本編







「験司兄ちゃん、光先生、紀子の右手を僕に向けて。勾玉を持ってる右手。」
「ええ・・・でもどうしたの、能登沢君?」
「紀子を・・・ガメラを、起こす。その為に、ヒビ割れた勾玉を元に戻すんだ。」
「今さっき、ギャオスの勾玉が戻ったみたいにか?どうやって・・・」
「すぅーっ・・・
のりこーーーーーーーーっ!!
おきてーーーーーーーーーっ!!
のりこーーーーーーーーーーっ!!」




海岸では、突如として憐太郎の絶叫が響き渡っていた。
あまりに突然の大音量に、験司達だけでなくギャオスとのリンクに集中していた樹や子ギャオス達をも、一斉に憐太郎の方を見る。




「な、なに?」
「び、びっくりしたぁ・・・」
「おれにも負けねぇデカい声だぜ・・・」
「起きてって、モーニングコールの事?」
「おいレン、何考えてやがんだ!?」
「ふうっ・・・さっき、験司兄ちゃんが言った通りだよ。樹さんの強い思いが、勾玉を元に戻した・・・だったら、僕も心から強い思いを勾玉に込めれば、きっと・・・」
『ノンノン!それはちょっと違うよ、レンタ君?』




誰もが憐太郎の行動に動揺する中、ただ1人平常心を保ったままのパレッタが右手の人指し指を振りながら、憐太郎に歩み寄る。




「えっ?と言うか、レンタ君?」
『そこは今は気にしないっ☆あたしが言いたいのは、ただの絶叫大会をやってるだけじゃ、いつまで経っても紀子ちゃんは起きてくれないって事!』
「で、でも僕はちゃんと紀子とガメラに起きて欲しいって思いながら、勾玉に・・・」
『勾玉に「想い」を込めるのは正解よ。でも、具体的に何を込めるの?』
「具体的に・・・?」
『じゃあ、レンタ君にとって紀子ちゃんはどんな子なの?』
「紀子は僕の大事な、間違い無く世界で一番大切な・・・好きで・・・愛おしいって感じの・・・」
『そうそうっ!それだよ、レンタ君!』
「えっ・・・?」
『勾玉は巫子が込めた感情をガイアの「G」の形の一つの「マナ」に変換して、ガイアの「G」として四神に注ぎ込む「G」。あたしはそう考えてるんだけど、プラスの感情を込めれば込める程四神は正しく強くなって、逆にマイナスの感情を込めれば四神は間違って強くなっちゃうと思うの。万物は「創造」と「破壊」の二面性で出来てるように・・・』
「マイナスの感情・・・やっぱりガメラと戦った後、樹さんのお父さんへの憎しみの力を受け取ったギャオスが暴走したみたいな感じになったのは、それが原因だったのか・・・!」
『なら、プラスの感情・・・生き物全てを動かす一番の感情をきちんと込めないと、あまり意味は無いと思うわ。そうねぇ・・・例えば、眠り姫を起こすには?』
「眠り姫を・・・あっ。」




ここで憐太郎は漸く、自分の理論の最適解を導き出した。
しかし、それは憐太郎にとってはある意味最もやりにくい手段であり・・・




「眠り姫を起こすには・・・そうか!きす・・・」
「ちゅー、だっ!!」




親友による手段の断言に、憐太郎の顔はみるみる内に赤くなって行く。




「あのじゃりん子共、はっきり言いやがった・・・」
「もう、遊樹君も城崎君も・・・」
「これで余計、憐太郎にとってやりにくくなってしまったね・・・」



ーー今のこの空気と、彼女の雰囲気で流されがちだけれど・・・パレッタさんが能登沢さんに言っていた事は、四神と巫子の・・・いえ、ガイアの「G」の本質に触れていたように思えるわ・・・
エアロ・ボットや遊樹さんと城崎さんをここに連れて来たと言う、確かな証拠はあるとは言え・・・本当に千年以上は生きている爾落人なのか疑問に思っていたけれど、自ら「G」の探求家と名乗る事はあるのね・・・
あとは、貴方が彼女を起こすと言う形でそれを示せるか、よ。能登沢さん・・・




「お、おちつけ僕・・・いつかは、いつかはやる事じゃないか・・・!僕は紀子のボーイフレンドで、紀子が好きで、愛してるんだから・・・そ、それに中学生ならもうやってたって、お・・・おかしく・・・ない事なんだから・・・!!」




心臓が破裂しそうなまでに胸を高鳴らせながら、憐太郎は「眠り姫」の寓話の王子様に習い、紀子の顔に唇を近付けて行く。
・・・が、誰もが「美少女」と疑って間違いのない紀子の端整な美貌・・・無意識で無防備だからこその易々とした接近が、逆に憐太郎の羞恥心を急激に刺激し、いつもは平気な筈の彼女の顔の直視すらも不可能にしてしまい、反射的に紀子から顔を背けてしまう。



ーーだ、ダメだっ・・・!
紀子の顔も見れなくなっちゃってるよ・・・!
ダメだダメだ!!こんなだらだらしてる暇なんて無いのに・・・!




「は、早くしちゃいなよ、レン・・・!」
「守田さんとちゅーできる、最強のチャンスだぞっ!」
「こら、遊樹君も城崎君も静かに・・・!」
「ったく、歯痒いったらありゃしねぇな・・・キスなんか、オレは蛍とは付き合い始めてからとっとと済ませたってのによ・・・」
「ちょっと、験司もさりげなく何言ってるのよ!」
「「そ、そうなんだ・・・!」」
「仕方ないよ、験司君。これはきっと能登沢家の血なんだ・・・私の時も、美愛の方から先だったからね・・・」
「えっ、マジですか?」
「・・・ボク、何でいきなりラブコメ紛いなの、見せられてんだろ?」




他の面々は小声で本音を呟きながら、固唾を飲んで憐太郎を見守る。




『さっ、レンタ王子様♪早く眠り姫に目覚めの口付けをっ☆』
「わ、わわわっ、分かってます・・・!そ、そうだ、このまま目をつぶれば何とか・・・!」




憐太郎は苦しみ紛れの手段として、自分と紀子の唇が同じ平行線にある事を確認すると、目を瞑って少しずつ紀子に顔を近付けて行く。



ーーは、初めての・・・初めての・・・!!
ごめん、紀子・・・初めてが、こんな形になっちゃって・・・
でも、僕は・・・また、君の笑顔が見たい・・・
君に・・・会いたいんだ・・・!




紀子への愛しい思いを込めながら・・・偶然に、勾玉を握る紀子の右手を手に取る憐太郎。
すると、その時・・・紀子の右手から、緑色の光が溢れ出た。




「・・・えっ?これって・・・」
「・・・レ、ン・・・?」
「!?」




その「声」・・・ここにいる誰も聞きたいと願っていた、か細い声と共に光が収まり・・・
紀子が、目を覚ました。




「の・・・のり・・・!」
「・・・レン、ありがとう。貴方が、私を起こしてくれたのね・・・聞こえたよ、レンの声・・・」
「紀子・・・っ!!」




憐太郎は両手で紀子の肩を掴んで起こし、そのまま彼女を力強く抱き締めた。
口付けこそ叶わなかったが、言葉では現せない程の歓喜からの憐太郎の、ウブさが有名である彼がすると思ってもみなかった行動に、一同は紀子が起きた喜びが驚きに上書きされてしまう。




「の、能登沢君が・・・!」
「「レンが・・・守田さんにハグした!!」」
「えっ?そんなに驚く事?リア充の癖に?」
「樹君、さっき言った通り憐太郎は遺伝による奥手さがあってね・・・あれでも、よくやった方なんだよ。でも良かった・・・紀子が、無事に起きてくれて・・・」
「・・・やったじゃねぇか。レン。」


ーー・・・やはり、四神に最も力を与える感情。
それは・・・「愛」なのね。
それなら、あの2人が・・・能登沢さんがガメラに最も力を与えられる理由も、ガメラが能登沢さんを必要とする理由も、何処と無く納得出来る・・・
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