本編






「じゃあまず、するべき事は何?分かるよね、父さん。」
「・・・あぁ。」




亨平と樹は立ち上がり、「親子」として互いを見つめ合って、まだ途切れてはいなかった家族としての「絆」を確かめ、微かな笑みを浮かべる。
そして亨平は自分の贖罪への第一歩として、再びエアロ・ボットの整備ベースへ飛び乗ると、タッチパネルの音声認識システムを起動した。





「エアロ・ボット、停止せよ。作戦は失敗と判断した。よって直ちに対「G」行動を止め、全ての機能を停止せよ。」









『その命令は、承諾出来ない。』
「なっ!?」




しかし、エアロ・ボット・・・厳密には制御AIの「アーク」が返した、あまりにも冷たい音声回答は亨平の贖罪を否定し、あまつさえ亨平が命令していないファンの回転、荷電粒子砲の発射準備を始めた。




「何故だ!俺が命令しているのだぞ!今すぐ停止しろ!するんだ!!」
『既にキルプロセスは発動した。
キルプロセスは第一所有者・土井平司の指示でしか解除出来ない。
よって逸見亨平、我は貴殿の指示を拒否する。』
「「そんな・・・!」」
「あの兵器は今まで、亨平の命令を聞いているように見せかけていたのか・・・!」
「やめろ!止まれ!止まるんだ!!」
『その命令は、承諾出来ない。
荷電粒子砲、発射。』




今まで命令を受けていた・・・いや、命令を受けていたと思い込んでいた亨平の懇願の命令を無視し、エアロ・ボットは荷電粒子砲を樹達が到着した事で攻撃を止めて待機していたガメラ・ギャオスへ発射。




「ガメラ、逃げて!」
「逃げるんだ、ギャオス!」




不意を突く攻撃ながら、紀子と樹の意思伝達が一瞬早かった事により、ガメラとギャオスは荷電粒子砲の回避に成功する。
だが、エアロ・ボットは荷電粒子砲を発射したまま機体ごとメインアームを旋回させ、ギャオスよりも飛行速度が遅いガメラに狙いを定めた。
メインアームへのギャオスの超音波メスによってやや軌道が反れたものの、荷電粒子砲は円盤飛行をして逃れようとしたガメラの甲羅を捉えた。




グァウゥゥゥン・・・




「うああああああっ!!」
「紀子!!ガメラ!!」
「ちっ、最初から足の遅いガメラから狙ったな!行け、ギャオス!」




常に「地」の元素によって硬質化されているガメラの甲羅でさえも、粒子そのものを分散させる程の威力を持つ荷電粒子砲を受ければダメージは免れず、ガメラは真下の民家に落下。
当然ながら巫子の紀子の全身にも苦痛が走り、痛みのあまり紀子は悲鳴と共に地面に倒れてしまい、その様子を見た亨平は絶句した。




「これが、巫子の代償・・・俺が、樹にやろうとしていた事なのか・・・!?」
「そうだ、亨平・・・だがそれでも、紀子も樹君も繋がる事を選んだ!みんなを守る為に!心の隙間を埋める為に!今のお前なら何故なのか、自分がこの七年半の間にどんな仕打ちをしていたのかが、私がどんな思いでいながら憐太郎と紀子を見送っていたのかが、分かるだろう!」
「言われなくとも・・・!なら、俺は俺の出来る事をするまでだ!」
『荷電粒子砲、発射準備開始。』
「エアロ・ボット!止まる気が無いのなら答えろ!キルプロセスとは何だ!」
『キルプロセスとは、第一所有者の土井平司の攻撃対象の優先順位に従い、対象を攻撃する事。
目的、対象の活動不能。若しくは抹殺。
現在の第一攻撃対象、朱雀。
第二攻撃対象、玄武。
第三攻撃対象、能登沢憐太郎。』
「「!?」」
「ギャオスとガメラと、僕・・・」
「どうして、レンが入ってるの・・・?」
「紀子が眠っている間に先輩が、土井平司が来てしまってね・・・ガメラと紀子を差し出さないなら、紀子を殺してガメラを奪い取ると言ったんだ。」
「えっ・・・!?」
「それに憐太郎は全力で反抗し、そんな憐太郎に勇気付けられた私達も反抗した。だから・・・いや、元から彼は憐太郎と言う存在が気に入らなかったんだろう。ガメラを『不完全な存在』にした異物で、かつて彼が愛していた美愛と私との間に生まれた子供・・・それだけで、理由としては十分なんだ。」
「・・・私が眠っている間に、レンに・・・そんな・・・!」





「気にしないで、紀子。僕はどんな理由があっても、どんな奴が僕を狙っていても・・・紀子を殺してガメラを奪うなんて言ったあいつを、絶対許さない。僕もガメラも、紀子だって!絶対あいつなんかに負けない!でしょ?」




一つの曇りも迷いも無い、強さと優しさの宿る目で紀子を見ながら、憐太郎は倒れる彼女に手を伸ばす。
目の前にある、いつだって自分にそうして全てに立ち向かえる限りない力をくれる、世界中の誰よりも愛おしい存在・・・そんな憐太郎への安堵の笑いを浮かべながら、紀子はその手を取って立ち上がった。




「・・・そうね。レンは、異物なんかじゃない。私とガメラにとって絶対にいて欲しい、世界で一番愛しい存在だから・・・」
「・・・まぁボクも、そう思うかな?会ってまだ一日しか経ってない、けど間違いじゃ無いさ。」
「この自衛隊員にも並び立つ程の勇気を、俺は否定しようとしたのか・・・だからこそ、今の俺は君の勇気を肯定する!」
「憐太郎は私と美愛の愛の結晶・・・私の自慢の息子だ!誰にだって、否定はさせない!」
「紀子、父さん・・・それに樹さんに亨平さん、ありがとうございます!」
「そんな我が子を、先輩は最初から殺すつもりだったんだ・・・!この兵器で!」
『攻撃対象の優先順位は、即時変更可能。
また、第一抹殺対象は第一攻撃対象より優先される。
そして、この全ての行動は逸見亨平によって行われたものとする。』
「何っ!?」
「じゃあ全部本当に、父さんの仕業になるじゃないか・・・!ふざけろよっ!」
「・・・俺は、最初から利用されていたと言う事か・・・!先輩に・・・土井平司に!!ならば、俺は徹底的に逆らってやる!樹を!能登沢の子供達を!傷付けさせる事なぞ、俺が絶対にさせんぞ!!」




亨平はタッチパネルの下に置かれた整備用の道具箱から大きめのハンマーを取り出し、渾身の力を両手に込めてタッチパネルを叩く。
アークに異常を生じさせる事で、エアロ・ボットの活動を強引に妨害・停止させる事が亨平の狙いであり、今の亨平にはこんな事しか出来なかったのだ。




『逸見亨平による、破壊工作を確認。
その行動をトリガーとして、逸見亨平を排除。
キルプロセス、第二段階に入る。』




しかし、亨平の反乱も想定にあった平司はアークに排除プログラムを仕込んでおり、排除プログラムに従ってエアロ・ボット全体に高圧電流が流れた。




「あがああああああああああっ!!」
「と、父さん!!」
「亨平!」




亨平の全身を感電死クラスの電流を襲い、失神した亨平は整備ベースから崩れ落ちる。
すかさず樹と晋が駆け寄り、ガメラの火炎・ギャオスの超音波メスでエアロ・ボットを牽制する隙に晋が亨平を抱え、エアロ・ボットから距離を取る。




「酷い・・・!亨平さんを利用して、用済みになったらあんな事をするなんて・・・!」
「許さない・・・絶対に許さないぞ!!土井平司!!」




憐太郎と紀子の、正義感からの正しい怒りに応えるようにガメラは立ち上がり、腹部の紋章が激怒の炎で燃え上がる。




「「ブレイ!インパクト!!」」




炎はガメラの全身を包み、憐太郎・紀子の叫びと共にガメラは炎を烈火球へと変え、エアロ・ボットへ発射した。
以前よりも大きさと勢いが増した烈火球は即座にエアロ・ボットへ直撃し、エアロ・ボットの周囲を爆炎で包み込む・・・が、エアロ・ボットはそれより前にE・シールドを展開し、烈火球を完全に防いでしまった。
間髪入れずにギャオスが鎌鼬を放つが、玉虫色の絶対の障壁はまるで隙を見せない。




『キルプロセス、第二段階。
第一抹殺対象を、能登沢憐太郎に変更。
本機は直ちに、能登沢憐太郎抹殺に入る。』




更にエアロ・ボットが、アークが淡々と告げた処刑告知。
それと共にエアロ・ボットは旋回して憐太郎ーー第一所有者が第一に消し去りたい忌まわしき存在ーーを捕捉し、キャタピラを高速稼動させて憐太郎へ向かって行った。




「逃げろ!憐太郎!今、あの兵器の狙いは、お前に変わった!」
「レン、逃げて!ここは私とガメラが食い止めるから!」
「ボクとギャオスも協力する、だから君は逃げるんだ!」
「・・・いや、何処へ逃げたって同じさ。むしろ、僕を狙ってくるならガメラとギャオスだって狙いを付けやすくなる・・・僕は、逃げない!あの兵器からも、土井平司からも!」
「駄目よ、レン!お願いだから逃げて!」
「今までとは違う!あの兵器は、お前だけを殺そうとしているんだ!だから逃げるんだ!憐太郎!」
「ヤケにならなくたって、他にもやり方は・・・」
「大丈夫、僕は死ぬ気なんて無い。あの兵器を壊して、みんなで家に帰るんだ・・・!だからこそ、僕は逃げたくない!!僕がおとりになるから、紀子と樹さんはガメラとギャオスにあの兵器をしっかり狙うように言って!」
「レン・・・じゃあ、私もレンの隣で最後まで戦う。こんな時だからこそ、私はレンの傍にいたいの。」
「・・・分かったよ。でもボクもギャオスも絶対に、君を傷付けさせはしないから。」
「それに、私も一緒だ。子を守るのが、親の仕事なんだから・・・!」
「ありがとう、紀子。樹さん。父さん・・・
さぁ、来い!僕は何があっても!何が来ようと!最後の最後まで諦めない!ここから一歩も下がらない!お前みたいな機械なんかに、土井平司なんかに!僕は、僕達は負けないぞ!!」




憐太郎は両手を広げ、迫る巨大なる暴意の化身を微塵も臆さない信念の瞳で睨み付けた。
彼の覚悟を受けた晋達も同じ眼差しで憐太郎に寄り添い、紀子と樹はガメラとギャオスに力を送り、ガメラは烈火球を、ギャオスは上空で槍形態となって突撃の準備をする。






「ふっ、ははははははは!!見たまえ、松田君!あのグリーンユース、遂に自暴自棄に陥ったようだよ!ははははは!!」
「そうですか。良かったですね、大臣。」
「おや?事がこんなにも、笑ってしまいたくなる程にグッドに進んでいるのに、君は嬉しくなさそうだね?」
「事を上手く進めるのは、当然の事ですから。私は一喜一憂する必要を感じません。それにしても、追い詰められた人間は本当に愚かですね?逸見亨平も能登沢憐太郎も、無駄と分かっていながら大臣に逆らうとは。」
「そこが面白いんだよ、人間とはね・・・『窮鼠、猫を噛む』とも言うじゃないか?極限まで追い詰められた人間の言動を見るのは、本当にグレイトだよ!!ははははははは!!」




現場が緊迫する一方で、離れた所から各々違う態度で動向を見守り続ける平司と明日香は、まるで冤罪で処刑される人間の様子をショーやフィクション・・・娯楽を見るかの如き気分で高みの見物を決め込む、招かねざる客のようであった。
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