇ炎の剣みたいなのを使ってたの!あれ新技だよな!?」
「どんな技なの?ぼくと拓斗にも教えてよ~。」
「えっと、あれは『バニシング・スォード』って名前でさ・・・」
ギャォォゥ・・・
ギャァォォ・・・
「大丈夫。ボクとお母さんなら、何ともないよ。もう怖がらなくても、いいんだよ。」
「樹、この小さなギャオスは一体何なんだ?」
「昔ギャオスが産んだ、最後の耐久卵から産まれた双子の子供だよ。今はもうギャオスは子供を産めなくなってるみたいから、本当にたった二匹の子供なんだ。あっ、ボクが勾玉で『マナ』って言う、この地球そのもののエネルギーを注げば餌はいらないから、人も家畜も襲わない・・・と、思う。でもボクがそんな事をしようとしたら、絶対止めるから・・・」
「分かっている。だが、もしそうなった時は絶対に止めるんだ。今の俺には・・・巨大「G」の幼体とは言え、自然の摂理で生まれた子供を殺処分する気は持てないからな。」
「分かってくれて、ありがとう。父さんにもそんな事、ボクが絶対させないよ。」
「あの、引田さん。逸見さんと験司兄ちゃんが一応和解しまして、樹にも『爾落のエキス』を使っての治療をして欲しいと言われました。私からも、出来ればお願いしたいのですが・・・」
「そう。やっとあの子を治療出来るのね・・・分かったわ。本部に帰り次第、一日でも早く治療出来るように準備するわね。
そう言うわけだから・・・逸見亨平さんに樹さん。改めて、わたしはGnosis医療担当の引田深紗と言います。遅れての形になりますが、1人の医師として責任を持って、息子さんの巫子拒絶反応は必ず治療しますので、どうか宜しくお願い致します。」
「こちらこそ、息子を頼んだぞ・・・!」
「よ、宜しくお願いします。」
「・・・そうだ紀子さん、パレッタさんは何処に行ったの?あの人、わたしの忠告を無視して嘘を付いてまで危険な戦場に行くなんて・・・見付けたら、拘束もやむを得ないと思っているのだけれど?」
「あっ、そう言えば私達にエアロ・ボットの弱点を教えた後、あの人は何処に行ったんだろう・・・?」
『・・・』
『・・・そう、ぞう・・・しゅ・・・パ、レッタ、さまを・・・かくに、ん・・・』
一方、件のパレッタは無言でエアロ・ボットのスクラップの塊達の中を歩いており、一つのある破片に気付くや慌てて近付き、座り込んで両手で掴み取る。
それは、あの紅蓮の大剣を受けながら奇跡的にかろうじて破壊されていなかった、アークの中枢部のチップであった。
『・・・アークちゃん。キミの「親」として、こんな事をさせちゃって・・・ほんとに、ごめんね。もうエアロ・ボットちゃんは「死んで」、キミはもう自由になったけど・・・次また生まれ変わったら、なりたいものって無い?』
『・・・それ、ならば・・・
わたし・・・は・・・だれかを、たすけ・・・られ、る・・・なにかに、なりたい・・・
たとえる・・・な、ら・・・
わたし・・・は・・・
じゆう、な・・・かぜに・・・なり、たい・・・』
『・・・うん、分かった。次こそは、マイナスな思いからじゃない・・・誰かの、例えば根無し草で風来坊な人の相棒みたいな・・・プラスな思いで、最高の人工「G」に生まれ変わらせてあげるから・・・』
『か・・・ん・・・しゃ、いたし・・・ます・・・
こころ・・・から・・・
わが・・・ある、じ・・・』
『・・・だから、今はおやすみ・・・アークちゃん。』
パレッタはまるで傷付いた我が子を慈しむ親のように、いつもの彼女からは考えられない穏やかな表情で、沢山の涙の粒を焦土に落としながら「アーク」をひしと抱き締め・・・涙が止まった頃に立ち上がると、杖を使って鏡型転送装置を召喚し、辺りを徘徊して背部ファンの破片を幾つか拾い上げ、その全てをアークと共に鏡の中に入れる。
そして両手で目元を拭ってから・・・いつもの笑顔で、引田達の元に戻って行くのだった。