本編







『サブアーム損傷率、67%。
レーザー収束率、7%に低下。
全体損傷率、17%。』
「くっ、何故だ・・・何故急に上手く行かないんだ!エアロ・ボット!貴様は全ての巨大「G」を駆逐するんだろう!だのに何故、たかが一匹増えただけで劣勢になっているんだ!えぇい、撃て!止まるな!!荷電粒子砲を、撃てぇ!!」
「止まるのは、あんたの方だ!」




その頃、全てにとっての「敵」となったエアロ・ボットの背部で1人、孤独な戦いに赴く本当の「敵」・・・亨平の元に、彼の予想もしない声が聞こえて来た。




「樹・・・!」




そう、ガメラとギャオスが戦う間に目的の場所に辿り着いた樹の声であった。
樹の隣には能登沢家・・・憐太郎・紀子・晋も並び、誰もが亨平を毅然とした表情で見つめる。
しかしそれは憎しみの眼差しでは無く、亨平を止めたい・・・樹の本心を届けたいと言う、決意の眼差しだった。




「あんた、何やってんだよ。なんで久々に故郷に帰って来て、故郷を滅茶苦茶にしてるんだよ。なんでボクからまた勾玉を、勝手に奪ったんだよ・・・なんで!相変わらず自分勝手なんだよ!」
「自分勝手だと?それはお前の方だろう、樹!何故ここに来た!何故能登沢達と一緒にいる!何故また、朱雀の巫子に戻っている!」
「何故かって?あんたを止める為だ。能登沢家がボクと本気で向き合ってくれたからだ。ボクは誰がなんと言おうと朱雀の、ギャオスの巫子だからだ!」
「ギャオス・・・まだガメラのような幼稚な名前で呼びよって!やはり、お前は痛みを伴わなければ理解しないようだな!だからこそ、俺は容赦無くお前の言うギャオスを、あのバケモノへ攻撃している!それはお前とて同じだ、能登沢の子供共!」
「痛みを伴ってでも、目を覚ますのはあんただ!どうしてそんなに、自分の考えだけが正しいって思えるんだ!最初からちゃんと見ても、いない癖に・・・ちゃんと、ちゃんとボクを見てくれよ!父さん!!」
「!?」




数年振りに聞いた、実の子・・・樹からの「父さん」と言う呼び名に動揺を隠せない亨平。
樹達も、漸く彼の固く閉ざされた心を開きかけたと思った・・・が。




「・・・今更、俺を父と呼べば!俺が言う事を聞くと思ったのか!そんな浅はかなやり方が、通用すると思うな!俺はもう、お前にも容赦はしない!お前もその覚悟で、バケモノと一緒になったのでは無いのか!」
「・・・なんでだよ。なんで、ちょっとは分かろうとしてくれないんだよ!ボクはあんたをまた、父さんって呼ぼうって思ったのに・・・あんたはボクの言う事を一つも聞いてくれなくて、ボクの母親代わりになってくれたギャオスを、バケモノ呼ばわりして・・・!」
「母親だと?お前の母親はもう死んだ!代わりなどいない!そしてあのバケモノが、母親になどなれるわけが無い!現実逃避は止めろ!世迷い言を言うな!」
「逸見亨平さん、お門違いを承知で言わせて頂きます・・・親子の絆とは、姿の違いで否定出来るものなのでしょうか?私は貴方にとっては『バケモノ』に近しい存在かもしれませんが、だからこそ分かります・・・樹もギャオスも、種族を越えた確かな『絆』で繋がって、互いに家族になろうとしている事を。互いの心の中の悲しみを、互いの『愛』で埋めようとしているんです。
それを、実の親の貴方が否定したら・・・樹の心は、誰が埋めてくれるんですか?実の親がいるのに、その実の親に全てを否定された樹の事を、誰が理解してくれるんですか?現実から逃げているのは・・・貴方です!」
「紀子・・・」
「樹さんと、紀子の言う通りだ・・・!紀子にはもう・・・両親はいない。けど、勇気を出して僕の父さんを『父さん』って呼んで、家族になれたんだ・・・それに僕も、父さんが苦手だった頃もあったけど・・・本当に僕が辛い時に、父さんは僕とちゃんと向き合ってくれて、だから僕も父さんと本当の家族になれたんだ!」
「憐太郎・・・」
「だから、樹さんとあなたもちゃんと向き合えば本当の『家族』になれる筈なのに・・・あなたはさっきから、樹さんの言う事を無理矢理ねじ伏せてるだけじゃないか!そりゃ、樹さんだって本気で嫌いになるよ・・・それなら樹さんと心と心で繋がって、心から愛してくれたギャオスの方が本当の親みたいだよ!それを家族ごっこだって言うなら、あなたが樹さんが望んでる本当の親になってよ!そうじゃないから、ギャオスは樹さんの親代わりになったんじゃないか!こうやって、自分勝手な事しかしてないあなたに・・・自分勝手な自分から、なりたい自分になろうとしている樹さんを責める権利なんて、無いんだ!!」
「レン・・・」
「・・・黙って聞いていれば、部外者の子供の分際で・・・!知った口を聞くな!!何様のつもりだ!自惚れるな、愚か者共!!「G」を擁護し、同化しよう等とほざく異常者の言う事が、通用すると思うな!!」
「そんな・・・」
「異常なのは、やっぱりあんたの方だ・・・!紀子を、ガメラを・・・異常だなんて、絶対に言わせない!!」
「・・・ボクはまだ、異常扱いされたっていい。でも自分勝手だったボクを本気で止めてくれて、なりたい自分になっていいって言ってくれた憐太郎と紀子を、異常呼ばわりするのだけは!ボクは認めない!」
「五月蝿い!!それ以上俺に意見するなら、子供だろうとエアロ・ボットに・・・」
「・・・亨平!」




頑なに樹達の意見を拒絶し続ける亨平を見て、晋は両手を強く握り締めたかと思うと、突然走り出した。




「な、何だ!し・・・」
「歯を、喰いしばれッ!!」




そして、その叫びと共に晋はエアロ・ボットの整備ベース・・・亨平の前に飛び乗るや、亨平の頬に強烈な右ストレートを浴びせた。




「ぐはああぁっ!!」




それはかつて、亨平が若き頃に見た親友ーー能登沢晋ーーの姿であった。





「えっ・・・!?」
「ほんとに思いっきり、ぶん殴った・・・」
「これが本人が言って・・・あっ!さっきじいちゃんが言ってた、あいつの昔の知り合いって・・・まさか?」




亨平の体は右ストレートの衝撃から、格子から弾き飛ばされんばかりに後ろに飛び、背中を格子に強打しながら崩れ落ちる。
話は聞いていたものの、その様子は感情的になっていた憐太郎達を即座に唖然させるには十分の、パンチの効いた光景であった。




「・・・何年振りだ?こうされるのは・・・懐かしいな、晋・・・学生時代はいつもこうしてお前に殴られ、間違いをせずに済んでいた・・・」
「自分の子供を異常者扱いされたら、私でなくてもそうする。親の子への愛とは、そうやって示すものなんじゃないのか?亨平・・・
自分の子供なんだからこうなるべきだ、こうするべきだと言う前に、自分が子供にとって恥ずかしくない親であるべきなんじゃないのか?子供が間違った事をするなら親がそれを止めるように、親が間違った事をしているなら子供はそれを止める、親子とはそう言うものじゃないのか?なら、今のお前はどうなんだ!樹君は何をしに、お前の所に来たんだ!樹君は今、お前に一体何を望んでいるんだ!」
「・・・」




「ほんと、そうだよ。ほんと恥ずかしいよ、この騒動を起こしてるのが自分の父親だなんて。その癖一つも悪びれる感じも無いし、他の誰が見てもおかしいって言われる事、してるのに・・・そう言う所が、昔から嫌いなんだよ!あんたがそんな事してるから、ボクだってこんな嫌な奴にならないと、いけなくなったんだろ!そうじゃないとボクは、自分って何なんだって分からなくて、おかしくなりそうなのに・・・!」




父親への・・・亨平への、行き場を無くした七年半もの間に溜まり続けた不平不満を、涙と共に少しずつ吐き出す樹。
晋によって頭を冷やした亨平も、先程とは一転して自分の子の言葉を、無言で聞いていた。




「ねぇ、分かる?好きでそうしたくも無いのに、スカートを穿いたり着替えの時に女子の裸を見たりするのが恥ずかしくなって、だからって男子と一緒にもなれない、ボクの気持ちが。何とかしてくれるって言ってる人がいるのに放置されたせいで体が弱くなって、学校にも行かせて貰えなくって、ボクを本当に求めてる存在との繋がりを絶たれて・・・それが全部親の仕業でそうなった、ボクの気持ちが!」
「・・・」
「なんでさ!親が子供の正直な気持ちを否定して、強引に型に填めようとして、全部「G」のせいにして!ふざけんな・・・!女としていたくないボクも、男として学校に行きたいって思ってるボクも、ギャオスの巫子としてのボクも、こうして自分を『ボク』って呼んでるボクも・・・全部、正直な自分なんだよ!それをあんたが、ボクが苦しんでる事も知らずにのうのうと、親らしい事をろくにやってない癖に、父親ぶるあんたが・・・否定すんなよ!!
ボクだって、ほんとの事を見つめていたいのに・・・ほんとはあんたを、嫌いになりたくなんて・・・なかったのに・・・!」




大粒の涙を流しながら、本当に言いたかった事を話した樹に対し、起き上がった亨平は無言のままエアロ・ボットから降りると、樹の前まで歩み寄り・・・




「・・・本当にすまなかったな、樹。お前は、俺の『息子』なのだと言う事を・・・今になって、ようやく分かって・・・すまなかった・・・!!」




一粒の涙と震える声、そして土下座と言う形で、樹の本心に応えたのだった。




「・・・七年遅いんだよ、ほんと・・・!」




樹は亨平を見下ろしながら一言呟き、足を屈めて亨平と同じ目線になって、ようやく自分の七年半来の本心が届いた事を、笑顔で応じた。




「樹さん、良かったですね!」
「やっと、お父さんに伝わったね・・・樹。」
「うん・・・ありがとう、2人共。」
「おめでとう、樹君。そう・・・昔から、外からの人や文化を受け入れて来た五島列島の人々・・・その心意気を受け継ぐ『亨』と、常に公平であるべしと言う思いの籠った『平』・・・本人が忘れがちだけど、お前の名前にはそう言う意味があるのに・・・と、夕和さんは時々私に言っていたよ。そしてそれは、樹君にも受け継がれていたんだ・・・ギャオスの巫子として。お前もそう思わないか?亨平。」




憐太郎と紀子、エアロ・ボットから降りた晋も樹の事を祝福し、晋は更に亨平に彼自身が本当にあるべき立ち位置について問う。




「・・・そう言えば、樹と同じ年の頃に親父とお袋からそう聞いたよ。最近は親父も忘れてるんじゃないかと思うくらい、聞く事は無かったがね・・・晋。そして憐太郎君に、紀子君か。本当に申し訳無かった。そして、本当に感謝する・・・!」




亨平は土下座の体勢のまま能登沢家の面々へ向きを変え、今度は彼らへ謝罪と感謝の意を示す。




「それは、樹君の望む父親になる事で示すんだ。言葉での埋め合わせなら、いくらでも出来る・・・お前なら、そう言うだろう?」
「僕も同じです。もう、家族で争うのはやめましょう。」
「一日でも早く、樹と本当の親子になって下さい。それが、私達の願いです。」
「・・・そうだな。俺も、そう思う・・・」
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